“特攻隊長”本間多恵が感じた世界のプロレス、異国のリングへの挑戦

【WEEKEND女子プロレス♯10】

写真:新井宏

歌手にあこがれて愛知県から上京、ミュージカル俳優からふとしたきっかけで女子プロレスラーになった本間多恵。アクトレスガールズでデビューし、現在はフリーとしてさまざまなリングで活躍中だ。国内はもちろん、近年では海外も視野に入れて闘っている。気がつけばメキシコを皮切りにアメリカ、ヨーロッパでも試合をするようになっていた。

役者として海外での活動も夢見ていたという本間だが、まさかプロレスラーとして外国に行くとは思ってもみなかった。海外マットへのあこがれは、メキシコ人レスラーと試合をしたことから始まった。

外国人レスラーとの初遭遇は、デビューから2年後の17年7月1日、REINA新木場大会における米山香織&夏すみれ&本間組vs真琴&加藤悠&レイナ・イシス組の6人タッグマッチ。ここで本間は新しい世界に触れたような気がした。メキシコからやってきたイシスのプロレス、すなわちルチャリブレに、いままでにない感触をおぼえたのだ。

「初めてルチャリブレという世界に触れたとき、私もこれをやりたいと思ったんですね。そこで話を聞いたり映像を見るようになって、歴史もあって華やかなメキシコのプロレスを知り、アレナ・メヒコという大きな会場もあると知ったんですね。それで私もアレナ・メヒコで試合をしたいと言ったんですけど、『絶対無理やろ』『行けるわけないじゃん』って否定的な反応しかなかったです(苦笑)」

翌年2月27日のJ@st旗揚げ戦ではイシスと組んでラ・ハロチータ&清水ひかり組と対戦した。そして19年1月27日には、マルセラの保持するCMLL世界女子王座に初挑戦。同王座は、世界最古の団体であるメキシコCMLLが認定する女子のシングルタイトル。今年WWE殿堂入りを果たしたブル中野を初代王者に、日本人ではレイナ・フブキ(北斗晶)、吉田万里子、HIROKA、栗原あゆみ、朱里が保持していたベルトである。

その由緒あるタイトルに挑戦し、3本勝負を初体験。敗れはしたが、本間はこの試合を機にメキシコへの思いがますます大きくなるのを実感した。

すると、マルセラの方から「タエが本気でメキシコで試合したいなら、私がアテンドしましょう」と声がかかった。本間の熱意がCMLL王者に伝わったのだ。マルセラはベルトを巻く前から何度も来日し、日本人選手と対戦している。どうやら真摯な気持ちでタイトルに挑んできた本間に可能性を感じたようだ。

19年4月、初の海外遠征が実現した。しかも初戦からいきなりアレナ・メヒコという夢の舞台だ。アレナ・メヒコはCMLLの本拠地で、約1万7000人を収容する、日本では横浜アリーナに相当する大会場。ここでCMLLは毎週火曜日と金曜日に定期戦を開催しているのだから、スケールの違いがわかるだろう。

写真:新井宏

本間はアレナ・メヒコ2大会とグアダラハラ大会に参戦。アレナ・メヒコではビッグアリーナならではの花道も歩いた。

「入場前はとんでもなく緊張しましたね。でも、入場となって花道に一歩踏み出した途端、お客さんの声援や鳴り物での応援がすごくて、アドレナリンなのかな、一瞬で緊張はなくなりました。ずっと興奮状態でしたね。それは試合が終わっても続きました」

メキシコでは3試合とも6人タッグマッチ。CMLLではこの形式が基本であり、現地では小林香萌、マルセラともトリオを組んだ。

この年の11月にはイタリアでも試合をした。北部の都市ウディネで開催されたイベント的な試合で、本間は松井珠紗と組んで真琴&つくし組と対戦。日本の女子プロレスを紹介、お披露目するようなマッチメークでもあった。「ショッピングセンターみたいなところで、すごいお客さん入ってましたね!」

(写真提供:CMLL)

(写真提供:CMLL)

その後、世界が新型コロナウイルス禍に見舞われ、海外での活動は休止せざるを得なくなった。それでも22年10月、ようやく2度目のメキシコ遠征が実現した。こんどは前回の2会場に加えアレナ・コリセオ、プエブラを含む7大会、さらにローカルプロモーションの2大会にも参戦した。アレナ・メヒコでは「グランプリ」という女子のビッグマッチにも登場。メキシコvs多国籍軍の図式で、本間、清水、駿河メイが日本代表だ。

「グランプリはお祭りというか、オリンピックみたいな感じがありました。多国籍軍にはアメリカ人やチリ人もいて、すごく華やかでしたね。そのぶん、自分が埋もれてしまう危機感もあったりして、すごく楽しかったけど、すごく悔しい思いもしました。たとえば、やり切りたいと思ったところで自分を出し切れなかったり、思うようにいかなくて悔し泣きしましたね。勝ちたい気持ちが前回よりも明らかに大きくなっていました。そのぶん、以前より気持ちに余裕があったのかもしれませんけど。いずれにしても、うれしかったり悲しかったり、感情が鮮明に出た遠征でした」

