「鳥瞰図」で知られる吉田初三郎の展覧会を府中市美術館で開催 “理想化された風景”を描いた大型の肉筆鳥瞰図などを展示

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大正から昭和にかけて、空高く飛ぶ鳥や飛行機から見下ろした視点による鳥瞰図(ちょうかんず)のスタイルで、数多くの名所案内図を描いた画家・吉田初三郎を紹介する個展が、5月18日(土)から7月7日(日)まで、東京の府中市美術館で開催される。

京都に生まれ、関西美術院で洋画家の鹿子木孟郎に学んだ吉田初三郎(1884-1955)は、鉄道沿線の名所案内などで商業美術家としての名声を獲得した画家。観光旅行が盛んになる時代の後押しを受けて活躍の場を広げ、全国各地の鳥瞰図のほか、ポスターなどのグラフィックや絵画も手がけた。

同展の大きな魅力は、10点以上に及ぶ大型の肉筆鳥瞰図が並ぶこと。初三郎の鳥瞰図は、実際の地形を正確に表すものではなく、変幻自在の工夫が施されたものだったそうだ。例えば、見えないはずのランドマークを描いたり、中心となる建物を極端に大きくしたりと、構図に大胆なデフォルメやクローズアップを取り入れることもしばしば。その一方で、線路には当時走っていた鉄道の車両、桜の名所には桜の木、そして温泉には立ち上る湯煙といったように、その名所の特徴をわかりやく細部まで丁寧に描き、見る者に実際に絵の中を旅するかのような気分を味わわせてくれている。「初三郎式」と呼ばれる、これら抜群のわかりやすさを誇る鳥瞰図は、現実の景観を重ね合わせた上で初三郎が見せたいと願った、そして見る側が見たいと望んだ、理想化された風景「Beautiful Japan (美しき日本)」だったのだという。

屏風《犬山之春 蘇川之秋》(犬山之春)昭和6〜7(1931〜32)年 犬山城白帝文庫蔵

同展では、肉筆鳥瞰図を描くために施された様々な工夫に注目して、初三郎が描き出した世界の魅力を紹介すると同時に、印刷技術が発展していった時代に生き、パンフレットなどの印刷物でも活躍した初三郎の鳥瞰図の変化にも着目する。鉛筆での書き込みのある肉筆画や、制作途中の校正刷り、さらに大画面の肉筆画を印刷折本のパンフレットへと変容させる過程がわかる作品などから、初三郎の制作の実態に迫る試みも行われる。

ポスター《Beautiful Japan(駕籠に乗れる美人)》昭和5(1930)年 江戸東京博物館蔵

肉筆鳥瞰図、ポスター、絵葉書、絵画などを広く紹介する同展は、近年再評価が進められてはいるものの、これまで美術館で紹介されることの少なかった吉田初三郎の世界と「鳥瞰図」というジャンルに改めて目を開かせてくれる貴重な機会となっている。

<開催概要>
『Beautiful Japan 吉田初三郎の世界』

会期:2024年5月18日(土)〜7月7日(日)
会場:府中市美術館2階企画展示室
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜
料金:一般800円、大高400円、中小200円
公式サイト:
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/

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