ミセカイを通して千鎖とアマアラシが見つけた救いの光 “視る音楽”を奏でた1stワンマン

「私が今ここで生きている限りは、この曲(「催涙夜」)を大切な人のために歌えるしそのたびに話しかけられる」(ボーカル・千鎖)
「一人暮らしの小さい防音室の中で淡々と曲を作って誰に聴かれるかもわからない状況で歩みを進めていったものが、今こうやって……ちょっと泣いちゃいそう」(ボーカル&コンポーザー・アマアラシ)

2024年4月20日、東京・池袋harevutaiのステージ上で涙ぐみながらこのように語った男女混声ユニット・ミセカイ。2月7日にリリースされた1stアルバム『Artrium』の収録曲を中心に披露された1st Oneman Live『Live Artrium』の終演後、ステージ上の記憶と彼らの楽曲を重ね合わせると、ひとつの映像が頭の中に映し出された。それは、ステージに立った千鎖とアマアラシの姿が、2ndシングル曲「104Hz」の歌詞に登場する、地球上で最も孤独な鯨と重なった映像だ。互いに目を合わせながらダイナミックに歌い上げたサビの歌詞〈聴こえなくとも誰かを想い鳴いている〉は、これまでの二人の歩みと重なり、やけにリアリティを帯びていた。

ギター、キーボード、ベース、ドラムのバンド編成。アマアラシは、高らかに手を上げて「初めまして、ミセカイです。最後までよろしくお願いします」と告げ、ライブは「104Hz」から幕を開けた。千鎖とアマアラシによる、バランスの取れた繊細で力強い歌声は、対話するように深い場所で絡み合う。ステージ前面の透明な紗幕に浮かぶ歌詞も感動を誘う演出だった。陰影に満ちたピアノの音色が奏でられた「Re-plica」は時折、視線を落とし感情を込めて歌う。その姿は雨に打たれながらも力強く立ち続ける花のようだった。

ミセカイの作品は、イラストレーターによる一枚絵や写真家による写真などから物語を紡ぎ出すユニークなコンセプトに基づいている。この日、元となるイラストやMVが背後のスクリーンに映し出された。他者による一枚絵の情報から一つの楽曲に昇華させる作業は、大きなプレッシャーを伴うことだろう。しかし、アマアラシは作品一つひとつとしっかり対話をしながら、聴き手の心に深く響く音楽を生み出している。なかでも、丁寧に歌詞を紡ぐ千鎖とアマアラシの歌声から、自分たちに収まらず様々な人の想いを背負っているのが強く感じられたのは、「藍を見つけて」。空間を伝う言葉は重く、緊張感に満ちていたが、逆にそれが作品に込められた深い意味を際立たせていた。曲の終盤、アマアラシの月に吠えるような声や二人の絶妙なコーラスワークと、雄大なバンドサウンドの融合に息を呑む。

ハイライトとなったのは、千鎖とアマアラシの弾む歌声と、手拍子で会場一体となった「カラフル」、ギターの残響が響き渡った「浮きこぼれ」の演奏後、ゲストボーカル・泣き虫☔︎を中心に迎えた「コインロッカーベイビー feat. 泣き虫☔︎」だった。真っ赤なライトを浴びる中、イントロや間奏で顔を出すギターフレーズとヘドバンを大胆にシンクロさせる泣き虫☔︎は、まるで空中飛行し、瞬間的に輝きを放つ魚のようだ。聴覚だけでなく視覚も刺激する、3人の個性溢れるステージはまさに“視る音楽”といえた。

激情的な歌声が放たれた「C.A.E.」、アコースティック編成の心地よさに包まれた「スクレ」、複数の一枚絵から生まれた「唄を教えてくれたあなたへ」……EDMからクラシックへのオマージュまで、幅広いジャンルを横断し感情が揺り動かされるミセカイの作品。特に「スクレ」では、千鎖の柔和な歌声に寄り添うアマアラシの歌声が、二人の絆を感じさせた。

「正直、人生で予測できないことはなかった僕ですが、(自身の)結婚と今回のライブチケットの即完売は、唯一の想定外でした」(アマアラシ)

完璧主義ゆえにワンマンライブへの挑戦を躊躇していた。ライブは普段から控えめな頻度でちょうど良いと考えていた。そう打ち明けるアマアラシの発言は、これまで多くのことを諦めて生きてきたという解釈も可能だった。制作における孤独感との戦いを語り、「誰にも聴いてもらえないことは、音楽家にとって命取り」と話した途端、この日の景色を前に感極まる様子を見せる。かつては孤独に苦しんでいた彼の音楽はミセカイをきっかけに生命力に満ち溢れ、諦念に支配されていた日々を脱却し、新たな可能性に向かって歩み出すチャンスを掴み始めた。「(曲が誰かのもとで羽ばたくために)音楽に命をかけてきた」。この日繰り返した言葉が報われた瞬間でもあった。MVに映る女性の泣き顔が、MCと重なり、楽曲にリアリティとドラマ性を吹き込んだ1stシングル曲「アオイハル」。澄み渡るハーモニーが「Ever」を彩った。

ミセカイのコンセプトのきっかけであり、音源化されていない「博世界」を最後に届けたアンコール。今年の1月中旬、千鎖は最愛の親族が最期を迎える病室で、家族からの提案でミセカイの「催涙夜」を聴かせたエピソードに触れた。例え、相手に聴こえなくても話しかけることの大切さを教えてくれたミセカイの曲。そして、千鎖のエピソードが新たな世界を展開した。

ミセカイの作品が千鎖とアマアラシにくれた贈り物……それは、真っ暗なトンネルの終わりに見えた救いの光。「104Hz」の最後のサビにある〈泳げたら幸せだと 上を向く虚な顔が一つ〉というフレーズのように、ミセカイという存在が、二人の音楽人生における生命線を、力強く引き伸ばしてくれたように思えた。

(文=小町碧音)

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