元衆院議長伊吹文明さんがこのほど、自らの歩みをまとめた「保守の旅路」を出版した。約40年にわたる政治家人生の基盤や時代を見つめる目を培ってきたのは、生まれ育った京都の文化にあるという。「私の『保守』の考えは、古都に残るよき伝統、日本人の持っていた心根に大きく影響されていた」と振り返る。
伊吹さんは1938年、京都・室町で約200年にわたって繊維問屋を営む商家に生まれた。実家には「家憲」があり、商売の費用は惜しんではならないが、暮らしは華美にならないように慎むべき―といった教えが、幼い頃から自然に身についていたという。
「日本人は、基本的に弥生文化の農耕的生き方。西欧の狩猟民族と違い、農耕は助け合わないとできない。そこに日本人の協調性がある。悪くすると同調圧力が強いとも言えるが、温かい仲間意識」と語る。そうした伝統的な日本人の姿が今なお色濃く残っているのが、京都だと言う。
「京都の町中で育まれた商家のしきたりやしつけが公務員22年、国会議員37年の自分の身の処し方に大きな影響を与えている」。加えて、書物を読むことや幅広い人との対話などを、自身の価値観の礎としてきた。
「いわゆる『保守』は、きちんとした定義もなく、乱暴に使われている」という。では、伊吹さんが考える「保守」とは何か。
「人間は判断を間違える。その前提の上で、長年にわたり醸成されてきた民族の暗黙の約束ごと、伝統的規範を信用することが私の考える『保守』。社会の秩序は法律以上に社会の暗黙の約束ごとで保たれている」
法律や政策以前に、人間としてルールを守ること。保守とは謙虚な思想であるともいう。
2012年、11月1日を「古典の日」とする議員立法にも携わった。数多くの古典文学の舞台ともなった京都の地で、小中高の学びに生かされることを願う。自身も嵯峨野高在学時に、俳句に出合い、吟行などにも参加した。〈桃花生け紅もゆる部屋となる〉。自作の俳句は、万葉集の大伴家持の和歌〈春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女〉から想を得た。
「(京都には)資源はいっぱいある。そうした学び、文化を意識して、時代を見る目を養ってほしい」
「保守の旅路」は中央公論新社刊。1870円。