『虎に翼』伊藤沙莉・寅子のモデル三淵嘉子さんの教え子『行列』住田弁護士が話す「ふんわりワンピース」の自然体姿

猪爪寅子役・伊藤沙莉 ※画像は朝ドラ「虎に翼」公式X(旧ツイッター)『@asadora_nhk』より

4月から放送されているNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』が大反響をよんでいる。初回平均世帯視聴率は16.4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ/以下同)と好発進。その後も話題を呼び、4月17日放送の第13話、4月19日に放送された第15話では16.9%と番組最高視聴率をマーク。週単位の平均視聴率も初週16.2%、第2週16.4%、第3週16.5%と絶好調なのだ。

4月30日に発表された第4週も16.3%と番組は、高視聴率をキープし続けており、着実にファンを増やしているのがうかがえる。同ドラマが人々を惹きつける秘訣は、これまでにない“しなやかなヒロイン”像にあるようだ――。

スポーツ紙記者が話す。

「110作目となる朝ドラ『虎に翼』で伊藤沙莉(29)演じる猪爪寅子(いのづめ・ともこ)は、日本初の女性弁護士で、後に裁判官、そして女性初の裁判所長も務めた三淵嘉子さん(1914年-1984年)がモデルです。ドラマは実話に基づきながらも、あくまでフィクションとして制作されています」

およそ朝ドラといえば、女性が困難な道を切り拓くべく奮闘するというのが王道パターンで、その点では『虎に翼』も同様だ。しかし、そうした系譜にあって、寅子は他の朝ドラ主人公とは大きく異なる点があるという。“女性初”モノや、男社会で女だてらに――というドラマの女主人公にありがちな「ヒステリック気味にでも頑張る女」「不条理に耐える女」ではないからだ、と弊サイトの取材に話すのは、ドラマ評論家の吉田潮氏だ。

「ドラマ内で法律を勉強している寅子は、もともと自身の幸せが結婚の先にあるとは思えないタイプ。ただし、家を切り盛りする母に敬意を持つなど、他人(ひと)の生き方は否定しないんです。男が上だとも女が下だとも思っておらず、男を蹴散らしたいわけでもない」(吉田氏)

一方で、自身が感じた疑問にはハッキリと反論する。

「ただただ、法律上“女は無能力者”とされていることや、女は男の前ではニコニコして下手に出なくちゃいけないなど、理不尽だなと思ったことに対しては”はて?”と正面切って理路整然と反論する。しかし、その“反論”はあくまで寅子にとって“素朴な疑問”。単純に“なぜ女が制限されなきゃいけないのか”という部分に疑問を感じているだけなんです。それが真理を突いているため、見ている側は気持ちがいい」(前同)

■「寅子」の魅力は“刷り込みに惑わされない”こと

『虎に翼』のヒロイン・寅子(伊藤)は朝ドラ主人公にありがちな”なにくそ!”と、がむしゃらに髪を振り乱したりもしなければ”こうあるべき”とも口にしない。たとえば第10話で、姉が男に売られ、騙された過去から”法律は武器だ”と考えるようになった同級生のよね(土居志央梨・31)に対して寅子が、自身は(“武器”よりも)“盾”や“居場所”のような存在になりたいと述べるシーンがある。

真っ向から対立する意見に議論を諦め、寅子に背を向けるよねに対し、寅子は「怒り続けることも弱音を吐くのと同じくらい大切」と声をかける。

そうした寅子の言動の数々には、《疑問を持ったことをすぐに言葉にできるの本当にすごい》《受け入れて寄り添うという寅子の懐の深さに感動》などとX(旧ツイッター)上でも、スッキリした、と感じる声が上がっている。

前出の吉田氏が続ける。

「寅子は分断を好まず、わかり合おうとすることを諦めない。”世間って、そういうものでしょ”といった思い込みや、“共感”という名の刷り込みに惑わされないんです。逆転の発想ができる人で、苦難があっても、頭で考えて“良い方向”へと導くことができる賢さがある。

