パリダカ制覇モデルをオマージュ ポルシェ「911ダカール」が見せた本気

クルマをいじる楽しみが廃れたことはない。好みのステッカーを貼る、ホイールを変えることでも気分は盛り上がるのだが、さらに深いレベルで楽しみ方を探求するマニアだっている。スポーツカーのあらゆる部分に手を加えれば、最終的には愛車をモータースポーツに参戦するマシーンのようにトガらせることだってできる。

1963年に端を発するポルシェ「911」は、60年を超える歴史の中で様々なモータースポーツに挑戦している。そのアーカイブを基に、レーシングライクに仕立てるポルシェマニアもいるほど。今回紹介するポルシェ「911ダカール」は、メーカー自身が仕立てた究極の“いじりモノ”だ。

992型(2018年11月発表)のカレラをベースとして、駆動はAWD、サスペンションシステムと荒いブロックパターンを持つ専用のピレリ オールテレインタイヤによって5センチほど車高をアップさせている(電子制御のリフターで、さらに3センチ高めることもできる)。つまりこれは、オフロードを走るために作り込まれた911だ。

技術的には難しくない。不思議なのは、なぜポルシェが一風変わったカスタムに手を染めたのかという点だ。理由はSUV人気の流れを汲む“車高アゲ”スタイルが流行っているから、ということも少しは関係しているはず。何しろ今はランボルギーニが「ウラカン」の車高を高めた「ステラート」というモデルをリリースするような時代だから。だがポルシェの場合は「歴史上にそのアーカイブがあるから」といったほうが正しいかもしれない。

いまでは911のAWDモデルは珍しいものではない。マニアであれば、元祖は1986年に登場した「959」というスーパースポーツカーに由来することを知っているはずだ。だが911のAWDシステムの歴史は1983年までさかのぼる。パリ・ダカール・ラリーを制覇したプロトタイプのポルシェ「953」がそのモデルで、911ダカールは40年前の史実に基づいたセルフオマージュなのである。

かつてダカールラリーに参戦した953は、ロスマンズ・タバコのスポンサーカラーをまとっていた。今回もそれとよく似た意匠だが、よく見ると“Rothmans”ではなく“Roughroads(ラフロード)”となっている(シャレが効いている)。専用デザインの前後バンパーには、オフロードモデルらしくアンダーガードが備わっており、モータースポーツ車両のような赤い牽引(けんいん)フックも精悍な見た目にアクセントを加えている。

だがステアリングを握ってみると、遊び心満載な見た目に隠されたポルシェの本気を垣間見ることができる。走り始めてすぐに分かるのは、高くなった車高の効果だ。長いサスペンションストロークとオールテレインタイヤによる足回りは、乗り心地が良いだけでなく、挙動をドライバーに伝える術にも長けている。コーナリングスピードの限界は高くないはずだが、それでもラリーカーのようにドライバーが自信を持って操れるようなキャラクターだった。

ステアリング上にあるドライブモード切り替えダイヤルを回してみると、モニター内に「ラリー」と「オフロード」という専用モードが用意されていた。わずか2500台の限定ではあるが、ポルシェはかなり本気でこの特別な911を仕立てた。クルマ好きの感性を刺激するのは、いつの時代も遊び心あふれる本気の一台なのだ。

ポルシェ 911 ダガール 車両本体価格: 3099万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4530 X 全幅 1864 X 全高 1338 mm
  • ホイールベース | 2450 mm
  • 車両重量 | 1605 kg
  • エンジン | 水平対向6気筒 ターボ
  • 排気量 | 2981 cc
  • 最高出力 | 480 ps(353 kW) / 6500 rpm
  • 最大トルク | 570 N・m / 2300 - 5000 rpm
  • 変速機 | 8速AT(PDK)

Text : Takuo Yoshida

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