『ヒロアカ』敵(ヴィラン)はなぜ支持される? 内山昂輝&下野紘が語る“連合”の矜持と信念

(左から)下野紘、内山昂輝 クランクイン! 写真:上野留加

堀越耕平による大人気漫画『僕のヒーローアカデミア』のテレビアニメ第7期が、5月4日(土)から放送開始。ヒーローと敵(ヴィラン)の最終決戦がついに始まり、毎話、衝撃展開が立て続く必見のシーズンとなっている。クランクイン!トレンドでは、ヒーローに立ちはだかる敵(ヴィラン)を演じた死柄木弔役の内山昂輝、荼毘/轟燈矢役の下野紘の対談を実施。両者がエンカウントしてからどのように関係性を築いてきたのか――名エピソードを振り返りつつ、“ここに至るまでの連なり”を語っていただいた。(取材・文=SYO/写真=上野留加)

■敵(ヴィラン)はなぜ支持される?

――荼毘の初登場は第2期第31話「「ヒーロー殺しステイン」その余波」で、死柄木と言葉を交わしたのは第37-38話「爆豪勝己:オリジン」「エンカウンター」です。初対面では衝突していた両者ですが、改めて振り返っていかがですか?

下野:僕の中では言うほど「衝突!」という意識はありませんでした。あくまで主従の形は取りたくないし、自分は自分で行動したいという思いが荼毘の中にあるだけで「お前ボスじゃねぇよ」とは思っていない気がします。荼毘も時々「なぁ、ボス」と冗談めいた感じで言いますしね。そういった意味では、目的を達するために敵(ヴィラン)連合にいると都合がいいから組しているだけで、死柄木を認めていないわけでもないし特段強い感情はなかったのかも、と思っていました。

内山:序盤は特にヒーローが中心で描かれていたため、敵(ヴィラン)側の出番には波があって、その間、死柄木や荼毘が何をしていたかもすべてが描かれていたわけではありません。少しずつメンバーが増えて敵(ヴィラン)連合の話が多くなっていった中でそれぞれのキャラクターがより見えていき、関係性が深くなっていったのかなと思っています。

我々敵(ヴィラン)側はそれぞれ我が強くて「みんなで協力しよう! 一致団結だ!」という感じでもないですしね。その中でも特に荼毘は謎めいた存在で、だんだん秘密が明かされていくキャラクターですから、当初は目的も性格もまるで読めませんでした。もちろん、死柄木にもそうした要素はありますが、荼毘はよりその印象が強かったです。

下野:死柄木の場合は、途中で過去編が描かれますが、荼毘は本当に何も描かれないので、当初はなんで敵(ヴィラン)連合に組したのかも分からなくて演じるのが本当に難しかったです。

内山:原作サイドから「秘密ですが、実は後々こういった展開を用意していて…」みたいに教えてもらえることもなかったんですか?

下野:全くなかった! 「今は荼毘で通している」とミステリアスに登場したものの、「彼は今後どういう風になるんですか?」とディレクターさんに聞いたら「ちょっと分からないです」と。あの頃は、収録があるたびに「なんかちょっとでもないですか」と聞いていましたが、俺には伏せられていて…。

内山:難しいですよね。知った方がやりやすいのか、自分も知らない方がミステリアス要素を強められるのか…。連載中の漫画は大体どのキャラクターにもそういった要素がありますが、特にジャンプ作品は話が進んでいくと過去が描かれたり、「実はこういうつながりがあって」と明かされたりする展開が面白いですよね。

下野:とはいえ、もう少し教えていただけたら(笑)。本当にどうしようもなくて「つかみどころがない…」と思いながら苦労して演じていました。

――となると、やはり荼毘の正体が判明する第6期第124話「ダビダンス」以降は、演じ方もまた変わったのでしょうか。

下野:原作を読んでいたので、早く「ダビダンス」がやりたくてやりたくて…。「4期とか5期とか言っている場合じゃない! 頼む、文化祭もそうだけれど早くこっちをやらせてくれ!」と思っていました(笑)。積み重ねないといけないのは分かっていたのですが、ずっと家で気持ちをたぎらせていましたね。だからこそ逆に、「「ダビダンス」ですべてをさらけ出そう」という熱量に持って行けたのかなと思うと、文化祭もあって良かったです(笑)。

