『9ボーダー』ラスト10分で怒涛の展開へ さとうほなみは令和のドラマに欠かせない存在に

人生をリセットしたくなる時が誰にだってある。それでも、自分に足りないものばかりが目につく日々の中で、立ち止まって自分の周りを見渡してみると、実は既に持っているものの価値に気づくことができる。リセットボタンはいつだって心の中にある。どんなことも、心の持ちようなのだ。金曜ドラマ『9ボーダー』(TBS系)第3話は、そんな人生の真理を力強く教えてくれる。

七苗(川口春奈)は、コウタロウ(松下洸平)との恋に浮かれる自分にブレーキをかけたいと思い、大庭家に集まる面々に相談する。しかし、彼女の心の中ではコウタロウのことが頭から離れない。まさに恋は盲目。“ダメループ”に陥りながらも、彼のことを意識せずにはいられないのだ。

一方、七苗を好きな陽太(木戸大聖)は、複雑な思いを抱えている。好きな女性といい感じになっているのが記憶喪失で身元不明の男なのだから、それもそうだろう。七苗が席を外した隙に、六月(木南晴夏)や八海(畑芽育)たちだけに、コウタロウの私物に紛れていた1億円以上の預金残高が書かれた明細書のことを打ち明ける。七苗たちは好き勝手にコウタロウのバックグラウンドを予想するが、どれも正解とは程遠そうで思わずクスッと笑ってしまう。この微笑ましい大庭家の日常が、いつまでも続けばいいのにと思えて仕方がない。

しかしある日、そんな平和な空間にビッグニュースが舞い込んでくる。警察からコウタロウに「家族が見つかったかもしれない」との一報が入ったのだ。彼の幸せを願うからこそ「コウタロウさんのためには、家族見つかった方が……」と複雑そうな七苗の姿が印象的だった。さらに、夫・邦夫(山中聡)との離婚問題に悩む六月にも修羅場が訪れる。別居しつつも関係は良好だと思っていた六月に、邦夫から「萌香と結婚したいから別れてほしい」と離婚を突き付けられた六月は、邦夫との話し合いを拒み、なかなか現実を受け止めきれずにいた。しかし今回、悩める六月の前に邦夫の浮気相手・柚木萌香が現れたのだ。萌香は邦夫のアシスタントを長年務めており、六月にとっては初対面から印象最悪な“自称サバサバ系の匂わせ女”である。

萌香役を演じるのは、さとうほなみ。さとうといえば、2023年放送の『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)で不倫女性・三島を好演していた印象が根強く残っている視聴者も多いのではないか。今回も『あなして』を彷彿させるような、強かで芯のありそうな不倫女性役を見事に演じていた。バンド・ゲスの極み乙女のドラマー、ほな・いこかとしても知られる彼女だが、すっかり俳優としての才能も開花させ、すっかり令和のドラマシーンに欠かせない存在になった。

そして、第3話の六月の心情をピッタリと表していたのが、挿入歌であるSEKAI NO OWARIの「Family」だ。「家族だからそばにいるけど 家族だからこそこんなにも遠い」という歌詞が、邦夫と真の意味では“家族になれなかったこと”をしみじみと痛感する六月の心情と重なる。別れを告げられ、離婚を迫られる六月にとって、かつて夫婦として過ごした日々は遠い過去のよう。それでも、一緒に歩んだ時間は決して無駄ではなかったはず。そんな複雑な心境を、SEKAI NO OWARIの楽曲が優しく包み込む。

そんな六月の心を明るくしたのが、八海の「この家でギャーギャーやりながら“まだよ”と思えばいい」という言葉だった。この言葉には、同じく会社でのあらゆる局面でモヤモヤを抱えてきた七苗も励まされた様子。年齢は数字に過ぎない。「もう29歳」と考えるか、「まだ29歳」と考えるか。全ては捉え方次第なのだ。

八海に励まされた七苗は何かがプツッと切れたように、会社を辞めて“一回全部捨てる”ことを実行する。そして、そこにまさかの音信不通になっていたコウタロウが帰ってくる。連絡がなかった理由は、洗濯物で番号を書いた紙が粉々になったからだという。残念なことに、コウタロウの家族は見つからなかったようだ。だが、彼がまたいつもの日常に戻ってくることに視聴者と七苗は内心喜んだに違いない。

まだ第3話にもかかわらず、今回の放送のラスト10分は、怒涛の展開が待っていた。コウタロウが七苗にキスをする場面を、陽太が目撃してしまうのである。さらに陽太への想いが溢れた八海が、彼を抱きしめる。今でも複雑な八海と陽太と七苗の関係性にヒヤリとさせられることはあったが、コウタロウが来たことで、こうも一気に進展するとは。コウタロウが現れたことで変わり始めているのは、“七苗の心”だけではないのかもしれない。

(文=すなくじら)

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