閑静な住宅街が一気に観光地へ変貌! 東山や嵐山に匹敵する宇治の町へ【京阪電鉄宇治線】

宇治駅に停車中の宇治線車両

■明朝体発祥の地でもある萬福寺

日本の仏教は6世紀に公伝したとされ、現在は13の宗派と56の分派が存在するという。これを「十三宗五十六派」という。十三宗は法相宗、律宗、華厳宗、真言宗、天台宗、日蓮宗、浄土宗、浄土真宗、融通念仏宗、時宗、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗を指し、このうちもっとも新しいのが江戸時代初期に開かれた黄檗(おうばく)宗だ。

黄檗宗の大本山は「萬福寺」。萬福寺の最寄り駅が黄檗駅である。

木幡(こわた)駅から黄檗駅まで歩いて行くと、なにやらいかめしいレンガ造りの塔が見える。高さは30メートルほどもあるだろうか。塔の上にはガラス張りの施設が設けられていた。

レンガ塔を囲む塀に沿って黄檗駅へ向かうと、敷地の入り口がある。自衛隊の宇治駐屯地である。塔は1895年に建築された展望塔で、日清戦争の時代に「陸軍砲兵工廠宇治火薬製造所」の水槽塔として建てられたものらしい。

駐屯地から黄檗駅は、すぐの位置にあり、京阪の踏切を渡ってJRの踏切も渡り、10分弱で萬福寺に到着する。

じつは萬福寺は、フォントでおなじみの「明朝体」発祥の寺でもある。

黄檗宗の開祖である隠元禅師は、中国から一切経を持参する。これを彫刻師に彫り写させた版木が「黄檗版大蔵経」。いまは重要文化財に指定され、萬福寺の塔頭である「宝蔵院」で保管されている。

この黄檗版大蔵経に用いられた字体が明朝体で、版木は原稿用紙のルーツともいわれている。

■花の季節に訪れたい三室戸寺

黄檗駅の次は三室戸(みむろど)駅。駅名の由来なのが、天台宗の流れをくむ本山修験宗の「三室戸寺(みむろとじ)」だ。

三室戸駅から徒歩約15分。長い坂道をのぼった先に山門が構え、そのまだ先の長い階段をのぼったところに本堂がある。結構な距離ではある。

「花の寺」としても有名で、広さ約500坪の庭園「与楽園」には2万本のツツジと1000本のシャクナゲ、1万株のアジサイが植えられていて、花の季節には見事な光景が楽しめるという。

ただ、シャクナゲは4月から5月、ツツジは5月、アジサイは6月が見ごろ。取材に訪れたとき、開花よりも早すぎたのが悔やまれる。

■平等院の参道にただよう茶の香り

三室戸駅の次が、終点の宇治駅だ。いい方は悪いが、これまでのなんの変哲もない宇治線の駅に比べ、駅構内や外観の意匠は凝っている。

宇治駅の開業は1913年。しかし、95年に駅前の再開発にともない、現在の場所に移転された。新駅舎はそのときに建築されたもので、デザインは南海の特急ラピートも手がけた建築家、若林広幸によるもの。1996年にはグッドデザイン賞を受賞している。

駅のすぐそばに宇治川が流れ、架かっているのが「日本三古橋」の1つに数えられる「宇治橋」だ。架橋は646年とも伝えられる。

ここから平等院までの参詣道が延び、「お茶のふるさと」らしく、あちらこちらから茶葉のかぐわしい香りがただよっていた。

平等院をはじめ、宇治には源氏物語や紫式部、藤原氏に関連する観光名所が多い。インバウンド客の姿も多く、京都の東山や嵐山に匹敵するほどのにぎわいだ。

宇治線は、住宅街の中を走る郊外型路線だといえる。ただ、そこはやはり京都。あちらこちらに由緒のある名所・名跡が点在している。住宅街に残る茶畑を見ると、感動すらおぼえてしまう。

中書島駅から一気に宇治駅を目指すのも悪くはないが、途中下車して散策してみるのもオススメだ。

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