初出店から40年! ビジネスホテル「東横INN」がついに悲願の全国制覇へ (重道武司)

都内の東横INN(C)日刊ゲンダイ

【経済ニュースの核心】

全国制覇──。47都道府県にあまねく自社のブランドとロゴを行き渡らせる。小売りや外食チェーンの経営者の到達目標の一つとされるが、ホテル業界では異例だ。

ビジネスホテル「東横INN」などを展開する客室数業界最大手、東横イン(東京・大田、社長・黒田麻衣子)の高知県進出が決まり、先週から建築工事が本格的に始まった。2026年2月開業を目指す。

■唯一の“空白区”

実は高知県は同社にとって国内に残る唯一の“空白区”。しかも10年に三重県進出を果たして以来、15年近く放置されてきた経緯がある。それだけに関係者の一人は「ようやく最後のピースを埋めることができる」と感慨を募らせる。

東横インが東京・蒲田に1号店を開設しホテル事業に参入したのは1986年。そこから全国制覇までに40年の歳月を費やす形となる。

高知進出に無論、同社としても手をこまねいていたわけではない。県都の高知市を軸に立地を模索し続け、これまでに「5カ所が候補地として浮上した」(事情通)という。しかし経済・社会環境の変化などからいずれも頓挫した。

土地のオーナーにホテルを建ててもらい、それを丸ごと借り上げて自らは運営に特化する、というのが東横インの基本的なビジネスモデルだ。その方が早期大量出店が可能なうえ、資金調達や減損など資産価値下落のリスクを減らせる。ただ高知ではオーナーとなかなか折り合わず、最終契約に至らなかったようだ。

そうしているうちに襲ってきたのが新型コロナウイルス禍だ。行動制限に伴う企業の営業活動自粛などでビジネス需要は一気に蒸発。コロナ禍前の2019年3月期で907億円あった売上高は21年3月期には429億円へと半減超に。141億円の黒字だった営業損益は160億円の赤字に転落した。

そのコロナ禍がほぼ収束したことで今回「悲願」(関係者)だった高知進出にこぎつけたことになるが、需要が元に戻ったわけではない。23年3月期の売上高は807億円とコロナ前対比9割弱の水準。営業損益は5.71億円の黒字に過ぎない。何よりビジネスパーソンの働き方自体が一変した。

高知初進出が新たなフロンティア開拓へ向けた出発点になるのか。まだ見通せない。

(重道武司/経済ジャーナリスト)

© 株式会社日刊現代