認知症になった親の保険 家族であっても勝手に解約できない 事前にできる対処法とは

親が認知症になったら原則、保険の解約や変更は不可(写真はイメージ)【写真:写真AC】

日本では高齢化が進むにつれ、認知症になる人が年々増えています。親が認知症になったら、親の預金口座は凍結され、家族であっても預金を引き出すことはできません。親が加入していた保険に関しても、解約できなくなるといいます。いったいどうしたらいいのでしょうか。保険コンサルティングアドバイザーで、認知症予防の専門家であるJNDA認知症アドバイザーの肩書きも持つ、石澤みぎわさんに詳しい話を伺いました。

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親が認知症になったら…まずは保険内容の確認を

医師から意思能力がないと判断されてしまった場合、法律行為が制限されてしまいますが、その中のひとつに保険の解約があります。実は、原則として保険は契約者本人でなければ解約することはできません。また、契約の見直し(別の保険に申し込みすること)に関しても、契約者本人以外はできなくなります。

では、実際に親が認知症になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか。まずは、契約している保険の内容を確認することが大切です。保険の内容に関しては、契約している保険会社から年に一度、郵送もしくはメールで送られてくる「ご契約内容のお知らせ」で確認することができます。

なんの保険に加入しているのかわからない場合は、生命保険会社42社に一括で照会することができる、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を活用するといいでしょう。

認知症になった親の保険の解約 メリットとデメリットの比較検討がおすすめ

そのうえで保険を解約したいと思ったとき、まずは解約するメリットとデメリットを比較検討することをおすすめします。それは、認知症になっても契約中の保険で保障を受けられることもあるためです。

○解約するメリット
・保険料の支払いが不要になる
・解約返戻金のある保険の場合、払い戻しを受け取れる可能性がある

○解約するデメリット
・解約返戻金のある保険商品の場合、解約タイミングによっては解約返戻金が払い込み額を下回る可能性がある
・保険の解約により保障が終了し、給付金や保険金を受け取れなくなる

解約するメリットとデメリットを比較検討した結果、認知症になった親本人にとって、解約することがベストであると判断した場合は、保険会社に解約手続きが可能かどうかを問い合わせてみましょう。

認知症になった親の保険を解約するには

次に、保険の解約方法ですが、主に2つあります。

1. 契約者本人が作成した委任状を提出する
契約者が委任状を作成できる場合は、本人作成の委任状を提出することで、その委任を受けた代理人による解約が可能です。ただ、提出された委任状は、保険会社が記載内容などを詳細に調査。認知症の進行度合いによって、本人の意思が確認できないと判断された場合には、解約が認められないこともあります。

2. 成年後見人が代理で手続きする
法定後見人制度を利用することで、家庭裁判所で選任された成年後見人が、認知症になった契約者に代わって保険の解約をすることが可能です。

親が認知症になっても、家族が保険を解約できる“ある手続き”

最初に、「原則として、保険は契約者本人でなければ解約することはできません」と言いましたが、契約の際に“ある手続き”をしていた場合は、原則通りではありません。

それは、家族が成年後見人に選任されている場合、そして契約している保険に「保険契約者代理制度」の特約をつけて代理人を指定している場合です。

1. 家族が成年後見人に選任されている場合
「成年後見人」とは、成年後見制度に基づき、認知症などの理由で判断能力が低下し、法律行為を行うことが不可能となった人に代わって法律行為を行う人のことです。この「成年後見制度」には、「任意後見人制度」と「法定後見人制度」の2つがあります。

「任意後見人制度」とは、事前に契約者本人が選任した人に、本人の代わりにしてもらいたいことをあらかじめ決めておく制度です。一方の「法定後見人制度」とは、認知症になったあとに利用できる制度。ただし、認知症になった本人の利益と資産保護の観点から、適任と見なされた人が家庭裁判所により選任されるため、弁護士などの専門家が選ばれることが多く、必ずしも家族が選出されるわけではない点に注意が必要です。

2. 契約している保険に「保険契約者代理制度」の特約をつけ、代理人を指定している場合
保険によっては、「保険契約者代理制度」という特約をつけることができる保険があります。これは契約者本人が認知症になる前に行う必要がありますが、契約者本人の判断能力が低下したり、意思表示が困難になったりして手続きができなくなってしまった場合に、あらかじめ登録した代理人が手続きできる制度です。契約者代理人として指定できる範囲は保険会社によって異なりますが、代表的な範囲には契約者本人の「戸籍上の配偶者」「直系血族」「兄弟姉妹」が挙げられます。

親が元気なうちに、今から準備しておくことは

生命保険には、「保険契約者代理制度」以外にもさまざまな特約をつけることができます。本人に代わって給付金などを請求できる「指定代理請求特約」、保険解約などを代理手続きできる「契約者代理制度特約」は、いずれも無料で付帯が可能です。

しかし、保険の内容はとても複雑で、「保険証券」や「ご契約内容の確認」の書面だけでは理解が難しいこともあります。そんなときは、保険に加入した際の担当者や保険のプロが在籍する販売店に相談してみましょう。

何事も、起きたあとではなく、起こる前の準備が必要になります。親が元気なうちに、どんな保険に加入しているのか、支払いはいつまで続くのかなど、保険の内容や親の希望などを家族間で共有しておくことが大切です。家族間で保険加入の目的や保障内容を正しく共有し、本人や家族にとって、ベストな選択ができるよう、早い段階から備えておきましょう。

石澤 みぎわ(いしざわ・みぎわ)
「保険見直し本舗」(募集代理店:株式会社GOESWELL)の保険コンサルティングアドバイザー。生命保険協会認定FP(TLC)、JNDA認知症アドバイザーの資格を取得。累計約3000件の保険のプランニングを行う。

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