(写真提供:KitsuneWomen’sWrestling)

2度目のメキシコ遠征から一年後の昨年10月、こんどはアメリカで試合をするチャンスを得た。日本の女子プロレスをモチーフにした“キツネ”がロサンゼルスで旗揚げされ、日本人選手が大挙渡米。そのなかには本間も含まれており、彼女はウナギ・サヤカとともにメインのキツネ世界王座決定3WAYマッチに抜てきされた。タイトル奪取には至らなかったとはいえ、現地プロモーターの本間に対する期待の高さがうかがえたのだ。

「メキシコの次はアメリカで試合をしたいと強く思っていたので、オファーをいただいてとてもうれしかったです。しかも、新しい団体の新しいベルトでメイン。選んでいただけてすごく光栄でした。試合では日本人が多かったせいか、メキシコにくらべればあまりアウェー感はなかったですね。ただ、アメリカ人の選手からは自己主張の強さを感じました。自己プロデュース力がうまいというか、『私はこういう唯一無二のレスラーです!』という主張がすごい。自分を前に出す力が乏しいと(アメリカでは)生き残っていけないんだろうなと感じました」

(写真提供:ProWrestlingEVE)

そして今年3月にはイギリスのEVEに遠征、ロンドンで2試合をおこなった。EVEはイギリスで唯一の女子プロモーション。現在WWEで活躍する多くの女子選手がこのリングを経由して世界のスーパースターとなった。ヨーロッパの女子選手にとって登竜門的リングと言っていいだろう。

「イギリスでは2試合して、両方とも第1試合のシングルマッチでした。プロモーターからは『第1試合とメインが大事だから』って言われたんですよ。それって日本でもよく言われますよね。『大事だから頼むよ』みたいに言われて、めちゃめちゃプレッシャーでした(笑)」

(写真提供:ProWrestlingEVE)

対戦相手は初日がレイチェル・アームストロングで2日目がアレックス・ウィンザー。レイチェルはキャリア3年弱で、これがEVE初参戦だった。一方のアレックスは元EVE王者で東京女子のインターナショナルプリンセス王者にもなった実力者だ。対照的な選手と連日の初対戦。このマッチメークも、本間にかけられた期待の表れだったのだろう。

「(アメリカ人の)レイチェルは海外の選手と闘うのが初めてらしくて、かなりナーバスだったみたいです。アレックスは、ストロングでメインみたいな試合。初日と2日目で全然タイプの違う試合でした」

(写真提供:ProWrestlingEVE)

メキシコ、アメリカ、ヨーロッパのリングを体験した本間。では、“世界のプロレス”に何を感じて帰国したのだろうか?

「どっちかというと、イギリスが一番日本に近いかなという感じがしました。ファイトスタイルがストロングもありつつ、エンターテインメント性もある。両方が融合している感じが日本に近いかなって。メキシコはそもそも3本勝負だったりキャプテンフォールだったりでルールからして違うし、練習方法もロープありきで始まる印象です。こっちが学んできた基礎とメキシコの基礎は違うんだろうなと思いました。海外に共通するのは、盛り上がり方のレベルが違うというか。といっても、プロレスってエネルギッシュで楽しいもの。それは日本でも変わらないので、海外で感じたものや出会った人たちから得たものを日本に持ち帰って、その生の感覚みたいなのを循環させていきたい気持ちがすごく大きいですね!」

(写真提供:ProWrestlingEVE)

今後も海外での活動を頻繁におこなっていきたいという本間。まずは国内で大きな勝負が続くことになる。5・5後楽園で開幕するwaveのシングルリーグ戦「CATCH THE WAVE」に初エントリーされたのだ。

「アクトレス所属の頃から後輩が出ているのを見て、盛り上がっていいなと思っていました。ふだんあたれないような選手とも対戦できると思いますし、何が起こるかわからないリーグ戦なので、今回参戦できるのがめちゃメチャうれしいし、めちゃめちゃ燃えてます!」

さらに、主戦場のひとつであるディアナの5・26名古屋で、梅咲遥のWWWD世界シングル王座に初挑戦。21年6月に挑戦が決定していながら井上京子との前哨戦でヒザを負傷、タイトルマッチが流れてしまった経緯がある。あのときのリベンジであり、そのときタッグを組んでいた梅咲が現王者というのも、本間にとっては燃える要素だろう。

めざすはwave波女の称号とWWWD世界シングル王者のベルト。このふたつを持って、海外マットに上陸したい。

写真:新井宏

<インタビュアー:新井宏>

▼本間多恵:写真ギャラリー(写真:新井宏)

© 株式会社リアルクロス