読書をする人としない人とでは、平均寿命に2年の違いがある【科学が証明!ストレス解消法】

「本を読む」ことは心に好影響をもたらす 

【科学が証明!ストレス解消法】#163

「読書療法」(ビブリオセラピー)という言葉を知っていますか? 心の病気(うつやノイローゼなど)がある人たちに対して、読書をすることで治療を施すプログラムです。

日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、イギリスでは政府公認で医師が精神患者に対して薬ではなく本を処方する医療システムがあり、イスラエルでは「読書セラピスト」という国家資格があるほどです。私たちが想像している以上に、「本を読む」ことは心に好影響をもたらすのです。

そもそも読書にはどのような作用があるのか。カーネギーメロン大学の研究では、8歳から10歳の子どもに半年間で100時間の読書をしてもらい、その前後で脳にどのような変化があるのかを調べたそうです。

その結果、「白質」という情報処理を担当する脳の部位がよく働くようになったといいます。賢い人は読書をしているイメージがあると思いますが、実際に本を読むことで脳の情報処理速度は向上するというわけです。

また、エール大学の研究者が実施した研究(2016年)では、本を読むと本を読まないとでは寿命に差異が生まれることも判明しています。

この研究は、50歳以上の参加者3635人を12年間にわたって追跡調査した大がかりなものでした。まず、①読書をしない人②週に3.5時間未満しか読書をしない人③週に3.5時間以上読書をする人という具合に3つのグループに分け、その上で各グループにどのような変化があるのか追跡しました。

12年間の調査の末に分かったことは、②の週に3.5時間未満しか読書をしない人は、研究期間中に死亡する可能性が、①の読書をしない人に比べて17%低かったということ。そして、③の3.5時間以上読書をする人は、さらに23%も死亡する可能性が低くなったといいます。実に、読書をする人と読書をしない人とでは、平均寿命に2年の違いがあることが分かりました。

この研究では、読書には深い没頭や共感の促進などの認知プロセスが含まれており、それが健康上の利点をもたらす可能性があると唱えています。

読書療法では、主に小説や伝記が使われるのですが、フィクションやエンターテインメント作品にも心に油を差すような効果があります。自分一人では体験できないことを想像することで、感情が鍛えられ、感情の機微が分かるようになります。

漫画では軽すぎないか?といった論調もありますが、感受性を鍛えるためには、フィクションやエンターテインメント作品は大事です。しかし、もっとも効果が期待できるのは、やはり一文字ずつ活字を追っていくことで脳をフル回転させる小説などの書籍でしょう。

たとえばですが、漫画は開いた瞬間に、「砂漠の描写」だと分かりますが、文字は読んでいくことで自らの脳内に「こんな砂漠かな」と想起させます。そのプロセスが心を豊かにしてくれるのです。心がすさんでいるときは、ゆっくりと本を開いてみてください。

(堀田秀吾/明治大学教授、言語学者)

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