救命救急は後進県なのに…医療界が新拠点指定に反発、異例の再諮問 鹿児島県の判断が遅れている理由とは

救命救急センター指定について再諮問を受け、協議した県医療審議会=3月18日、県庁

 鹿児島県内4カ所目の救命救急センター指定を巡り、県の判断が遅れている。県医療審議会(会長・池田琢哉県医師会長)で、県が諮問した鹿児島市の米盛病院について賛否が割れたためだ。異例の再諮問を経て両論併記の答申が近く塩田康一知事に提出される予定だが、医療関係者の反対は根強い。

 センターは脳卒中や急性心筋梗塞など複数の診療科にわたる重篤患者を24時間受け入れる機関。県内では鹿児島大学(鹿児島市)、鹿児島市立、県立大島(奄美市)の3病院が担う。

 県は2023年12月の審議会で米盛病院の指定を諮ったが、医療関係の委員から同病院の救急医療態勢やセンターの鹿児島市への偏在に批判が続出。3月に県が改めて諮問し直す展開となった。

 県によると、人口100万人当たりの設置数は1.9カ所で全国41位。他県並みになるには、県本土でさらに2~5カ所の指定が必要とする。米盛病院の救急車受け入れ件数は21年度3581件で、県内で2番目に多い。22年度は1204人の重篤患者を受け入れ、指定を求めていた。

 2度目の諮問で、県は同病院が指定要件を満たすことや県全体の救命救急体制を示し、理解を求めた。だが、医療関係の委員から医師数や一部診療科のオンコール(呼び出し待機)対応に「本当に救命できるのか」と反対が相次いだ。一方、診療を受ける立場で参加する委員は「高度な医療が受けられる機会が増えるのならマイナスではない」などと賛成。賛否併記の答申とすることで決着した。

 県は「できるところから整備を検討し、受け皿を増やして県民に安心してもらうことが必要」と訴え、霧島市など他の地域でも指定は進めるとする。医療関係者は不満をあらわにする。委員の一人は「全ての重篤患者に対応できる診療態勢ではない。一刻を争う状況で転院させる事例が増えるのでは」と懸念する。

 米盛病院の米盛公治院長は「鹿児島市の救急搬送件数は増えると見込まれ、今の体制では対応しきれない。県として救急医療の人材を確保するためにも必要」と話す。答申に法的拘束力はなく、指定は知事の権限だ。塩田知事は4月の定例会見で「県民の命に関わるものであり、整備を進める必要がある」と強調した。

■救命救急センター 重篤な患者を24時間受け入れる3次救急医療機関。都道府県が策定する医療計画等に基づき指定する。対応できる医師や看護師を確保し、専用病床などの整備が求められる。負担の大きい現場を考慮し、診療報酬の加算もある。

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