『猫の恩返し』『夏目友人帳』『化け猫あんずちゃん』 タイプごとに異なる“猫キャラ”の魅力

5月3日に日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送される『猫の恩返し』(2002年)は、スタジオジブリ制作の長編アニメ映画『耳をすませば』に登場する猫のキャラクター・バロンが本格的に動いて、吉岡ハルという女子高生を猫王から助けようとして大活躍する。そのカッコよさに惹かれる人もいれば、他にもたくさん登場する猫キャラたちのかわいらしさに溺れる人もいて、宮﨑駿監督や高畑勲監督の作品とは違った支持を集めている。猫が持つ魔性の魅力は『猫の恩返し』以外のアニメ作品でも発揮され、ある意味で一大ジャンルを形成していると言ってもいい。

高校生のハルが、何か包みをくわえて車道を横切ろうとして車にひかれそうになっていた猫を助けたら、それが猫の国の王子ルーンだったらしく、夜になって父親の猫王がやってきてハルに感謝の意を示し、果てはハルをルーンの妻にすると言い出した。それは困るとハルは、聞こえてきた声に従い「猫の事務所」にいるバロンという、元は人形だった猫に相談するが、猫王は臣下に命じてハルを猫の国へと連れて行き、ハルの姿もだんだんと猫になっていく。

なんとはた迷惑な親バカぶりだと思いつつ、猫耳が生えて手に肉球ができたハルはなかなかにかわいらしく、そういう姿で猫の国の国民たちとのんびり暮らすのも悪くないんじゃないかと思えてしまうから猫という生き物は罪深い。とはいえ、ハルには人間としての都合もある。それを自覚させ、猫王に追われるハルを助けて人間の国へと戻そうとするバロンの振る舞いが強くて優しくてカッコいい。やり方は拙かったが、恩返しをしたいという猫王も悪い猫ではなさそうで、そんなキャラたちを通して猫への関心を誘ってくる作品だ。

はた迷惑という意味では、新海誠監督の長編アニメ『すずめの戸締まり』(2022年)に登場するダイジンも恩返しの気持ちが行き過ぎて、主人公の岩戸鈴芽を厄災が漏れ出てくる「扉」を閉めて回る危険な旅へと誘い出す。邪魔だからといって「閉じ師」の大学生、宗像草太を椅子に変えてしまう悪さも見せるが、長く要石として世界を守ってきたことを思うと、解放された喜びにはしゃぎ過ぎただけだと同情もしたくなる。要石に戻されても誰か会いにいってあげているだろうか? そんな思いも浮かんでしまう。

『猫の恩返し』と同じように、人が猫になってしまう長編アニメに佐藤順一監督と柴山智隆監督による『泣きたい私は猫をかぶる』(2020年)がある。猫になれる仮面を被って好きな少年に近づいていた少女が、そのまま猫から戻れないかもしれない事態に陥って、自分の姿で本当のことを言い出せずにいたことを後悔する。自分を偽るという意味で“猫を被っている”人に、勇気を与えてくれる作品だ。

猫の愛らしさがこれ以上にないくらい炸裂している長編アニメなら、『グーグーだって猫である』の大島弓子による漫画を原作にした『綿の国星』(1984年)が筆頭に挙がる。雨の中を捨てられて弱っていたチビ猫が、予備校生の須和野時夫に助けられ、一緒に暮らす中で冒険をしたり、命について考えたりするストーリーだ。

特徴は、チビ猫が自分のことを人間だと思っているため、ふわふわの髪に猫耳を生やしたエプロンドレス姿の幼い女の子として表現されていること。そのようなキャラが冒頭で、雨の中をペタンとしゃがみこんで困っている姿を見せられるだけで、なんとかしてあげたいという気持ちにさせられる。

幸いにしてチビ猫は、受験に失敗して情緒が揺れていた時夫の快復に役立つと考えた母親が、猫アレルギーを我慢してチビ猫を飼ってもいいと言ったことで須和野家の一員になる。ビジュアルだけでも反則級に可愛いチビ猫がトコトコと走ったり飛び回ったりするから観ている人はたまらない。なかなか自分に触れられないでいる母親に遠慮して、ラフィエルというバロンとは違ったカッコよさを持つ猫と一緒に旅に出ようとする振る舞いも健気。ある意味で気分屋とも言えるが、それも含めた猫という生き物の愛らしさが、全編を通して放たれる映画だ。公開からちょうど40周年。配信だけでなく大々的な上映なり、Blu-ray化といった動きを通して“再発見”されてほしい作品だ。

