『虎に翼』伊藤沙莉&小林薫の連携による“逆転劇” 寅子の「はて?」が研ぎ澄まされていく

『虎に翼』(NHK総合)第24話では、共亜事件の裁判が山場を迎えた。

法廷で当事者席に立った直言(岡部たかし)は、突然、膝から崩れ落ちた。検事の日和田(堀部圭亮)が扇子を叩く音で、強圧的な取り調べを思い出したのだった。退廷を命じられた直言は、記者の竹中(高橋努)から寅子(伊藤沙莉)が暴漢に襲われたことを知らされる。

「ごめんな、トラ」

罪状認否で、直言は罪を全て否認した。直言は「私が罪を認めれば、私だけでなく、上司や他の人間も罪が軽くなると自白を強要されました」と率直に言葉を発した。しかし、供述を覆すことは容易ではない。自ら進んで検察官の前で自白した以上、説得力のある証拠を示す必要があった。

直言を含む被告人16人は犯行を否認し、裁判は有罪を立証しようとする検察とそれを覆そうとする被告人側の攻防となった。弁護団の雲野(塚地武雅)や錦田(磯部勉)は、株式が金庫から動かされた形跡がなく、金品の受け渡しの記録がないことを証拠を示して主張し、検察はそれを否定した。

検察の反論は「一度運び出された株式を後から同じ場所に戻した」「来訪記録を偽装した」など無理筋に近い。それにもかかわらず、なかなか有罪を覆せないのは、自白が担う役割の大きさが関係している。自らが犯罪に関与したことを認める自白は「証拠の王様」と呼ばれ、有罪の立証で決定的な役割を果たす。現行憲法と刑事訴訟法の下では、任意性のない自白は証拠能力が認められず、自白のみで有罪にすることはできないのが原則である。しかし、予審制度のあった戦前の刑事裁判では、現在よりゆるやかな要件で自白が証拠として採用されていた。

直言の代理人である穂高(小林薫)は、直言が謝礼として受け取ったとされる着物は、はる(石田ゆり子)が自身のへそくりで購入したものであることを、はるの手帳と呉服屋の帳簿の記載から立証しようとする。直言の自白が有効であると譲らない検察に、穂高は「尋問による自白の強要は人権蹂躙に当たる」と鋭く指摘した。さらに、直言が取り調べ中、長時間にわたり革手錠をされたことは、身体の自由を奪うことで、自白を強要したことにならないかと問い詰めた。

検察官の日和田は、暴れる直言を取り押さえ、自傷を防ぐために看守が自らの判断で革手錠をしたと説明するが、ここで寅子の「はて?」が発動する。歩み寄る穂高に、傍聴席の寅子は「監獄法施行規則第49条」と伝えた。旧監獄法の細則を定める条項で、看守は監督する上長の許可を得なければ、革手錠を使用できない。看守が暴れる直言を放置したまま許可を得るために取調室を離れたか、あるいは規則に反して独断で手錠をかけたとは考えにくい。その時、取調室にいた検察官の指示があったはずだと穂高は指摘した。

穂高の理路整然とした論調に日和田はうろたえる。裁判の推移を見守っていた裁判官の桂場(松山ケンイチ)は日和田に説明を求め、記憶が定かではないと答える日和田の矛盾を穂高は再び突いた。直言の自白の信用性は失われ、被告人側に絶対不利と思われた裁判の風向きが変わった。

当初は素朴な疑問だった寅子の「はて?」は、法律を学ぶことで研ぎ澄まされ、嘘を見抜く鋭さを兼ね備えるようになっている。はるの手帳を見直すことから始まり、穂高との連携による逆転劇は寅子の奮闘なくしてあり得なかった。裁判官の自由な心証に訴えかける臨機応変な弁論の応酬は、リーガルエンターテインメントのスリルが詰まっていた。

形勢逆転の裏には桂場のアシストもあった。裁判官として厳格に真実を見極めようとする姿勢はあいまいな立証を許さなかったのだろう。そのことで、桂場は有力政治家に目を付けられる。検察出身の貴族院議員・水沼(森次晃嗣)に「君の正義感を発揮する時は今ではない」と釘を刺されるのだが、司法の独立を守らんとする桂場も、次世代のために道を切り開く役割を担っていることを知らせていた。
(文=石河コウヘイ)

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