「チームの危機を救う」黒川淳史が語る「今季15ゴールとJ1昇格の夢」【崖っぷち「水戸ホーリーホック」の救世主を探せ】(4)

4月27日に行われた明治安田J2リーグの対藤枝MYFC戦を2-3で落とし、残留争いの荒波に飲み込まれた水戸ホーリーホック。この危機的な状況を打開するためには、どうすればいいのか。サッカージャーナリストの川本梅花が、藤枝MYFC戦で存在感を発揮した「流浪のアタッカー」黒川淳史への試合後のインタビューを基に徹底分析。水戸ホーリーホックの現在のチーム状況と、クラブの未来を担う「救世主」の存在を吟味する!

アンデルソンの63分逆転弾「水戸の守備陣営が崩壊」

同点弾となった52分の大曽根広汰のゴールは、水戸の2つのゆるい守備が原因となっている。藤枝のセンターハーフの新井泰貴が出したパスに、大曽根が左足でゴールに流し込む。まず、新井がフリーでボールを持てることが問題だ。フォワードの安藤が途中から気づいて追いかけてプレスに行こうとしたが時すでに遅し。水戸は4バックの最終ラインと中盤の4人のラインでブロックを作っていたのだから、ポジションを捨てて新井にプレスに行くと、自分のいた場所がフリースペースになってしまうため、無防備に前へ出られない。安藤は新井の動きに気づいていたのなら、最後まで責任を持って新井について行ってもよかった。さらに、左サイドバックの大崎は、ボールウォッチャーとなってしまって、自分の背後にいた大曽根の存在にすら気づいていない様子だった。

逆転弾となった63分、途中出場のアンデルソンが矢村健からのスルーパスを左足でゴール右隅に決めた。この場面、水戸の守備陣形は崩壊していた。4バックでブロックを作って守らなければならない状況なのに、藤枝の右タッチラインにいる大曽根に対し、ポジションを捨てて大崎が前進してプレスに行ってしまう。本来ならば、アンデルソンをマークしなければならない役割だ。フリーになったアンデルソンには山田奈央が後追いでケアしに行くことになるが、当然、間に合わない。

「自分たちの気持ち次第でどうにでもなった試合」

水戸は83分に落合陸の豪快なシュートで同点に追いつくが、87分に藤枝のコーナーキックからまたしてもアンデルソンに逆転シュートを決められる。水戸はゾーンで守っているのだが、キーマンとなる相手選手には誰かが付く守備をする。しかし、アンデルソンを完全フリーにしてしまっては、なす術もない。こうしたプレーを目の前にして、黒川は水戸の抱える問題点に言及した。
「課題となっているクロスからの失点の多さ。そこはチームでも課題の一つとしてあげられていますけど、そもそもチームの戦術としてなのか、駆け引きとしてなのか、守れるところもあるので、もっともっと、いろいろできることがあると思うんです。
今日の失点ですが、チームとしてはゾーンで組んでいるので、状態は悪くないというか、きちんとゾーンを作れていた。アンデルソンのほうがパワーを持っているじゃないですか。そこの個人のところで、相手のパワーを止めるというか、スピードを止める駆け引きだったり、一回アタックしてそこに行かせない。戦術とは違う個人的な駆け引きがあったほうがいい。ゾーンを組んでいるからOKとか、マンツーマンだからOKとかではなくて、ひとり1人の駆け引きのところでやっていかないといけない部分があると思うんです。
最近、得点をとった後に失点をすることが多いですし、得点とってゼロで守れれば勝てるわけで。今日は特に、自分たちで難しくしてしまった試合でした。入りは悪い内容ではなかったので、自分たちの気持ち次第でどうにでもなった試合だったと思います」
監督の仕事は、戦略や戦術を組み立てるだけではなく、選手のモチベーションをいかに上げていくのかも重要な仕事になってくる。と同時に、選手も黒川が述べたように「ひとり1人の駆け引きのところでやっていかないといけない部分」を個人が思考して積み上げていかなければならない。

「黒川は水戸の救世主になりますか」と聞かれたら

藤枝戦を振り返った黒川は「相手はサイドに人数をかけてきたので、そうした状況で高い位置を取るのは難しかった。でも攻撃と守備は表裏一体なので、そこは自分たちも思い切って優位性を持てれば、いい守備につながっていくし、逆にいい守備ができれば、攻撃にもつながっていく」と語った。
このシリーズの冒頭で述べたように、水戸は危機的な状況にある。水戸の危機を回避する救世主として、私は黒川淳史のプレーに託したい。「流浪のアタッカー」となった彼は「特に若い選手がこのチームには多いですし、経験が少ないと言ってしまえば、それまでなんですが、僕はけっこう経験してきているほうだと思うので、そうしたことをチームに活かしたい。チームに自分の経験を還元すること、そして結果を残したい」と一点を見つめて話す。
「具体的な数字はあるの?」と私が問うと「15ゴールを決めることです」とキッパリと言い切った。もしも15ゴールをあげたのなら得点王にもなれるし、昇格だって夢ではない。黒川の発言には、相当の覚悟がうかがえた。
かつ て「大宮ユースの最高傑作」と謳われた1人の選手が、幾度も煮え湯を飲まされて26歳になり、自分が飛躍したきっかけを作ってくれたクラブに帰ってきた。私は彼と話していて、「苦労したんだね」とは言いたくなかった。だから、言葉を代えて彼に伝えた。「ずいぶん俯瞰した視点を持てるようになったんだね」。もし、サポーターに「本当に黒川は水戸の救世主になりますか?」と聞かれたら、「なれるとも。私は彼を信じている」と即答する。

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