愛馬に鞍傷を負わせないために

馬具は馬に乗りやすくするために大切な道具ですが、誤った使い方を続けていると馬が傷を負ってしまう可能性があります。今回の記事では、鞍によって馬の背中が傷つく「鞍傷(あんしょう)」について、原因や予防方法などを紹介します。いつも人間を乗せてくれる馬たちに傷を負わせないように、どのようなことができるのでしょうか?

鞍傷とは

まず最初に、鞍傷とはどのようなものなのか?どのような場所にできやすいのか?などの概要から確認していきましょう。鞍傷について知ることで、日頃のお手入れでも馬の背中の状態に意識が向きやすくなるはずです。

鞍傷=鞍によってできる傷

馬に乗る際にはさまざまな馬具を付けますが、運動中に馬具が繰り返し擦れたり当たったりすることで馬が傷を負ってしまうことがあります。

このうち、鞍によってできた傷を鞍傷と呼びます。お手入れや馬装のタイミングでは馬の背中を見下ろす機会が少ないため、注意してチェックしないと鞍傷を見逃してしまうこともあるかもしれません。

鞍傷ができやすい部位

では、鞍傷ができていないか確認するためには馬体のどこをチェックすればよいのでしょうか?その答えは、馬の方の上あたり(たてがみが終わるあたり)にある「鬐甲(きこう)」です。鬐甲は骨が大きく出っ張っているため、鞍に圧迫されたりすれたりすることが多いのです。

鞍傷の原因

鞍傷が鞍による傷だということはわかりましたが、すべての馬にできるわけではありません。具体的に、どのような場合に鞍傷ができやすいのでしょうか。馬装の問題・馬の体型という2つの面から確認していきましょう。

鞍の位置がずれている

鞍傷ができる一番の原因は、鞍を乗せる位置がずれていることです。

鞍は馬の背中のカーブに合わせて作られており、鬐甲に当たる部分は上に反っています。この反っている部分が前橋(ぜんきょう)です。

前橋がうまく鬐甲に合っていると、鬐甲と鞍の間に空間ができます。しかし、鞍が前後にずれていると、鬐甲に鞍が当たり鞍傷ができやすくなるのです。

背中が痩せている

馬装自体に大きな問題がないケースでも、鬐甲が大きく出っ張っていたり背中が痩せている馬は鞍傷ができやすい傾向があります。

鬐甲の出っ張り具合は筋肉量・脂肪の量などにより変化する場合もあるため、定期的に鞍傷の有無だけでなく体型なども観察しておくとよいでしょう。

鞍傷の予防

上記のように、鞍傷の原因にはいくつかのパターンがあります。では、それぞれの原因を解消して鞍傷を予防するためにはどのようなことに気を付ければよいのでしょうか?

鞍を正しい位置に乗せる

鞍は、正しい位置に載せたときに馬の背中にフィットするように作られています。そのため「どこが正しい位置なのか」を意識して馬装をしましょう。馬の体型によって適正な位置は多少変わりますが、目安としてゼッケンは鬐甲が半分隠れる程度の位置に置きます。

このとき、ゼッケンは背骨にぴったり沿わせるのでなく、ゼッケン前方の中心(鬐甲にかかる部分)を少し持ち上げるようにして鬐甲とゼッケンのあいだに少し隙間をあけるのがポイントです。

馬は背が高く特に女性は鞍を乗せるのが大変かもしれませんが、ゼッケンがこの位置からずれないようにそっと鞍を乗せましょう。鞍の位置の目安は、腹帯が前脚のすぐ後ろを通るあたりです。

腹帯は適切な強さで締める

腹帯のきつさを確認するためには、騎乗前・騎乗後の 2 回に分けて確認することが重要です。騎乗前には、馬の腹部と腹帯のあいだに隙間がなく、鞍が重みでずれない程度に腹帯を締めてください。

また、馬場までの移動・騎乗後の人間の重みで腹帯が少し緩むので、騎乗後にも腹帯をチェックして、必要に応じて締めてみましょう。腹帯を締める際には、急に締めると馬が驚くためゆっくりと行うのがポイントです。

背中の形に合った馬装をする

自馬や自分の鞍を持っている場合、馬の体形に合わせて鞍の幅やカーブを調整することもできます。しかし、乗馬クラブの馬や馬具ではそういうわけにもいきませんね。

そこで、ゼッケンのほかボアゼッケンやゲルパッドを使用して馬の背中に局部的な負担がかからないように調整します。乗馬クラブにより使用している用具や調整方法は異なるため、馬ごとの馬装の注意点などは乗馬クラブのスタッフに確認しましょう。

鞍傷になってしまったら

鞍傷は上記のようなポイントに気を付けることで予防できる可能性が高まります。しかし、正しく対策ができていなかった場合など、実際に鞍傷ができてしまったらどのような対応をすればよいのでしょうか?

できれば乗らないこと

鞍傷ができたら、まずは傷を悪化させたり負担をかけたりしないために、騎乗しないことが第一です。しかし、乗馬クラブの方針や鞍傷の度合いによっては馬を完全に休ませることが難しいこともあるかもしれません。

そのような場合には、鬐甲部に穴をあけたボアゼッケンなどを活用して、騎乗中も傷に負荷がかからないよう工夫する必要があります。

傷口のケアをしっかり行う

傷口を清潔に保ち、負荷をかけずに経過すれば鞍傷は徐々に治癒していきます。傷が治るまでは、通常のお世話に加えて傷口の消毒など傷口のケアをしっかり行いましょう。お世話の際には、傷口に気を付けながらしっかりと周囲の清潔を保つことが大切です。

まとめ

人間の馬装次第で、どの馬でも鞍傷を負う可能性があります。特に、乗馬を始めたばかりの時期には馬装でどのようなポイントに気を付けるべきか、馬に負担がかかりにくい馬装のコツなどがわからず鞍傷の原因を作ってしまうこともあるかもしれません。

崩れにくい馬装をするのは何のためなのか、馬具を付ける位置にはどのような意味があるのかなども知っていくことで、馬にとっての「良い馬装」を身に付けて鞍傷を予防できるよう心がけましょう!

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