【社説】中国で消息不明 統制強化で人権を侵すな

国家の安全を強化する必要があっても、人権をないがしろにしてはならない。中国の習近平政権が進める統制強化に怖さを感じる。

日本に住む中国人研究者が一時帰国中の中国で失踪する事案が相次いでいる。

中国籍の亜細亜大教授が昨年2月に帰国して以降、消息不明になっていることが最近明らかになった。

これについて中国外務省は記者会見で「状況を把握していない」としているが、消息を絶つ前に中国当局者の接触を受けており、拘束された可能性がある。

今年3月には、神戸学院大の教授が昨年夏に帰国してから消息がつかめないことが明らかになった。不可解な点が多く、心配な状況だ。

中国当局は2019年に、北海道教育大の教授だった中国人をスパイ容疑で拘束し、後に起訴している。

国家安全を重視する習政権は「スパイ」の摘発を強化している。日中双方の情報を持ち、幅広い人脈を持つ日本在住の中国人研究者を標的にしていると指摘される。

日本人を含む外国人の摘発も少なくない。昨年3月、アステラス製薬の日本人社員がスパイの疑いで拘束され、同年10月に逮捕された。14年の反スパイ法施行後、少なくとも17人の日本人が拘束されているのは看過できない。

中国は23年に反スパイ法を改正し、取り締まりを強化した。当局が「国家の安全と利益」に関する情報の提供、収集の疑いがあると判断すれば摘発できるようになった。

亜細亜大教授の失踪について、林芳正官房長官は記者会見で「人権に関わり得る事案であるため、関心を持って注視している」と述べた。

日本在住者の身辺を危うくする問題である。日本政府は中国に対し、速やかに事実関係を調査して報告するよう求めなければならない。

アステラス製薬の事案を受け、当時の垂(たるみ)秀夫駐中国大使は拘束された社員への領事面会に臨み、後任の金杉憲治大使も面会した。

大使による面会は異例だ。早期解放を求める日本政府の姿勢を中国側に強く示す行動と言える。評価したい。

日中関係は重要だが、人権侵害に関することで中国政府に遠慮する必要はない。問題があれば、毅然(きぜん)として適切な対処を要求すべきだ。

スパイ摘発を目的とした法の不透明な運用や拘束は、中国の利益にならない。

最近は中国問題を専門とする日本の研究者や友好団体の関係者も、不当な拘束を恐れて訪中を控えている。日中交流への影響は大きい。

外国企業では中国への社員派遣や投資をためらうだけでなく、現地から撤退する動きも出ている。中国経済には軽視できない打撃だろう。

日本政府はこうしたマイナス面を中国に説き、拘束された人の早期解放と反スパイ法の見直しを訴えるべきだ。

© 株式会社西日本新聞社