なにわ男子・道枝駿佑、映画『青春18×2』起用理由に藤井監督「将来日本を背負って立つ俳優になる」

道枝駿佑×藤井道人監督

なにわ男子の道枝駿佑が、映画『青春18×2 君へと続く道』(5月3日から全国公開)に出演。ジミーが旅の途中で出会う18歳のバックパッカー幸次を演じる。本作は、藤井道人監督初の国際プロジェクトとなる日台合作映画で、台湾の人気スター俳優シュー・グァンハン(許光漢/グレッグ・ハン)演じるジミーと清原果耶が演じるアミが紡ぐ切ないラブストーリー。台湾で話題を呼んだ紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」を、俳優のチャン・チェンがエグゼクティブ・プロデューサーとして映画化。映画『余命10年』のスタッフが約2カ月かけて日本と台湾でオールロケを敢行。それぞれの土地のスタッフと共に国際色豊かな現場で撮影された本作は、18年の時を超えて初恋の記憶をたどる物語となっている。インタビューでは、道枝と藤井監督の2人に撮影でのエピソードや、この作品を通して伝えたいこと、Mr.Childrenが担当した主題歌「記憶の旅人」について、話を聞いた。【取材=村上順一】

道枝駿佑が印象に残ったセリフとは?

――監督は道枝さんのことを“みっちー”と呼んでいますが、どのタイミングで呼ぶようになったのでしょうか。 藤井道人

おそらく最初にご飯を一緒に食べた時からで、撮影中にはもうみっちーと呼んでいたと思います。 道枝駿佑

いつの間にかみっちーでした。実は藤井監督もみっちーなんですよね。 藤井道人

名前が道人で、僕もみっちーと呼ばれることがあるので、共通点ですね(笑)。

――確かにそうですね!

さて、今回原作がある作品で、企画を聞いた時の心境は? 道枝駿佑

日台合作の国際プロジェクトで、海外作品に出演することは僕の夢でした。本格的にアジアに出て行きたいという思いが固まったタイミングでお誘いいただいたこともあり、僕の中でいろいろなご縁が重なった作品で、すごく嬉しかったです。 藤井道人

僕は20代から台湾に留学をしたり、自分から営業をして「チャンスをください」とやってきたものの1つが結実した感覚があります。一歩ずつ歩んできたその先にこの作品があって、それが台湾で公開された時に、「ここからだな」と思いました。自分では回り道だとは思っていなくて、 20代の時にこのオファーを受けていたら、こういう感覚にはならなかったと思っています。

――さて、撮影を経て完成した本作を観て、どう感じましたか。 道枝駿佑

脚本を読んで、人が人のために何かをする、バトンを託していくようなお話しだなと思いました。撮影に入って強く感じたのは登場人物がとてもピュアで、思いやりがある人たちばかりだということです。自分自身に刺さるセリフもありましたし、文字で見たときと、キャストの声で聞くのとでは感じ方が違いました。改めてすごい作品に参加させていただいたんだなと思いました。

――その刺さったセリフとは? 道枝駿佑

黒木華さん演じる由紀子のセリフで、「夢を持って叶える人ってさ、本当一握りだよ」です。誰しも分かっているつもりでも、なかなか現実を受け入れられない。僕もなかなか思い通りにいかないことや、想像していたこととは違うことがあったので、そのセリフはすごくグッときました。

――監督はそのセリフをとても大切にしていたとお聞きしています。 藤井道人

そうです。あれはほぼオリジナルで書かせてもらった中の1つで、今みっちーがそのセリフをあげてくれて嬉しいです。僕はいまも自分の夢が叶ったとは思っていないのですが、すごく恵まれている環境にいて、もし何かを選択していくなかで諦めてしまったり、誰かに出会っていなかったら、今こうやって皆さんの前に立たせてもらうこともなかったと思っています。「なんで俺だけこんなにつらいんだ」みたいに思ってしまった時に、自分に言い聞かせているようなセリフなんです。黒木さんがあのトーンで言ってくれたからこそすごく響きましたし、すごく意味のあるセリフになったと思いました。

