不倫関係だった年下彼への執着。32歳の彼女が彼に会いたい「本当の理由」とは…(後編)

ジェクス ジャパン・セックスサーベイ2020によれば、浮気・不倫経験があると答えた男性は67.9%、女性は46.3%。40代女性の32.9%が「特定の人物1人と(現在も)している」と答えています。婚外恋愛は、決して遠い対岸の火事ではありません。

では、過去に不倫を経験した人たちは、その後どんな人生を歩んでいるのでしょうか。

相手との関係や自身の生活の変化について、女性たちのリアルをお伝えします。

【不倫のその後#12】後編

割り切れない悔しさ

「そんな人間から戻ってきたって、その香水をまた使えるの?」

これは純粋な疑問だったが、過去の不倫相手の記憶がつきまとうものを手にするのは、いつまでも痛みが消えないのではないかと思った。

「そうね、使うのは難しいかもね。でも、あいつのところに置いておくのがイヤなのよ」

投げやりな口調で凛子は返す。こっちが本心なら、自分の大切なものがそんな人間のところにあるのが耐えられないことは想像がついた。

それでも、取り戻す過程でまた接触は避けられず、そうなれば男性側はどう思うか、別れて3ヶ月が経っている現状を見れば「今さら」と改めて嫌悪を持たれる可能性を考えると、「忘れることはできない?」とどうしても返さずにはいられなかった。

「できないわよ」

おそるおそる伝えた言葉に、凛子は強い口調で答えた。

「私がいながら、あの女とも水面下で仲良くしていたようなやつよ。一方的に別れたいって言い出して、好きな人ができたのは仕方ないとしても同じ場所で見つけなくてもいいじゃない?よく私に声をかけられるわねって思うし、ろくな人間じゃないわよ」

あんなの、と吐き捨てる調子には、怒りと悔しさが見える。自分との関係そのものを軽く扱っていたのだと突きつけてくる男性への恨みが、「忘れもの」をそのままにできない焦りを生んでいた。

男から軽く扱われて 次ページ

わからない「現実」

「あのさ」

この「相談」は、もう3回目に及んでいた。忘れものを取り戻す手段は見つからないまま、それでも凛子は諦めがつかずに苦しんでいた。

「ん?」

「もうないかもって、考えない?」

「え?」

不意をつかれたように凛子が高い声を上げた。

なるべく穏やかに伝わるよう意識しながら

「もしかしたら、捨てられているかもしれないじゃない?」

と静かに言うと、スマートフォンの向こうで凛子が身じろぎしたような気配がした。

「……」

沈黙には、そんなこととっくに考えた、と無言の返答が含まれているようだった。

「まだあるのかどうか、確認のしようがないよね。返してほしいって言ったときに、『もうないよ』って答えられるのが私は怖いよ」

「……」

その「現実」は何より凛子がおそれるもので、男性の振る舞いを見ていれば自分の存在がどれほど軽いものか、置いてきた私物も等しく軽んじられるだろうことは、想像がつかないはずがないのだ。

不倫のスパイスは 次ページ

「存在のゴリ押し」に走る理由

不倫はどうしたって人には言えない関係で、だからこそ親密度を人前でアピールしたがる人たちがいる。「あのふたり、おかしいよね」と陰口をたたかれる可能性すら歓喜になるような歪んだ刺激は、ふたりの仲を盛り上げるスパイスなのだと感じた。

だから、相手が独身者だった場合、自分との不倫が終わって「次の人」とは堂々と仲を見せつけるような姿を目にすると、怒りと恨みが強くなる。自分とはできなかったことをしているのが憎らしくなる。そうなると、次に湧いてくるのが「自分の存在のゴリ押し」をすることの欲求で、仲に水を差したくなるのだ。

要は「私を忘れるな」というメッセージを伝えたいのが本音であって、不倫相手の部屋に置いてきた私物を3ヶ月も経ってから取り戻したいなんて言い出す気持ちも、抑圧された怒りを発散させる手段にしたいのだろうなと考えていた。

「だからさ、もう忘れるのがいいと、私は思うよ」

「諦める」という言い回しを避けたのは、その表現が惨めさを呼ぶものだからだ。今は新しい相手と幸せな恋愛をしている相手に、今ごろになって自分の存在をアピールしても、おそらく凛子が望むような展開にはならない。忘れるのが今の凛子に必要な意識だろうと思った。

「今さら私のことなんてね、どうでもいいだろうし」

口を開いたとき、凛子の口調は疲れたものに変わっていた。その現実について、自分では口にできないけれど人に言われたら「やはり」と受け止めるのが伝わった。わかっているのだ、存在のゴリ押しをしてもかえって痛みを受ける結末になることを。

香水を返さない彼は… 次ページ

「不誠実」なのはお互いさまだからこそ

「ちゃんとした人なら、こっちが黙っていても返してくれるでしょ」

「うん、それは思った。その香水が私のお気に入りなのもわかってるんだし、普通は別れたときに返すよね。そうしなかったってことは、その程度の人なんだと思う」

凛子の言葉は、おそらく自分に言い聞かせているのだと感じた。「その程度の人」、その評価は不倫という不毛な関係を結んでいた自分にも返ってくる。

「そうだよ、さっさと忘れるのがいいよ」

香水を取り戻すことが、凛子の本当の目的ではない。それでも、不誠実な相手を見て自分まで新しく嫌な記憶を残すような言動は、嫌悪の向け合いになれば別の問題も生みかねない。

「そうね。あれはまた買えるし……」

その選択肢はとっくにあったのだが、受け入れづらかったのは相手だけが幸せな現実を許せなかったからだ。

「一緒に行くよ」

そう言うと、凛子がこの電話で初めてふふっと笑った。

「香水のコーナーは苦手なくせに」

「マスクするし」

受け入れるしかない、と自分自身が思えてやっと、肩の力が抜けるのかもしれなかった。

その「現実」を誰かに指摘されれば、いつか不誠実なのはお互いさまなのだと嫌でも気がつく。今の凛子に必要なのは、存在を押し付けることではなくみずからが「無関心」を選ぶことだった。

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