不正を許さず、反戦を貫いた孤高の90歳は、余命宣告を受けた。「気候変動や災害…戦争をやってる場合か」 自然保護の願いを大事に集めてきた貝殻に託す。「思いよ、若い世代へ」

居室で話す溝口貞雄さん(ついまでおつとめのあるホーム提供)

 鹿児島市吉野2丁目のサービス付き高齢者向け住宅「ついまでおつとめのあるホーム」で、余命宣告を受けた90歳の入居者の特別展が開かれている。末期肝硬変の溝口貞雄さんが自然保護の願いを込めた貝殻コレクションと、取り組んできた市民運動や反戦活動を紹介する。職員らが「思いを次世代に引き継ぎたい」と企画した。6日まで。

 溝口さんは同市出身で、オンブズマン鹿児島の代表も務めた。電電公社(現・NTT)勤務時から環境問題や行政の情報公開に関心が高く、鹿児島湾の富栄養化問題や県を相手取った食糧費訴訟などに取り組んだ。

 平和への思いも強かった。鹿児島国民学校(現・名山小)6年生だった79年前の4月21日の空襲では避難した防空壕(ごう)のすぐそばに爆弾が落ち、生き埋めになった。そんな体験を語り、反戦を訴えていた。

 長女で医師の要千草さん(61)=同市=によると、20年前に妻みどりさんが急逝してから市内の自宅で1人暮らし。2018年に同ホームに入居した。2年前に新型コロナウイルスに感染して以降、体調が悪化。1カ月前に余命宣告を受け、最近では起き上がることも難しくなった。

 会場には30歳頃から収集した貝殻300点以上と、オンブズマン時代の活動や反戦をテーマに溝口さんを取り上げた新聞記事、本人の文章が並ぶ。「気候変動や災害で地球の危機という今の時代に、戦争なんてやってる場合じゃない!」とのメッセージもある。

 要さんは「まじめで正義感が強く、探究心にあふれる父の姿が現れている」。ホーム管理者の有村宣彦さん(50)は「貝殻を若い世代に引き継ぎたいと言っていた。本人も喜んでくれているのでは」と話す。有村さん=080(1730)4440。

〈関連〉居室で貝殻を手にする溝口貞雄さん(ついまでおつとめのあるホーム提供)
溝口貞雄さんが集めた貝殻を手にする長女の要千草さん=鹿児島市吉野2丁目の「ついまでおつとめのあるホーム」

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