――監督は映画が完成して、印象がちょっと変わった、もしくは想像を超えたと感じたところはありましたか。 藤井道人

僕らの仕事というのは設計図通りというのがあります。まずその設計図が100点じゃないとダメなので、妥協をしない、解像度を下げないことが前提です。その設計図より下もなければ上もなくて、これを作るための努力だったと思えるものが作れました。みんなのおかげで妥協がないまま目的の通りのものが撮れたと思っています。

一言目の一音目が大事だったセリフ

――岩井俊二監督の映画『Love Letter』が話の中で登場しますが、どんな思いがあったのでしょうか。 藤井道人

岩井監督は僕が18歳の頃に一番好きだった映画監督で、日本大学芸術学部に入って映画学科の人に「好きな監督は?」と聞かれたときも、「岩井俊二監督」と答えたくらい好きなんです。岩井監督の映画は当時の僕にとても影響を与えてくれました。ただ、今回は『Love Letter』をあえて見直さないことにしました。それはいま36歳の自分が映画を分析してしまった『Love Letter』より、当時に観た記憶に残っている感覚がいいなと思ったからなんです。また、みっちーには事前に『Love Letter』は観なくてもいいよと伝えました。幸次がスマホで『Love Letter』のレビューを見て、「へぇー、めっちゃ評価高いじゃん」と言っているのがすごく良いんです。

――知らない方が役としてもリアルですよね。道枝さんはどんな意識で幸次を演じましたか。 道枝駿佑

幸次は元気で明るく、人見知りをしない“距離感おばけ”みたいなイメージがありました。僕は幸次のように人に対してグイグイ行けるようなタイプではないので、誰かと出会っていきなり握手みたいことも全然できないです。なので、いろいろ想像しながら、元気に明るくをモットーに自由にやらせていただきました。

――監督が道枝さんを幸次に選らばれた理由は? 藤井道人

いろいろ要因があります。みっちーが海外にも興味を持っているところ、年が離れていても哲学として近いものを持っていると思ったからです。10代からみっちーのことは知っていて、いろんな出演作品も観ているなかで、きっと将来日本を背負って立つ俳優になるんだろうなと思っています。なので、今回みたいなワンポイントの役では出てくれないだろうと思っていたのですが、僕自身がみっちーと作品を一緒に作ってみたかったので、「ダメ元でもいいからオファーしてほしい」とスタッフにお願いしました。

また、急に何かの作品の主演ではじめましてより、僕自身、一生のうちに何本映画を撮れるかというのは分からない中で、一緒に映画 1 本作りたいと思った時に、オファーして断られたとしても、「いい映画なんです。この船に一緒に乗りませんか?」ということを伝えたかった。そうしたらみっちーの事務所の方がご飯を食べましょうと、一緒に話す時間を作ってくれまして、今回のご縁に繋がりました。みっちーの横で「ぜひ出演してほしい」と伝えました。

――このお話しを聞いて道枝さんのお気持ちは? 道枝駿佑

すごく嬉しかったです。藤井監督初の国際プロジェクトで、幸次はワンポイントながらも重要なキャラクターでもあるので、すごく光栄です。

――お2人で撮影に入る前に役についてお話はされましたか。 藤井道人

どういう経緯で幸次は旅をすることになったのかという説明はしました。キャラクターシートがあるんですけど、幸次はちょっと大人ぶって、悟った気になっているような子なのですが、僕はそういう子が大好きなんです。「やっぱり映画って」みたいなことを言われるとすごく抱きしめたくなってしまう。みんなから「なんかこいつ可愛いな」って思ってもらいたい、それがジミーにとっての初めての友達であってほしいということを、みっちーに伝えました。

