「対話のため」ロシア語学ぶ学生 侵攻前後で動機に「大きな変化」 外大の定員今年も埋まる

モスクワ大交換教員の授業を受ける神戸市外国語大ロシア学科の1年生=神戸市西区学園東町9

 ロシアのウクライナ侵攻で戦況が膠着(こうちゃく)する中、神戸市外国語大学(同市西区)のロシア学科は今年も定員が埋まり、41人が入学した。ロシア人の教員の発音に耳を傾け、私語一つない教室は真剣そのもの。ロシアに対する国際社会の視線は厳しいが、今なぜ、ロシア語を学ぶのか。10代後半で進路を決めた新入生と、学生たちを支える大学の思いを聞いた。(鈴木久仁子)

 同学科の2023年度入試(24年度入学)の志願者数は136人で、前年度(135人)とほぼ変わらず。侵攻前の19年度(159人)や20年度(119人)に比べても、極端な差は見られなかった。ただ、その志望動機には「大きな変化が見られる」と金子百合子教授(50)は話す。

 これまでの定番は、ロシアの芸術やスポーツへの関心。語学力を生かし、ロシア語圏の商社やグローバル企業に就職することも可能なため以前から一定の人気はあったが、「外大の中では比較的入りやすい」という面も少なからずあったという。

 それが今は変わった。「ロシア側から侵攻を見て考えたい」「メディアで語られる視点や有識者は欧米寄り。自分で確かめてみたい」など、ロシア側の主張について「翻訳機などを通さず、自分でじかに読んで調べてコミュニケーションを取りたい-という明確な動機が出てきた」と金子教授は指摘する。

 22年の侵攻開始後、反ロシアの声が高まるのを懸念した神戸外大は、「ロシア学科で学ぶ在校生の皆さん、卒業生そして新入生の皆さん」と題したメッセージをホームページに掲載して大きな反響を呼んだ。「敵か味方か」「黒か白か」。そんな単純な二項対立でロシアに関する全てが一方的に否定され、非難を浴びるかのような風潮に、ロシア学科の教員らが警鐘を鳴らす内容だった。

 1年生の門田宙(そら)さん(18)は「戦争後のロシアに関わりたい。多くのエネルギー資源があり、宇宙開発でも日本には欠かせない存在になる。その時に、身に付けたロシア語で役に立ちたい」とビジョンを語る。同じく1年生の小林令依さん(18)も「高校生の時に読んだビジネス書で、ロシアからの視点も大事だと痛感した。自分で確かめたい」と意欲を見せる。

 4年間しっかり学べば、専門的なテキストの読解、プレゼンテーションや交渉に必要な自己表現力、対話力まで身に付けられる。

 金子教授は「真実を見極める土台は個人にある。それには人間同士の対話が絶対に必要」と強調。そのためにも平和が訪れ、留学の道が一刻も早く再開されることを待ち望む。「それまで学習意欲が落ちないよう、学生を支えていきたい」と力を込めた。

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