西洋剣戟ゲーム『Hellish Quart』の新剣士タルナフスキーのスタイル「マイヤー剣術」を検証!

西洋剣戟ゲーム『Hellish Quart』の新剣士タルナフスキーのスタイル「マイヤー剣術」を検証!

西洋剣戟ゲーム『Hellish Quart』に、先日新キャラが追加されました。

海外レビューひとまとめ『フォーエバーブルー ルミナス』―ニンテンドースイッチが“ゲーム”機を超えて提供できるものの幅を広げた

その剣士の名はタルナフスキー。武器はデュサックという片手持ちのサーベルで、16世紀ドイツのヨアヒム・マイアーという剣豪のスタイルをベースにしています。

ただでさえオッサンの多い『Hellish Quart』に、またしても新しいオッサン剣士が登場しました。かなりいかつい顔ですが、このオッサンは果たして強いのか? というわけで、今回も中国拳法修行中の筆者澤田真一がタルナフスキーさんの剣技を検証してみたいと思います。

『Hellish Quart』は「格ゲー」ではなく「フェンシングシム」

『Hellish Quart』は、当たりどころによっては一撃で決着がついてしまう剣戟ゲーム。そのため、日本では「西洋版ブシドーブレード」と呼ばれることがあります。ただし、『Hellish Quart』は「格ゲー」というよりも「フェンシングシミュレーター」に近いコンセプトを含んでいます。2人の剣士が同じ技を同じタイミングで繰り出したとしても、微妙な角度やお互いの距離によって結果が全く異なります。

実際にプレイすれば理解できますが、このゲームは引き分けが非常に多い! 相手を斬ったからと言って、相手の剣の動きが止まるとは限らないからです。従って、オリンピックフェンシングのフルーレやサーブルのような優先権ルールも選択可能。どちらかが優先権を持っていれば、相打ちになった場合も必ず決着がつきます。

さて、今回追加されたタルナフスキーさんの剣技を見ていきましょう。武器はデュサックという片手剣です。

ここではヤツェクさんとの試合の画像で解説することにします。ヤツェクさんのモーションアクターは、HEMA(西洋古式フェンシング)の世界チャンピオン、アントニ・オルブリフスキー選手。「さすが世界チャンピオンだな」と思うのは、腕よりも手首を使って細かいスイングをしている点です。

中国拳法の詠春拳でもそうですが、手首を使うことにより最低限の動きで攻撃を繰り出したり、逆に敵の攻撃を捌いたりできます。従って、中国拳法も西洋剣術も手首の柔軟さが物を言います。

腕を大きく振り回す剣士

ところが、タルナフスキーさんの場合は見た感じ手首よりも腕を大きく振り回しているようです。

この人、時折非常に大胆な構えを見せます。相手と向き合った状態で、何と右肩に剣を担ぐような仕草も。ここから繰り出される下からのフォアハンド斬撃は迫力満点ですが、いささか隙が大きいと思ってしまったりも……。

腕を大きく振り回す攻撃は見た目こそ豪快ですが、どうも胸が開いてしまう場面が多いと筆者は感じました。鎧を着ない剣術において「手首を回す」ことが非常に重要になる理由は、極力防御の姿勢を保つためでもあります。

イタリアンレイピアのマリー先生、スパニッシュレイピアのマルタ先生を相手にした場合、案の定タルナフスキーさんは胸の開いたところを突かれやすい。うーん、タルナフスキーさんってもしかして、そんなに強くない……?

16世紀の武術書がKindleに!

いやいや、単にゲームをプレイしてみただけでタルナフスキーを「弱い」などと言ってはいけません。ここはヨアキム・マイヤーが執筆した本をKindleで購入して読んでみましょう。このマイヤーは16世紀の人物ですが、何と彼が生前に書いた武術書「The Art of Sword Combat」が電子書籍になっています。

これを読めば、古の武術を理解できる! と考えたのはいささか浅はかでした。

マイヤーの本は木版画のイラストを文章で解説するという書き方ですが、「相手がこう斬りつけた場合は足をこう踏み出してここを攻撃する」というような記述を読んでもなかなかピンと来ません。格闘技というのは文章だけでその動きを説明し切れるものではなく、実際にそれをやっている動画を見ないと「ああ、そうか!」とはなりません。

やむを得ず、マイヤー剣術を実践している剣士の動画をYouTubeで探して視聴します。そうして調査して分かったのは、マイヤーはデュサックだけでなく両手剣やレイピア、棒術なども扱っているということ。そして、「映像を残すことができない」という制約の中で斬撃の角度を4通りに区分し、それぞれを組み合わせた技術をちゃんと説明しているということ。

相手のブロックやパリィを乗り越え、確実にダメージを与える斬撃の方法を理論的に、しかも難解な詩的表現を省いて解説されています(イタリア剣術の武術書などは、詩的表現が多いせいで尚更分かりづらい!)。

この本は当時としては非常に洗練された剣術マニュアルで、練習生がこの本を読みながらスパーリングもしていたとか。

タルナフスキーさんが強くなる可能性

上述の「タルナフスキーさんはレイピアに弱い」というのは、今後のHellsh Quartのアップデートで改善される可能性があります。というのも、マイヤー剣術の体系にはレイピア術もあり、そのため「マイヤー剣術がレイピアに手も足も出ない」ということはまず考えられないからです。

実際に、『Hellish Quart』では当初はパフォーマンスに難があったものの、その後の改善で格段に強くなった剣士が存在します。タルナフスキーさんがレイピアの刺突を合理的な動きで回避できる剣士になれば、『Hellish Quart』最強の座に上り詰める可能性もあります。

また、『Hellish Quart』のキャラ選択画面には数人の追加剣士が既に登場しています。これらの剣士のリリース時期は不明ですが、『Hellish Quart』が日毎にボリュームを増し、面白いゲームになっていることは間違いありません!

© 株式会社イード