「自分が求める最高の笑顔が見られて、本当に帰って来て良かった」。大相撲春場所、新入幕力士として110年ぶり、青森県出身者では27年ぶりの優勝から1カ月余。1日の凱旋(がいせん)パレードに臨んだ尊富士(25)は「地元ファンに向き合いたい」との願いを実現させ、場所中の厳しい表情とは打って変わって柔和な表情を浮かべた。次は三役、大関、さらには師匠伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士、つがる市出身)以来県人7人目の角界最高位へ期待は高まる。「県民が喜ぶ相撲を」が信条の新星は、古里の後押しを力に再び歩み出す。
今年の初場所、頂点に立った部屋の横綱照ノ富士の優勝パレードの旗手、続く自身の春場所直後のパレードを「ドラマを見ているよう」と例えた。その一大セレモニーの第3幕となる地元五所川原市への凱旋。名峰岩木山、別名・津軽富士を望む古里で、大相撲史に名を刻んだもう一つの「富士」は、市内2カ所の沿道に陣取ったファン約計5万5千人(同市発表)による万雷の拍手と「最高」「日本一」の大声援に包まれた。
尊富士は同市金木小の卒業文集で「強くなっていき将来日本を、明るくして…」と思い描いた。史上最速、右足のけがを乗り越え初土俵から10場所目で現実にした勝負師は「青森県で応援してくれる全ての人の夢になりたい」「地元の応援があるからこそ相撲を続けられる」と古里への思いも人一倍強い。
同市金木町地区では「皆さんの良い笑顔をまた見られるよう、これからの相撲人生、精いっぱい頑張る」と述べた。市中心部では「年配の方の夢になり、お子さんの希望になりたい」と決意を語った。
春場所では日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)をはじめ親方衆や専門家、好角家をスピード感あふれる出足でうならせた。尊富士は「雪道を歩いたから。雪しかない街と思っているぐらい」と話すなど、故郷で培った土台が今につながる。
厳しい冬を経て、春から夏へ。暑い季節を控える古里で「もっと強くなり、青森県、五所川原市、金木町の活性化につながるような相撲を取り、全国から(地元に)人が訪れるようにしていきたい」との熱い思いを口にした。
右足の痛みはまだ残り、夏場所(12日初日、両国国技館)への出場はまだ不透明な尊富士。だが古里の熱狂に包まれたホープの闘争心はより一層燃えたぎる。「スポーツをやっている以上、けがはある。それを超えないと強くなれない」。当面の目標とする三役挑戦への闘いは続く。