【伊達公子】右肩の痛みと共に戦った現役時代。当時は手術より痛みを選んだ<SMASH>

苛酷なツアーを回るテニス選手にとって、身体の痛みは付きまとうものです。全く不安を抱えないでプレーできている選手は限られていると思います。私はファーストキャリア後半の時に、常に右肩の痛みがありました。原因は使いすぎです。

ドクターからは手術はしても、しなくてもいいレベルと言われて、私はしない決断をしました。身体にメスを入れて傷が残ることが嫌でしたし、手術に対する抵抗感もあり、痛みを受け入れることにしたんです。

連戦になるとコップを持てないぐらいの痛みがありましたが、ツアーに出ていると休むわけにはいかないので常にケアをしつつ、トレーニングで周りを強化することでうまく付き合っていくしかなかったです。サービスがつらいので、アンダーサービスを打とうかと思ったことは何度もありましたね。炎症止めや痛み止めを飲んで試合に臨んでも、痛いですよ。耐えて戦うしかありません。これは引退まで続きました。

手術しないと改善はしないため、肩の周りを鍛えました。ただし、筋力が付きすぎると動きが悪くなりますし、可動域も柔軟性も必要です。そういう部分を考えながら強化していきました。
選手はケガに対してはある程度は受け入れる覚悟が常にあると思います。嫌なのがツアーから離れることです。手術をすると、そこからリハビリをして復帰するには、少なくても2、3カ月はかかります。ツアーから離れて、その期間を取り戻す時間や作業がきついんです。だからこそ、手術まで行かない段階で、故障を留めることができるに越したことはありません。

最近はスケジュールが苛酷になり、ジュニア時代から故障が出てきています。身体が成熟していないのにトレーニングをするなど、鍛えるタイミングを早くせざるえない状況になってきていますから。だからこそ、練習をするだけでなく、身体を休ませる習慣や、メンテナンスをすることの重要性を知ってほしいと思います。

ただ、こういうことは痛い思いをしなくてはわからないものです。ジュニアの年代だと、寝れば元気になるので、メンテナンスをしたことでの変化に気付けません。時間を割いてメンテナスして「何が違うの?」という感覚だと思います。でも、その重要性を言い続けるしかありません。それがケガが少ない、強い身体、長いテニスキャリアにつながるのです。

セカンドキャリアで私はヒザの手術をしました。最初は内視鏡の手術だったため、切る部分も小さく、回復も早かったです。早く回復し、痛みや腫れるというサイクルを断ち切るために、内視鏡の手術ならやってもいいのではという頭の回路になりました。医学の進化のおかげです。選手は痛みを抱えてプレーしていますが、負担が少ない手術で済むなら、やることも選択肢に入れられる時代になったと感じます。

文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン

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