カッコいい系の猫キャラでは、東映アニメーションのシンボルマークになっているペロを避けては通れない。アニメ映画『長靴をはいた猫』(1969年)に始まり『ながぐつ三銃士』(1972年)や『長靴をはいた猫 80日間世界一周』(1976年)に登場したキャラクターで、知恵と勇気で魔王や無法者と戦い、世界一周という試練を乗り越える。ストーリーの面白さもキャラの造形も一級だが、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)で組んだ宮﨑駿と大塚康生がアニメーターとして参加し、スペクタクルなシーンを描いているのも見どころ。『となりのトトロ』(1988年)、短編『めいとこねこバス』(2002年)に登場するねこバスや『魔女の宅急便』(1989年)のジジといった、ジブリ作品の猫キャラたちの源流がそこにあると言える作品かもしれない。

カッコよさ、かわいらしさとは少し違った不思議な魅力を持った猫キャラなら、緑川ゆきの漫画が原作のアニメ『夏目友人帳』(2008年~)のニャンコ先生が今はトップクラスの認知度か。妖(あやかし)が見えてしまう不思議な力を持っているため、幼い頃から親戚中をたらい回しにされていた夏目貴志が、遠縁の藤原夫妻に引き取られて一緒に暮らすようになったある日、祖母の夏目レイコが作ったという妖の名前を書いた「友人帳」を妖に狙われ、襲われるようになる。斑という名の妖もその一体だったが、貴志が死んだら「友人帳」をもらうという条件で貴志の用心棒になる。

そこでバロンのようにカッコよければキャラとして人気は出ても、グッズとして売れまくるほどにはならなかっただろう。それもこれも斑が招き猫を依り代にして、傍目には太った猫にした見えなくなってしまったため。口は悪く食いしん坊でおっさん臭さ全開のニャンコ先生だが、普段は強力な力を発揮して貴志を狙う妖たちを退け、時に巨大な狐とも犬とも言えそうな姿に戻って暴れ回る様は頼もしく、傍らにいてほしいと思わせる。

ニャンコ先生も、『妖怪ウォッチ』(2014年~)のジバニャンも『ゲゲゲの鬼太郎』(1968年~)の猫娘も、妖怪や幽霊の類として関心を持たれる一種の猫キャラと言えそうだ。西尾維新の小説が原作の「物語シリーズ」にあって、ヒロインの一人の羽川翼にとりついた猫の怪異も、そうした流れに乗る猫キャラだろう。アニメ『猫物語(黒)』(2012年)に登場して羽川の肉体を乗っ取り現れた怪異は、羽川本人とはギャップのある自由奔放な言動で観る人を魅惑する。その意味ではもっともキケンな猫キャラかもしれない。

人間に寄り添ってくれそうな猫のイメージは、どこか孤独感に苛まれている現代人を癒やしてくれるのだろう。2020年代に入ってもいろいろな作品に猫キャラが登場して癒やしてくれたり、叱咤してくれたりする。おぷうのきょうだいの漫画が原作のTVアニメ『俺、つしま。』(2020年)では、“おじいちゃん”と呼ばれる人間に、大塚明夫の渋さが炸裂した声を持ったつしまという猫が絡む展開で心をキュンとさせる。山田ヒツジの漫画が原作の『デキる猫は今日も憂鬱』(2023年)は、生活能力ゼロの会社員を巨大な二足歩行をする猫の諭吉が支える姿に、家にいてほしいと思わせる。

アンギャマンの漫画が原作のTVアニメ『ラーメン赤猫』(2024年)も、文蔵をはじめとしたラーメン店の猫店員たちの健気な働きぶりが、ブラック企業でこき使われて心を痛め、ラーメン店に転職した社珠子というヒロインを通して伝わってきてホッコリさせられる。

映画『化け猫あんずちゃん』特報
そんな猫漫画を原作とした猫アニメの最新作となるのが、7月公開予定の長編アニメ『化け猫あんずちゃん』(2024年)だ。いつの間にか化け猫になっていたあんずと飼い主の和尚の日常を描くシリーズだが、映画はダンサーで俳優の森山未來が演技した姿を撮影し、それをなぞって絵にする「ロトスコープ」の手法でアニメ化される。

NHKの連続テレビ小説『虎に翼』のタイトルバックでも使われている手法で、役者の演技がアニメのキャラクターに反映されて、不思議な味わいを醸し出す。肉体を駆使することにかけては群を抜く森山の演技が、あんずちゃんという化け猫キャラに乗って動き始めた時、浮かび上がるのは愛らしさか、それとも頼もしさか、はたまた面白さか。アヌシー国際アニメーション映画祭2024の長編コンペティション部門に正式出品されることも決まって、これから話題を集めそうだ。
(文=タニグチリウイチ)

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