――愛されキャラですよね。道枝さんが監督とのやりとりで印象に残っていることは? 道枝駿佑

幸次が景色を撮ろうとした時にトンネルに入っちゃうんですけど、その「おーい!トンネル!」の言い方にはこだわりましたし、印象に残っています。 藤井道人

あのシーンは何10回もやったよね。というのも自分の中でイメージがあったんです。トンネルに対してなんか言ってるぞ、みたいなイメージがありました。それには理由があって、トンネルも友達といった雰囲気、幸次の“コミュニケーションおばけ”みたいなところをそのセリフで出せたらいいなと思いました。その感じを出すには一言目の一音目がとても大事なんです。

――道枝さん演じる幸次の登場は重要なシーンであり、泣く泣くカットされたシーンもあったのでしょうか。 藤井道人

ちょっとセリフでつまんだ部分はあったと思いますが、撮ったシーンは全部使いましたね。昔は不安だから一応撮っておこうみたいなところもあったのですが、最近は必要ないと感じたところは撮らなくなってきました。

――幸次はバックパッカーなので背負っている荷物もすごいです。 道枝駿佑

あれは重かったですね。 藤井道人

水筒がなかなかいやらしい位置にあって(笑)。 道枝駿佑

確かに動きづらいなというのはありました。あと、ジミーとの雪合戦のシーンでは、寒さを忘れるくらい夢中になってやっていたんですが、雪が靴の中まで入ってきて本当に大変でした(笑)。でもその大変さを忘れるぐらい楽しかったです。 藤井道人

台湾でグァンハンがトークショーをしたんですけど、「道枝さんとの芝居はすごく楽しかった」と言ってました。また、雪合戦で僕は「本気で当てていけ!」みたいなことを言っていたので、グァンハンから「監督がストイックすぎて」と言われてしまいました(笑)。

――あはは(笑)。道枝さんは旅について今思っていることはありますか。 道枝駿佑

価値観や視点が年々ちょっと変わってきたかなと思いながら過ごしている中で、一人旅というのはすごく大事なのかなと思いました。

――一人旅のご経験は? 道枝駿佑

まだないんです。

――最初に行くとしたらどこがいいですか。 道枝駿佑

まずはアジアから回ってみたいです。それこそ台湾に行って、映画の聖地巡礼をしてみたいです。

――ちなみに幸次が旅を始めた背景にはどんなものがあるのでしょうか。 藤井道人

幸次が旅に出た理由は、幸次の兄が優秀でそこに対してコンプレックスがあったからなんです。エスカレーター式で大学に進学が決まっていたけど、やりたいことが決まっていない。考えた結果、進学を諦めて旅をしながらいろいろな人と出会いたい、といった背景があります。実は幸次が初めて声をかけたのがジミーなんです。基本的に幸次は根明なんですけど、日本人の多くは急に喋りかけられても「あ、はい」みたいな感じで終わってしまう傾向があると思っていて、ジミーが台湾人というところで会話が広がっていったみたいな感じもあります。 道枝駿佑

ちなみに幸次はVaundyさんが好きなんです。キャラクターシートを見た時に、もしかして幸次の髪の毛がくるくるなのは、Vaundyさんが好きだから、それを意識しているからなのかなと思いました。

当たり前のことじゃないからこそ、できる限りの期待に応えたい

――グァンハンさんとはどんな風にコミュニケーション取っていましたか。 道枝駿佑

グァンハンさんと撮影が終わってからお昼ご飯をご一緒させていただきました。また、撮影中にも「タブレット食べる?」など気さくに話しかけてくださって、食事の時もすごく気配りをされていたのが印象的でした。事前にスタッフの方からグァンハンさんはとても優しい方だと聞いていたので、本当に聞いていた通りの方だなと思いました。

――この作品に参加して何を得られたと思いますか。 道枝駿佑

この映画のテーマでもありますが、 人に対する感謝について思うことがありました。僕を求めてくださる方がいらっしゃることが、すごくありがたいことなんだなと改めて感じましたし、それが当たり前のことじゃないからこそ、できる限りの期待にお応えしたいです。

