ボリウッド史を塗り替える!?インド映画〈スパイ・ユニバース〉最新作『タイガー 裏切りのスパイ』は仰天アクションも満載【サルマーン・カーン主演】

『タイガー 裏切りのスパイ』

インド発スパイ・ユニバース最新作が日本上陸!

インド、ボリウッドの大手映画製作会社、ヤシュ・ラージ・フィルムズ(YRF)の<YRFスパイ・ユニバース>が日本でも好調だ。昨年公開されたシャー・ルク・カーン主演作『PATHAAN/パターン』(2023年)に続き、今年は間もなく『タイガー 裏切りのスパイ』が公開となる。

本作は『PATHAAN/パターン』にカメオ出演した、サルマーン・カーン演じるタイガーが主役の作品で、あの映画でシャー・ルク・カーンと共に見せた重量級のアクションと、掛け合い漫才みたいな楽しいシーンを憶えておられる方も多いだろう。

そもそも、<YRFスパイ・ユニバース>の元祖は、『タイガー 伝説のスパイ』(2013年)である。YRFがこういうシリーズにしよう、と思いついたのは『PATHAAN/パターン』のインド公開時だが、主人公パターンをインドの情報組織RAW(Research and Analysis Wing)のエージェントに設定するにあたり、うちには以前にも、同じRAWのエージェント、タイガー主役作があったではないか! と再認識したことで、この<YRFスパイ・ユニバース>構想が現実味をおびたのだ。

日本でも公開された『タイガー 伝説のスパイ』に続き、シリーズ第2作『タイガー 蘇る伝説のスパイ』(2017年)もある「タイガー・シリーズ」は、ユニバースの柱なのである。

その柱の最新作、『タイガー 裏切りのスパイ』も非常にいい出来だ。第1作で、敵対するパキスタンの情報組織ISI(Inter-Services Intelligence)のエージェント、ゾヤ(カトリーナ・カイフ)と恋に落ちたタイガーは、2人で祖国を捨てて逃避行に身を委ねる。

第2作では、オーストリアの田舎に家を構え、息子ジュニアができて幸せに暮らしていた2人は、イラクで人質となったインド人とパキスタン人看護師救出のために、RAW、ISIの工作員と共にイラクに赴く。そして、第3作である今作では、何とタイガーはゾヤに命を狙われるのである!

この驚天動地の展開に至った裏には、ゾヤの父亡きあと、彼女のメンターとなった元ISI幹部アーティシュ・ラフマーン(イムラーン・ハーシュミー)の存在があったのだが、まずはストーリーを紹介しよう。

組織のスパイは愛する妻!? 卑劣な黒幕の目的とは

RAWの新局長メナン(レーヴァティ)から、旧友のエージェントであるゴーピーがアフガニスタンで危機に陥った、と聞いたタイガーは、現地に赴き彼を救出する。だが、インドに向かうヘリの中でゴーピーは、「印パの二重スパイがいる。女……ゾヤだ」と言い残して絶命してしまう。帰宅したタイガーは、妻であるゾヤに疑りの目を向けざるを得ない。

次なる任務を得てロシアに飛んだタイガーは、その地でRAWのエージェントと共に襲撃されるが、襲撃者はゾヤだった。タイガーは捕われ、ゾヤの元上司アーティシュ・ラフマーンからのビデオメッセージを見せられる。ラフマーンのそばにはゾヤと、息子ジュニアが眠っていた。ラフマーンはある目的のために、ジュニアを人質に取ってゾヤを操っていたのだ……。

仰天アイデア満載のハラドキ・アクションは必見!

※物語の内容に一部触れています。ご注意ください。

今回も、まずアクションがすごい。冒頭のアフガニスタン、続くロシア、そして人質のジュニアを取り戻すためのイスタンブールでのタイガー、さらにはゾヤの闘いと、前半だけでも大盤振る舞いだ。中でも、イスタンブールのハマーム(中東式のサウナ)で中国特殊部隊の女性将軍とゾヤが闘うシーンは、美ボディの2人がバスタオルをまとっただけの姿で闘うという、ハラハラドキドキの前代未聞アクションである。

中盤では、パキスタン軍に囚われたタイガーの闘いがまた見もので、強力な助っ人が現れるのも、<YRFスパイ・ユニバース>のお約束。そして最後のパキスタン首相官邸でのクライマックスは、馬まで登場してのアイデア満載アクションシーンが展開する。

加えて素晴らしいのが、ワザありのアイディアを満載した“裏切りのストーリー”だ。クライマックスシーンでは、ラフマーンが軍部と組んで政権を掌握しようとするのだが、裏切りによるどんでん返しの連鎖に観客は翻弄されることになる。まさに『タイガー 裏切りのスパイ』の邦題そのものである。

脚本のシュリーダル・ラーガヴァンは、『WAR ウォー!!』(2019年)、そして『PATHAAN/パターン』と、<YRFスパイ・ユニバース>生え抜きの脚本家と言ってよく、そのおかげか、これまでは少し辛口のよくできたラブコメを得意としてきたマニーシュ・シャルマー監督も、見事にアクション監督として大化けしている。

印パ友好のメッセージも健在!歴代興収ランクインの秘密

特筆すべきなのは、『タイガー』シリーズの精神をしっかりと受け継いでいることで、今回もインドとパキスタン、つまりRAWとISIが手を組んで悪に立ち向かう、という構図が継承されている。実は、前作『タイガー 蘇る伝説のスパイ』と同じエージェントたちが登場するので、前作を見ておいていただいた方が多少わかりやすい(※5月4日[土]にBS12で無料放送アリ!)のだが、劇中に説明があるから大丈夫。現実のインドとパキスタンは、特にインド側から敵対意識が煽られつつある昨今だが、それを諫めるように毎回印パ間の友情が展開するのも『タイガー』シリーズの見どころである。

特に今作は、パキスタンの女性首相ナスリーン・イラニ(シムラン)が登場、その凜としたたたずまいと判断力&行動力がクライマックスシーンで光る。インド首相も、現首相にちょっと似た役者が登場するものの、彼女に比べると影が薄い。特に、事件が終熄したあとのパキスタン首相の粋な計らいは、インド人観客の心をわしづかみにしたに違いなく、それもあって本作は2023年の興収第8位、歴代興収でも第23位という好成績を挙げたのでは、と思われる。印パ間の関係改善への提言とも深読みできる『タイガー 裏切りのスパイ』、必見である。

文:松岡 環

『タイガー 裏切りのスパイ』は2024年5月3日(金・祝)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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