「何とか経営は継続しているが...」苦しむ地方の“訪問介護”事業者 3年に1度・国の「診療報酬改定」でさらなる追い打ち

日常生活を送ることが難しい高齢者に対して、ヘルパーが身の回りの世話をする「訪問介護」についてです。

2022年度には、全国で約157万人がこのサービスを利用しています。多くの利用者がいる一方で、地域で暮らす高齢者らを支える「訪問介護」サービスがいま苦境に立たされています。

いったい何が起きているのでしょうか。実態を取材しました。

一人暮らしの高齢者に欠かせない「訪問介護」がいま...

岡山市内のアパートに一人で暮らす、相賀せつ子さん(81)です。

早速、ヘルパーが手際よく部屋の掃除を始めます。相賀さんは腎機能が低下し、4年ほど前から人工透析を行うようになりました。また、階段で足を踏み外しけがをした影響で、重い荷物を持つ事が難しくなったといいます。

(訪問介護サービスを利用 相賀せつ子さん)
「昨日なんかも透析して帰ったらえらくて(しんどくて)頭が痛くて、吐き気が…透析から帰ったら、いつもなるんです。もう80過ぎたらやはり、えらい(しんどい)です」

相賀さんは、週2回ホームヘルパーに「ごみ出し」「部屋の掃除」を頼み、生活を支えてもらっています。1回30分のサービスですが、慣れ親しんだ地域で暮らすためには欠かせない存在です。

(相賀せつ子さん)
「1人でしようと思ったら、ちょっと無理じゃね。全部、風呂の掃除からトイレの掃除から、週2回来てもらってるんだけど助かってます」

苦しむ訪問介護現場 原因は「介護報酬改定」にあった

自宅で暮らす高齢者らの生活を支援する、訪問介護。2022年度に実施した厚生労働省の調査によると、身の回りの世話などの訪問介護を受けている人は、全国に約157万人いるということです。

多くの利用者がいる一方で、いま、業界全体が苦しんでいます。

(岡山医療生活協同組合 岡本和子さん)
「何も分かってもらえていない」

(ヘルパーステーション・まごころ 川口泰子所長)
「下がるということはちょっと理解していただけてないのかな」

介護現場の職員らから聞かれたのは、悲痛な声。その背景には、国が今年度実施した介護報酬の改定があります。

職員の賃上げなどを目的に行われた、3年に1度の介護報酬の改定。特別養護老人ホームやデイサービスなど、ほぼ全てのサービスで職員の基本報酬が増額されました。

一方、ヘルパーが行う訪問介護サービスだけは2%~3%の減額。事業者の主な収入源が減らされたのです。いったい、何故なのでしょうか?

訪問介護サービスだけがなぜ「報酬減額」なのか?

(武見敬三 厚生労働大臣)
「介護事業経営 実態調査における『サービス収支差率』はご指摘の通り7.8%。それから、介護サービス全体平均の2.4%に比べて相対的に高いことなどをふまえました」

厚労省は、「訪問介護サービス」の報酬減額の理由として「ほかの介護サービスより利益率が高い」ことを挙げています。一体どういうことなのでしょうか。

2024年度の介護報酬の改定。国が「訪問介護サービスだけを減額した理由」として、「平均の利益率が7.8%と他のサービスと比較して高いこと」を上げています。

高利益の要因のひとつに挙げられるのが、都市部などの大きな事業者が運営する「サービス付き高齢者向け住宅」です。

「サービス付き高齢者向け住宅」は、介護事業所が併設され、食事や掃除などのサービスが提供可能なマンションのことで、「サービス付き高齢者向け住宅」も職員らが自宅を訪問する「訪問介護」のひとつです。

職員の移動コストが削減され、高い収益性があげられれます。また、都市部では利用者が密集しているので、「自転車移動で楽に訪問が可能」ということも挙げられています。

こういった住宅を運営する都市部の大きな事業者が、主に黒字経営になっていると言われています。

一方で、厚労省の新たな調査によりますと、「訪問介護事業者の4割近く・36.7%が赤字経営」だということが判明しました。その多くが、地方の1軒1軒の自宅を回る中小・零細事業者です。

都市部と地方では状況が全く違うのに...

岡山市中区のヘルパーステーション・レインボーです。「高齢者に寄り添ったサービスを提供する」をモットーに、28人の介護職員が161人の自宅を1軒1軒回って暮らしを支えています。

ー1日で多くて何軒回る?
(ヘルパーステーションレインボー 介護職員)
「私は最大5軒までです。だいたい1軒目に行かせていただいて、2軒目に行く時に『トイレ休憩7分間くらい』」

ー分刻みなんですね
(介護職員)
「割とそうですね。時間通りに進まないと」

岡山市内で暮らす高齢者らを、20年近く支えている訪問介護事業所。ただ、その経営状況は芳しくありません。

(ヘルパーステーションレインボー管理者・サービス提供責任者 木村教代さん)
「何とか経営は継続しているんですけど、10年以上ですね。もう赤字経営ですね」

地方では特に車を使い自宅を訪問するため、都市部と比べガソリン代や駐車場代などの経費が多くかかります。レインボーでは「物価高」「コロナ禍」などで赤字が続き、2019年度からの平均赤字額は約1千万円に上るといいます。

(ヘルパーステーションレインボー管理者・サービス提供責任者 木村教代さん)「私どもは、法人です。赤字のところは、黒字の方が補ってくれているので何とか経営は継続しているんですけど、個人でやられている事業所は『倒産』いう形で経営をやめてしまうところあります」

相次ぐ倒産 困るのは訪問介護サービスを受ける人たち

東京商工リサーチの調査では、2023年、全国で67件の訪問介護事業者が倒産。このうち「従業員が10人未満」の規模の小さい事業者が8割が占めています。そこに「報酬改定」が追い打ちをかけたのです。

事業者の収入源である「介護報酬」が引き下げられれば、もう経営が成り立たない…報酬改定は、地方事業者の倒産を加速させるのではと話します。

(ヘルパーステーションレインボー管理者・サービス提供責任者 木村教代さん)「誰もが『在宅で住み慣れた地域で生活したい』という気持ちを支えるのが、訪問ヘルパー。将来的に自分が年をとった時に『お金がないと介護ができない』という状態なので、ちょっと厳しい時代になってきているなとは思ってますね」

都市部と地方、経営状況が二極化しています。

【解説】
(春川正明コメンテーター)
「この問題を考えるうえで、キーワードの一つが『地域包括ケア』という考え方なんですね。厚生労働省が中心に全国で進めているんですけれども、意味は『可能な限り、住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けるようにというケアシステムを作ろう』ということで、全国に地域包括センターもあるんですね」

「介護を経験したことがない人が最初に相談するのが地域包括ケアセンターで、これを地方中心に地道の支えているのがきょう取り上げた訪問介護の人たちです」

「介護制度はできて14年ぐらいになるんですが、実際に支えているのは小規模の事業者なんですね。そこの人たちへの報酬が下がってしまう、これはとっても大きな問題だと思います」

(取材した坂井亮太キャスター)
「都市部と地方で経営状況が二極化していますから。国には持続的な介護サービスを受けられるためにも現場の声に耳を傾けていただきたいと思います」

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