内山:そうですね。あの人たちにも楽しい思いをさせてあげないと。

下野:一回持ち上げて落とす方が、ダメージが大きいしね。

内山:そうそう。すべて敵(ヴィラン)側の作戦です。

――思考が完全に死柄木と荼毘のそれですね(笑)。2021年に開催されたイベント「敵(ヴィラン)連合総会」も大盛況でしたが、お二人はヒロアカの敵(ヴィラン)が支持される理由はどこにあるとお考えでしょう?

内山:自分が読者や視聴者目線だったら「あいつら!」となるのが普通だし、嫌われるのが敵(ヴィラン)の役割だとは思います。それによって皆さんが「あいつらを倒したい」という気持ちをたぎらせていただくことで、後々の展開に生きてくる部分があるため、敵(ヴィラン)を演じる上では「好かれよう」「愛されるキャラクターを目指そう」という方向性にはなりません。嫌われようとは思わないけど、作品を盛り上げるためにはそういう対象になってもやぶさかではない――という感覚なので、人気なのは不思議ですね。

下野:俺は、敵(ヴィラン)が人気な理由も分かるな。ヒーローが頑張って戦ったり敵(ヴィラン)が人を傷つけたり社会的な問題を起こしたりする部分はあるけど、じゃあ「なぜそんな行動を起こしているのか」を『ヒロアカ』はものすごくしっかり描いています。もともとは超人社会に適応しようと思ったけれどできなくて、「そういう人もいるんだね、そういう意見もあるんだね」と認めてくれる存在が周りにいなかったから、そうなってしまった。トゥワイスやトガちゃんもそうですが、誰も救けてくれず孤独だったから自分たちで何かしら行動を起こして変えていくしかない――という結論に至ったということが分かるから、人気になったのではないかと思います。敵(ヴィラン)には敵(ヴィラン)の信念や矜持(きょうじ)がある、とちゃんと伝わってくるんですよね。

内山:どのキャラクターにも過去や背景が描かれていて、知っていくとボタンのかけ違いに気づきますよね。彼らがやったことは許されることではないけれど、人生のある場面で違う出会いがあったら、家庭環境がこうじゃなかったら、もしかしたらヒーロー側で個性を発揮していたかもしれない――という運命の分かれ道が響く人には響くのかもしれません。

下野:第6期116話「One‘s Justice」のトゥワイスがいなくなる辺りの描かれ方がすごかったよね。あくまで俺が演じた印象だけど、トゥワイス自身が良いやつだからこそ、彼を止めようとしているヒーロー側が敵(ヴィラン)みたいに見えてしまって…『ヒロアカ』がすごいのは、こうした逆転現象が起こることです。

内山:敵(ヴィラン)側に感情移入させる作りになっていますよね。

下野:そうそう。敵(ヴィラン)連合の中でもトガちゃんとトゥワイスのやり取りがほっこりするものとして描かれていた上で、「ヒーローがこんなことしやがって」となるような展開になっていくから。確かに、トゥワイス自身がそれだけ驚異的な力を持っていたからヒーローは止めなきゃいけなかったのだろうけれど、「ほかにもっとやりようはなかったのか!?」と思わせるという意味で、本当に面白い作りになっていると感じます。

■頑張った分が必ず報われるのが『ヒロアカ』

――来たる第7期では死柄木・荼毘ともにさらなる内面の掘り下げがあり、衝撃展開が立て続きます。アフレコ中の現段階で、印象に残ったエピソードはありますか?

