「涙の女王」高視聴率の3つの理由とは?ヒョヌ(キム・スヒョン)が去るラベンダー畑の花言葉に胸が震えた15〜16話レビュー【韓国ドラマ】

結婚生活の危機を迎えているふたりの間に、愛を取り戻す奇跡は起こるのか? 「涙の女王」は韓国tvNで2024年3月9日から放送されたドラマです。Netflixで全話配信中。マチュアリストでは全16話のレビューをお届けします。15〜16話について紹介しましょう。
※ネタバレを含みます

★13〜14話はこちら★

「君と共にした時間は、我が人生の奇跡」と記銘されたヘインの墓碑に花を添える年老いたヒョヌ——。ラスト16話まで見て、このドラマのテーマが「人生」であることを確信する。

人は生を受けたら、いずれこの世を去る。ならば、愛する人、大切な人のそばにいて、一瞬一瞬を慈しむように生きたい、と多くの人の心に刻んだ結果の最終回視聴率24.9%(韓国ケーブル局tvN)なのだろう。『愛の不時着』越え、という。

ドイツでの手術後、記憶を失ったホン・ヘイン(キム・ジウォン)の傍らにいたのは、ペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)の宿敵ユン・ウンソン(パク・ソンフン)だった。「手術前に結婚する約束をした」とうそぶくウンソン。だが、ヘインはヒョヌを“記憶”では忘れても、“心”が覚えていた。

拘置所でヒョヌと面会してなぜか胸が痛むヘイン。手術前に貸し切り予約した水族館でヒョヌと会い、車の窓ガラスを割って負った手の傷に気づくヘイン。記憶を書き留めためた手帳を読み返し、ヒョヌを深く愛していたことを確信するヘイン。ヒョヌとは何者かを必死に手繰り寄せようとするヘインが愛おしい。

そして、ヒョヌに会うため向かった横断歩道で、ヒョヌは暴走車に跳ね飛ばされ、ヘインはウンソンに拉致監禁される。それでも、傷を負った体でヘインを救出したヒョヌは、ヘインをかばってウンソンに銃で撃たれ、ウンソンは警察に射殺される。憎まれ役のサイコパスを演じきったパク・ソンフンが圧巻だ。

サイコパスを演じきったパク・ソンフンが圧巻だ。

ウンソンの死をきっかけに、その母モ・スリ(イ・ミスク)対ホン家の財閥経営権をめぐる攻防戦は緊迫の度合いを増す。が、ヒョヌたちソウル大卒弁護士チームの活躍で、ついにホン家一族がクイーンズグループに晴れて凱旋復帰する日が訪れる。

安堵して、満開の桜並木を散歩する2人。「毎日のささいな日常の中で、疲れてケンカしてお互いに失望するのが怖かった。心がすれ違って、憎むかもしれないと思った」「でも、そばにいる。どんな時でも。壊れたら直して穴を塞げばいい。完璧である必要もない。ありのままで。それでよければ結婚してくれる?」——

いくつもの試練にぶつかり、乗り越えたからこそ言える、ヒョヌからヘインへの穏やかなプロポーズ。このセリフこそが、このドラマが伝えたかったメッセージなのだと思う。

では、なぜ『涙の女王』がこれほどの人気ドラマになったのか?

第1に、一人ひとりの背景がきめ細かく描き込まれて、キャラ立ちしていたために感情移入しやすかったこと。だからこそ中盤に、財閥ヘイン家がヒョヌ家の田舎暮らしに居候したあたりから、多彩な人生を描く人間ドラマとしての面白さが膨らんだ。

特にヒョヌ母(ファン・ヨンヒ)の何事にも動じない人間性の豊かさ、心の広さに、高慢だったヘイン母(ナ・ヨンヒ)が心を許していく姿になごんだ。経営者としてはダメダメなヘイン弟スチョル(クァク・ドンヨン)が、自分を裏切った妻ダヘ(イ・ジュビン)をそれでも一途に愛し抜くピュアさに何度も泣かされた。丁寧に描かれるサブストーリーにも見ごたえがあった。

ヒョヌ母(ファン・ヨンヒ)の何事にも動じない人間性の豊かさ!

第2に、頻繁に時間が巻き戻されるストーリー展開。たとえば、16話でふとヒョヌの部屋に入ったヘインが、天井に星の夜光シールが1つ残っているのを見つける。そこに、流産がきっかけで険悪になり、ヘインの指示で子ども部屋の家具や夜光シールが片づけられ、ヒョヌが愕然とする5話のシーンがはさみ込まれ、ヘインがヒョヌの深い喪失感を初めて察したことがわかる。

過去の伏線回収が不意に、しょっちゅう行われるので、1話たりとも気を抜いて見逃す訳にはいかなくなる。釘づけ状態だ。

第3に、映像の美しさと泣かせるOST。特に、新婚旅行、ヘインの脳腫瘍の診察、そして手術、さらにラストシーンと4つの重要なポイントを撮影したドイツロケ映像のクオリティは、映画をも凌ぐほど。ロケ地巡りをしたくなる。

時間の移ろいを自然の草花の咲く時期や成長、日差しや雲行きなどで表現しているのも、抒情的で素敵だ。どれほど手間暇をかけて撮影しているのか、と尊敬に値する。

映像の美しさも見事だった。

OSTのラインナップも秀逸。中でもCrushの「Love You With All My Heart」が流れると、条件反射で涙が出る。極め付きは、16話ラストでキム・スヒョン自らが歌う「Way Home」。あくまでも清らかな歌声が、エンディング映像に寄り添っている。

そのラストとは。2人が何度か訪れたドイツ・サンスーシ宮殿の階段をヒョヌが一人で上っていく。すると、明るい日差しの中、傍らにヘインが現れ、さらに足取りもまだおぼつかない女の子が加わる。2人は子どもを授かったのだ。

やがて雪に覆われた薄暗い中、年老いた男性が一人、階段を上り終える。長く長く続く階段は、まさに、「人生」の象徴だ。

そして、場面は思い出のラベンダー畑へ。そこには、「先に死んだら、天使になって迎えに行く」と言った日の、若く美しいヘインが待っていた。ヒョヌはヘインに導かれるまま、畑の奥に去っていく。

2人が死ぬまで、人生を「そばにいて」過ごしたことを知る、静かな静かなハッピーエンディング。咲いていたラベンダーの花言葉が「あなたを待っています」だと知って、胸が震えた。

心残りはただ1点。ヒョヌが手術で記憶をなくすヘインのために撮影した、全視聴者号泣の「ビデオレター」(13話エピローグ)をヘインは見たのだろうか? そのことだけが気がかりだ。

Netflixシリーズ「涙の女王」独占配信中


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