自分にも他人にも寅子が一貫して大事にするのは、“自分の人生を他人に奪われないようにする”こと。決して押しつけがましくなく、思い込みや刷り込みがなければ自分はどうなのか、と考えさせられる道標になるのが寅子なんですよね」

寅子が画面上で”はて?”と首を傾げるとき、そこにはふだん”世間の常識”で片づけられてきたものの、多くの人が気がづかないフリをしてきた出来事が見え隠れする。では、寅子のモデルとなった三淵さんはどのような人だったのだろうか。

■住田弁護士に強烈なインパクトを与えた「三淵所長」

かつて『行列のできる法律相談所』(現『行列のできる相談所』/日本テレビ系)で”史上最強の弁護士軍団“メンバーの1人として活躍。数多くの情報番組にも出演し、現在では『かんさい情報ネットten.』(読売テレビ)でコメンテーターを務める住田裕子弁護士は、司法試験合格後の司法修習生時代に、『虎に翼』の寅子のモデルである三淵さんと会ったことがあるという。弊サイトの取材に対して住田弁護士が、その人柄を振り返る。

「司法修習地は浦和で、修習先の一つである家庭裁判所に三淵所長がおられたのです。裁判所の所長は男性ばかり。噂にお聞きしていた三淵所長にお会いできて、大感激でした。

挨拶にうかがうと、夏だったこともあって、堅苦しいスーツではなく、ふんわりとしたワンピース姿。大振りのお帽子が壁にかけてあり、ステキ、おしゃれ……と、うれしくなったのを今も覚えています。優しい言葉をかけていただき、ニッコリとほほ笑まれたお顔がまた柔和でね」(住田弁護士)

女性初の裁判所長となった三淵さんだが、”男まさり”なタイプではなかったと住田弁護士は述懐する。

「女が法曹界で生きるためには、いわゆる“男まさり”という言葉どおりでないとやっていけない時代もあったんです。当時は“男性以上に男性的”という厳しい姿勢の方も多く、その後、男女平等が叫ばれるようになってからも、男性と同等に渡り合おうとするためか、相変わらず女を捨てるような、いかついイメージの方もけっこういらっしゃいました。

一方で、三淵所長は(法曹界で女性が活躍する)草分けでありながら、肩肘張らずに自然体。周囲からも一目おかれる存在でした。人としても女性としても魅力な方で、法律家の道を歩み始めた私にとって、強烈なインパクトでしたよ」(前同)

■三淵さんを映し出す「寅子」の姿

人気テレビ番組にレギュラー出演し、弁護士志望者にとって憧れの存在ともなった前出の住田弁護士。その住田弁護士は三淵さんのことを、「法曹界で自然体に振舞うまでには多数の事件を経験され、苦い想いなども経ていたからこそ。自信の根源もそこにあったのでしょうね」と推察する。そして、その後、女性法律家協会の会長になった三淵さんのことを、「女性法律家の憧れの存在として駆け抜けられました」と敬愛するのだ。

住田弁護士が三淵さんと過ごしたのは、10日程度の家裁修習の期間のみ。それでも住田弁護士に強いインパクトを残した三淵さん。女は男まさりでないと”男社会”を生き抜けないというのは“刷り込み”でしかないと思わせる自然体の姿は強く印象に残ったようだ。その姿は、ドラマ『虎に翼』の寅子そのものと言ってもいいのかもしれない。

寅子の姿が目新しく映るとしたら、制作者にも視聴者にも”朝ドラのヒロインはこういうもの”という”刷り込み“があったからではないだろうか。そんな刷り込みは、寅子に言わせれば”はて?”そのものだろう。

ドラマでは、弁護士となるための試験を女性が受けることがようやく認められたばかりだが、寅子が今後、どんな”はて?”を示していくのか、注目したい。

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