内山:死柄木に関していうと、演じるのがどんどん難しくなっています。キャラクターの変化を描いていくのもそうですが、ここ最近はオール・フォー・ワンに乗っ取られるというか、死柄木の人格とオール・フォー・ワンの人格が入り混じる感じですから。前のシーズンでは大塚明夫さんの声を聞いて、そこに声を重ねてユニゾンさせる演出もあり、そこがまず一つ難しかったところです。

下野:あれは本当に大変だったと思う。

内山:声優業界にはさまざまな個性豊かな方がいますが、トレースしてみて改めて大塚さんの独特のパワーを通感しました。声自体の素材としての力強さもそうですが、「こんなやり方があるんだ!」と思うような演じ方だと、どう抑揚をコピーするのかとかがマジで難しかった…。

下野:あの頃、内山くんは「難しい…」とスタジオでずっとうなっていたよね。

内山:完成させると楽しいんですが、そこに至るまでが試練でした。今はまたやり方が変わって、内山単独で死柄木とオール・フォー・ワンが入り混じった状態を演じています。その時々で一人称が変わることもあるので、明夫さんのセリフを思い出しながら二つのキャラクターをミックスしたようなものを表現するという課題にチャレンジしています。これは誰にもできないと思います。僕にしかできません(笑)!

下野:おお! すごい! いや、でもそう言っていいと思う。あれは本当に難しいだろうから。聞いているだけでも卒倒するレベルだよ。

内山:やれるもんならやってみてほしいくらいです(笑)。それだけやりがいのある作品&キャラクターに挑戦させていただけていることをとても光栄に思っています。

下野: 僕も「ダビダンス」まではあらゆる感情を情報として表に出さないというミッションがあったから、特に序盤は何が正解全く分からずに演じていました。でも「ダビダンス」でいろいろなものが解放されて、「こういう風に感情を持ってもいいんだ」「表情や声にこう変化を付けていいんだ」と思えるようになりました。ただその分、本格的な最終決戦で、あらゆるものを出し切らなければならなくなります。

原作を読まれている方はお分かりになるかと思いますが、この先の荼毘を演じるにあたっては自分の喉を壊す気でいかないと太刀打ちできないくらいの展開が待ち構えていまして…実を言うともう始まっています。普段なかなかこういうことは言わないのですが、マネージャーに「これから先の『ヒロアカ』に関しては喉を傷める可能性があるから、収録後や翌日のスケジュールを考えさせてほしい」と話しました。

内山:鉄人・下野紘さんがそんなことを!?

下野:リミッターを外さないとできないんだよ! 現にこの間も第一波が来て大変だったんだから。『ヒロアカ』の収録の翌日に「あ、喉ヤバいな」となって回復にそこそこ時間がかかってしまったんです。

内山:それくらい消耗していかないと、全力で戦っているキャラクターに呼応していかないんですよね。

下野:本当にそう。熱量が圧倒的にすごくて。荼毘に限らず敵(ヴィラン)側はみんな大変だから、対抗しないといけないヒーローも全員大変(笑)。

内山:戦いが切迫していけばいくほど、大変さが上がっていきますよね。

下野:第7期では内山くんは僕よりもっともっと大変になると思うよ?

内山:僕は鉄人ではないので細心の注意を払って臨みます(笑)。

下野:(笑)。もう本当に「頑張れ」としか言えない…。

内山:でも、映像チームの皆さんの仕事ぶりによって、頑張った分が必ず報われるのが『ヒロアカ』なんですよね。ものすごいクオリティーの映像で完成させてくれるので、消耗して努力しがいがあります。

下野:それが分かっているからこそ、こっちもそれくらいのエネルギーをぶつけなきゃという気になるもんね。やっぱりアニメーションってそうなんですよね。役者だけでも作画だけでもダメで、演出や音楽などが組み合わさって、かつそれぞれのパートが「頑張ろう! 盛り上げよう!」と全力を出し尽くして始めて良いものが出来上がると思います。『ヒロアカ』の現場で、改めてそう感じました。

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