有機米粉を使ったスイーツ店「田田田堂(たたたどう)」(兵庫・御影)が伝えるお米の無限の可能性とは?

ここ数年、スイーツ界でも「健康志向」が高まりつつあり、米粉を使った商品が注目を集めています。米粉はグルテンを含まないだけでなく、米がもつ高い栄養価を摂取できます。今回取材に訪れたのは、兵庫県東灘区の御影というエリアにある、米粉を使ったスイーツを展開する「田田田堂(たたたどう)」。

お米は、スイーツにどう活かされているのか?オーナーの西田智祐さんに話を聞いてきました!

きっかけは「娘の食物アレルギー」…コロナで大量に余った有機酒米を米粉に!

「田田田堂」が生まれたのは、2022年のこと。始めはオンラインショップのみの販売だったそうで、実店舗は2023年4月にOPENしました。

「元々、会社としては30年近くニュージーランド産マヌカハニーの輸入販売事業をしていています。その商品の一つとしてマヌカハニーで作ったキャラメルソースをかけたナッツを販売したところ、反響があったんです。小麦粉を使わない焼き菓子もラインナップに加えていくと、その分人気も高まってきて、マヌカハニーから独立したブランドを立ち上げました」と、西田さん。

画像提供:ハニーマザー

”小麦粉を使わないこと”に力をいれるには、理由がありました。西田さんの娘さんが小麦・卵・乳のアレルギーを持つことをきっかけに、小麦・卵・乳を避ける食生活をせざるを得なくなったそう。

「食卓は自然と、洋食から和食中心になりますよね。始めは不便さも感じていたのですが、自分たちも体重が落ちたり、体調が良くなったり、どんどんヘルシーになっていくのを実感したんです」

小麦粉を使わない焼き菓子ブランドを本格的に展開する際、たまたま出会ったのが地元兵庫で「山田錦」というお米を生産する農家さん。「山田錦」は炊いて食べる一般的なお米ではなく、日本酒を作るためだけに生産されるお米。日本酒が好きな方なら誰もが知っている、最高級のお酒です。

「ちょうどコロナ期で、飲食店が営業を停止されている状況にあり、お酒も売れない時期でした。お酒が売れなければ、お米も売れない。農家さんの元には行き場を失った『山田錦』が大量にありました」

山田錦の有機米粉 1kg 1,980円(税込)

西田さんは600kgの米を農家から買い取り、製粉所で米粉に変えたそうです。オンラインショップで米粉を使った焼き菓子はもちろん、米粉そのものも販売し、無事に完売。世の中のグルテンフリーへの意識の高さを感じた、と西田さん。

「有機栽培された山田錦を、有機JAS基準で製粉しています。そして小分けと販売所である我々も厳しい基準をクリアしてJASマークを取得しました。生産・加工・販売まで安心を届けたい」

小麦・卵・乳・白砂糖は不使用。だけどスイーツ好きを満足させるクオリティを追求

2022年春からオンラインショップでグルテンフリーの焼き菓子を販売。2023年に完成した実店舗では、生菓子の提供もスタートさせました。ショーケースを覗くと、タルトを中心に季節のフルーツを使った生ケーキが並びます。

砂糖はてんさい糖を使用し、フルーツも国産果実を厳選。クリームは豆乳やアーモンドミルクから作られた植物由来のプラントベース。「田田田堂」に置かれる商品に、小麦・卵・乳は一切使われていません。

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小麦・卵・乳製品のコンタミネーション(混入)の可能性もゼロで、アレルギーの方にも安心してもらえるのだとか。

「最近では『パティシエをしていたが、小麦アレルギーになってしまって仕事を続けられなくなった』という人もいます。実は大人になってから小麦アレルギーを発症してしまうケースは珍しくありません」

バター不使用のバターサンド。有機アーモンドミルク、自家製カシューミルク、有機ココナッツミルクの3種の植物性ミルクをバランスよく配合することで、バターのコクが表現されています。また有機カカオバターも使われていて、バターの香りと口どけを再現。

ただ、小麦・卵・乳は不使用なので、食べたあともまったく重くなりません。開発にあたっては「バターサンド好きにも満足してもらえるように」とこだわったそうで、満足度がありました!

トマト、ピスタチオ、チャイ、黒胡椒、ターメリックといった素材を混ぜたサブレ各種、ガレットなどの焼き菓子、アソート缶が販売されています。甘さは控えめで、どちらかというとお酒に合いそうなサブレです。

他にも、甘酒の優しい甘さを感じるアイスクリーム、マヌカハニーを使用したパウンドケーキ、生米から焼いたパンなど、丁寧な開発研究のもと商品の幅を広げているそう。もちろん、オンラインショップでのお取り寄せも可能です。

質の高い米作りを次世代にも繋げていきたい。お米の可能性を広げていく取り組み

店内では、お菓子やパンのほかに米粉のミックス粉を販売しています。有機米粉は珍しいとのことで、オンラインショップでの売上は好調だそう。ところで、コロナが明けた今「山田錦」も以前のようにお米が余ることがなくなったのでは?と聞くと…

「そうですね。しかし、酒米を作る際に『中米』という、粒が大きくないお米ができてしまうんです。日本酒は製造過程でお米を磨くのですが、粒が大きくないとなくなってしまいます。だから『中米』は酒造所に買い取ってもらえません。コロナが明けてからはその中米を売ってもらっています。二束三文にもならない米を買い取るなんて…って、最初は驚かれました(笑)。でも僕らからすれば、有機栽培されたお米に変わりはない。有機米としてはかなり安いんです」

誰かが無価値と思っていても、誰かにとっては価値あるものになる。そんなことを思わせてくれる話です。

「山田錦」のほか、パン作りによく使われる「ミズホチカラ」とも契約。元々は有機栽培ではなかったそうですが、3年間必要とされている転換期間中の米も買い取ることを約束に、農家側も有機栽培に踏み切ってくれたのだとか。「ミズホチカラ」の有機米粉は、今の所国内唯一です。

「国産米を取り巻く課題は、知れば知るほど多く存在します。特に深刻なのは、農家の担い手不足だと考えています。しんどいけど儲からない、というイメージもあり、農地を継ぐ人がいなくなっています。次世代の若手生産者さんと一緒に、現状を打破できるように考えていきたい」と西田さん。

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その一環として、今取り組んでいるのが「生米パンプロジェクト」。全国各地の特産米を「生米パン」として加工し、ふるさと納税の返礼品として展開することを検討しているのだとか。

「『生米パン』のいいところは、米粉に製粉せずそのままパンにできるという点です。玄米で仕入れて、精米して、そのままブレンダーで生地にしていくんです。製粉しないからお米の水分量やデンプンを損なうことなく、パンの焼き上がりに生かされる。もっちりと、しっかり膨らむんです」

最近ではこの生米パンを目当てに来店する方も多いのだとか。

画像提供:ハニーマザー

ジェラートももちろん、乳・卵・白砂糖不使用。専用に仕込んだ特濃の「糀甘酒」を使うことで、十分な甘さが引き出されています。

「生まれて初めてアイスクリームを食べました。って喜んでくれる方を見ると、たまらない気持ちになります。始めは自分たちの娘のために目を向けたグルテンフリーで、今は農家さんやアレルギーで悩んでいるお客様、スタッフの役に立っている。お米の可能性を、これからももっと広げていきたいと思っています」

About Shop
田田田堂(たたたどう)
兵庫県神戸市東灘区御影郡家1-23-12
営業時間:11:00〜18:00
定休日:水曜日・木曜日

あかざしょうこ

ウフ。編集スタッフ

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関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。

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