<レスリング>【2024年JOC杯・特集】期待のホープ同士の対決に勝つ! 逸材が世界へ向けて始動した…U20男子フリースタイル61kg級・小野正之助(山梨学院大)

タイムマシンに乗って3年半先の世界を見て現在に帰って来た人が、この試合を見たら、「この2人、ロサンゼルス・オリンピックの日本代表の最後を争っていましたよ」と話すかもしれない。

2024年JOCジュニアオリンピックカップの男子フリースタイル61kg級決勝は、U20で2年連続世界王者となった西内悠人(日体大=2022年は61kg級、23年は57kg級)と、昨年の全日本学生選手権と国体を制し、世界への飛躍を始めた小野正之助(山梨学院大)が対戦。小野が接戦を2-1で制し、今年のU20世界選手権(9月・スペイン)への出場を決めた。

▲期待のホープ同士の対決、今回は小野正之助(山梨学院大)が西内悠人(日体大)を破った。このあと、どんなドラマが続くか

小野は「このトーナメントは、当たりまえに勝たないとならない大会です」と、優勝は当然、と言わんばかりの第一声。決勝は2-1のロースコアの試合となったが、「相手に何もさせなかった。スコアは低くても、大差で勝った、という感覚です」と快勝を強調した。試合終了前には、やや防御に回った感もあるが、終了間際には攻めて西内の体が宙に浮くシーンも(時間切れで0点)。攻める気持ちは忘れなかった。

国際舞台の実績では先に行かれたが、「焦りはなかった」

小野と西内は、ともにアテネ・オリンピックのあった2004年生まれ。小野が2月生まれなので、学年は1年上。島根・加茂B&Gクラブの選手として全国少年少女選手権5度優勝。佐賀・鳥栖工高時代の2019年に1年生インターハイ王者となり、21年大会も優勝。コロナで大会が中止にならなければ、3連覇はありえた。

西内は高知・高知クラブの選手としてキッズ界を席巻し、2021・22年インターハイ優勝の成績を残し、世界ジュニア(現U20)選手権が現在の年齢区分になってから、日本の男子高校選手として初めて優勝した選手。

大学進学後は、小野が負傷続きで、この大会は2年連続で欠場して世界への道がつながらなかったのに対し、西内はチャンスをものにし、U20世界選手権を連覇するだけでなく、2023年2月の「ザグレブ・オープン」(クロアチア)では、U23世界王者のインド選手を破って銀メダルを獲得。シニアの国際舞台でも台頭した。

少なくとも国際舞台での実績では、小野は西内に先を行かれた形だ。小野は、その点について「目標はU20ではありません。抜かれたかもしれませんが、焦りはなかったです」と言う。けがをしっかり治すことが大事で、目先の成績にこだわらず、本当の目標をしっかりと見据えて「今日がある」と胸を張った。

▲1点をめぐる激しい攻防。ハイレベルの激しい展開が続いた

動くことだけが練習ではない、課題は「考えて練習すること」

けがとは、ろっ骨の故障などで、そう簡単に完治しないし、完治かどうかも分からないのが現実。しかし、今年は3月の「ヤシャ・ドク&ベービ・エムレ国際大会」(トルコ)優勝、4月のアジア選手権2位(65kg級)と好調を続けており、現在は試合をする分には問題はない。このまま勢いを、61kg級へ出場する明治杯全日本選抜選手権へ持ち込みたいところ。

「(オリンピックは)57kg級で目指すか、65kg級で目指すか分かりませんが、どちらでやるにしても、今年は61kg級で圧勝して(10月の非オリンピック世界選手権の)日本代表になることが必要です」と力強く言う。10月の非オリンピック世界選手権(10月・アルバニア)の日本代表になるには、全日本選抜選手権で勝ち、続いて行われるプレーオフで勝つことが必要。

このあとは、それに全力を尽くすことになるが、勝ってもそこが目標ではないことを強調した。「通過点でしかありません」と語気を強める。

▲今年に入って絶好調の小野。2024年の台風の目となるか

今後の成長で必要と思うことを聞くと、「考えて練習すること」との答。これまでは「動くことが練習」と思っていたそうだが、動くことを減らしてでも、「考えてレスリングをし、闘いをイメージすることが必要と思うようになりました」と言う。昇り調子の選手にとっては、練習を休むことにも恐怖を感じるものだが、「休むときは、しっかりと休みたい。強弱をつけて練習することが必要なんだと思うようになりました」と言う。

最後に付け加えたのが、「今年は山梨学院大の団体優勝に貢献します」-。昨年の東日本学生リーグ戦、全日本大学選手権とも、負傷で欠場。チームには「小野がいてくれたら…」との思いがあった。世界を目指すとともに、今年こそは団体優勝の美酒を目指す。

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