――監督は道枝さんとご一緒して、どんな思いを共有したいと思っていましたか。 藤井道人

主演で責任感のある作品、責任を感じざるをえない役が今まで多かったと思うんです。本当に感じなければいけないのはそこではなくて、どう生きるか、どういう風に演じることが楽しいのか、映画の楽しさとか、結果はあとからついてくるという、ものづくりの本質みたいなところです。僕はあえてみっちーの芝居を研究せず、一緒にやってみた時に「それは違うから、こうやってみようか」とか提案しながら進めました。それはダメ出しではなくて、一緒に幸次という役を使って遊ぶ、そうやっていいものができていくフローを共有したかったんです。みっちーはすごく楽しんでくれるし、次はみっちー主演でなにかやりたいという気持ちになっています。 道枝駿佑

何回もトライさせていただけるので、そこでわかることもありました。制限時間があった中での撮影だったのですが、幸次のシーンはよりギュッとした時間の中での撮影だったので、集中力が高められました。

――さて、主題歌はMr.Childrenの「記憶の旅人」ですが、決まった経緯は? 藤井道人

実はクランクイン前にこの曲はもうあったんです。今回の作品、キャスト含めほぼ全員ダメ元のオファーなんですけど、Mr.Childrenさんもその一つでした。僕が18歳の時の青春でしたし、Mr.Childrenさんにオファーした時は、正直『ドラえもん』的な大作以外は主題歌をやって頂けないだろうという思いもどこかにありました。そうしたら僕は行けなかったんですけど、プロデューサーたちが呼ばれて、これはお断りの話しだと思ったら、「桜井が脚本を読んで、もうデモを作ってしまいまして」と。事務所の人たちも「こんなこと今まで一回もなかった」とすごく驚いていたみたいなんです。

そのデモはすでに完成したものとほぼ同じで、僕らはその曲をお守りに旅(撮影)に出ました。また、今回一緒にやった台湾のチームとは言語の壁がありますが、みんなで「記憶の旅人」を聴いたら、1チームとして繋がるものがありました。素晴らしい経験、夢みたいなことがたくさん起きた時間でした。

――道枝さんが「記憶の旅人」を聴いて感じたことは? 道枝駿佑

クランクイン前に聴くことができてすごく良かったです。曲を聴いて気合が入る、身が引き締まる思いでした。この曲がどのように映像に乗って流れていくんだろうとすごくワクワクしていました。また、マネージャーさんも帰りの車の中で、「曲、最高ですね!」と話していたのも印象に残っています。

――公開を楽しみにしている皆さんに、この作品を通して伝えたいことは? 道枝駿佑

人に対する思いやりや人情、義理堅さみたいなものが描かれていると思います。過去の回想と今を行き来しながら物語は進んでいくんですけど、18年間の儚さも伝わってくるすごくピュアな作品で、素直な気持ちで観てくだされば、ダイレクトに心に響くと思います。そこを感じ取っていただけたら嬉しいです。 藤井道人

コロナ禍で僕らはずっと閉じ込められていて、会いたい人にも会えなくて、人がいる場所にも行けなかった。ただそれを乗り越えたみんなへのお疲れ様という気持ちもあります。外にはたくさんの出会いもあって、その中で一番大事なのは、その人たちの人生に決して間違っていたことなんてないということです。生きていく中で自分だけ苦しいとか、なぜ自分だけと思うことってあると思いますが、あなただけではないし、「ひとりじゃないよ」ということを伝えたいです。 (おわり)

作品情報

『青春18×2 君へと続く道』 劇場公開日 2024年5月3日 キャスト:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳 主題歌:Mr.Children 「記憶の旅人」(TOY’S FACTORY) 監督:藤井道人

脚本:藤井道人、林田浩川

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