オトナになって初めて気づく…ジブリ作品「敵役だけど魅力的な女性」たちの偉業

© 2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM

牧歌的かつ壮大な世界観と、冒険心をくすぐるストーリーのジブリ映画。子どもの頃は主人公に感情移入し、その世界と冒険を感じるのに夢中だった。

しかし、大人になって俯瞰的な視点で見るようになると、主人公の敵として描かれる人物が実は偉業をなしているのに気付く。そこで今回は、ジブリ映画で敵役として登場した魅力的な女性たちの活躍を見ていこう。

■神の敵だが人間にとっては…『もののけ姫』エボシ

『もののけ姫』に登場する、神や祟りを恐れない冷酷な女傑エボシ。自然を征服すべき対象として見ているエボシは、ヒロインであるサンにとっては明確な敵である。

しかし、視点を変えて人間の立場から見てみると、彼女が革新的なことをしているのが分かる。

エボシの統治しているタタラ場は、製鉄所兼石火矢の生産工場である。こういった重労働は、『もののけ姫』の世界と近しい室町時代の日本では、男の仕事であるのが常識だ。しかしエボシはそんな力仕事を女性にも任せているうえ、人身売買された人や病人も雇用している。

つまり彼女は、社会的立場が弱い人を差別せず職を与えて、普通の生活ができるような待遇をしているのである。当時はまだまだ身分による上下関係が強かったはずだが、その中でこういった方針をとるには、相当な度胸と行動力が必要となるだろう。

またタタラ場では、非常に強力な石火矢の生産に成功しており、きちんと結果も出ているのである。エボシ本人にかんしても、サンと互角にやり合える腕っぷしの持ち主であり、多方面で非の打ち所がない優秀さを見せている。

■神々が集う湯屋の経営者『千と千尋の神隠し』湯婆婆

『千と千尋の神隠し』の舞台である湯屋・油屋の経営者である湯婆婆は、主人公である千尋から名前を奪った張本人である。その強烈な風貌も合わさって、やはり「敵」の印象が強いキャラクターだ。物語全体におけるポジションとしてもラスボスに近いであろう。

そんな湯婆婆だが、経営者としての手腕は素晴らしい。たとえば、千尋が河の神の汚れを取り除いて砂金を得たときには彼女を大いに褒め称えた。功績に対して正当な評価を下せるという証左である。

また大事な客や従業員の手に負えない客にはみずから対応し、必要とあらば撃退もするなど、経営者として頼れる存在だ。「働きたいものには仕事をやる」という誓いをずっと守り続けているのも、ある程度は信じるに値する人物なのだろうと推測できる。

弱みに付け込んで従業員をこき使う行為は悪辣であり、横暴な振る舞いは頻繁に見て取れるものの、それがきっかけとなって千尋が成長できたのもまた事実。さすがは神々が集う湯屋の経営者である。

■映画と漫画で全然違う『風の谷のナウシカ』クシャナ

『風の谷のナウシカ』に登場するクシャナはトルメキアの司令官で、主人公・ナウシカが住んでいる「風の谷」の侵略を目論んでいた。腐海を焼き払うために巨神兵を復活させようとしたり、ナウシカを人質にとるなど、やはり敵キャラとして描かれている。

そんなクシャナだが、実は原作漫画版ではナウシカと並ぶもう一人の主人公として活躍している。映画では非情だったり情けなかったりする部分が強調されていたクシャナだが、原作ではかなりの実力者である。

原作のクシャナはユパ同様剣術に優れ、部下からの人望も厚い。冷静沈着な判断で騎兵団の指揮をし、考え方の違うナウシカの意見も理があると思ったら素直に取り入れる。総じて優れた判断力と頭の良さが見受けられ、トルメキア中興に大きな影響をもたらすこととなった。

カリスマ性、頭脳、強さの全てを備えていて、かつ悲劇的な身の上で、人間臭さもあるといったキャラクターになっていて、原作読者からの人気は高い。

今回は、主人公のライバルやラスボスとしての立ち位置に近い3人。しかし見方によっては、ひとりの人間としても魅力的な面があり、単なる悪役として片付けるにはもったいない。

クシャナについては原作と映画の差であるが、時が経つごとに感想が変わるジブリ映画は何度見ても面白い。

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