昭和平成ゴジラ愛とオマージュ満載!『ゴジラxコング 新たなる帝国』新登場のエイプ怪獣エトセトラ&まさかの「DBZ」インスパイアほか超解説【後編】

『ゴジラxコング 新たなる帝国』©2024 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ゴジラ70周年の記念すべきタイミングで絶賛公開中の『ゴジラxコング 新たなる帝国』を後押しするべく、本作の見所や元ネタを徹底解説。後編では、ついに出演が解禁となった“あの怪獣”や意外すぎるインスパイア元などについて解説する。

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※物語の内容に一部触れています。

子どもエイプ怪獣<スーコ>とベビーヨーダの関係

アダム・ウィンガード監督流“昭和ゴジラ映画”を目指したという、全編見所だらけと書いても過言ではない本作の中でもとくに大きな見所といえば、これまでは独りぼっちだと思われていたコングと同じ種族らしき、エイプ怪獣の存在が明らかになることだ。

虫歯が完治して地下空洞世界に戻ったコングの前に、なんと子どものエイプ怪獣ベイビーコングが現れる。この怪獣、劇中では言及されないが、玩具の商品名等では<スーコ>という名になっている。この新怪獣もウィンガード監督が、『マンダロリアン』(2019年~)に登場するベビーヨーダ(グローグー)を観て、「よし! モンスター・ヴァースにも可愛い系のキャラを登場させよう!」とひらめいて誕生したそうだ。

そう書くと、実に浅い動機で誕生したんだな……と思いそうだが、そこは独特な感性のオーナーであるウィンガード監督。スーコのキャラクターを作る際、ベビーヨーダのような愛くるしさと同時に、実録犯罪映画『シティ・オブ・ゴッド』(2002年)や「はだしのゲン」に登場する少年ギャングのようなアグレッシブな悪ガキ風味もトッピングした。

そういう子なのでウィンガード監督は、コングと親子のような関係になる際に父と息子の力関係について議論する様子は、アニメ『ザ・シンプソンズ』(1989年~)の主人公ホーマー・シンプソンと息子バートの、常軌を逸した親子関係を参考に描いたという。

新たな宿敵<スカーキング>と“エイプ怪獣”エトセトラ

本作に登場するエイプ怪獣はコングとスーコだけではない。本作のメイン・ヴィランとなる<スカーキング>も、コングと同じ種族の怪獣だ。しかも彼は、コングや人類にとって未知のゾーンである地下空洞世界の火山地帯に棲息していた何百頭ものエイプ怪獣を支配して軍隊を組織し、何千年にもわたって地球制服のチャンスを虎視眈々と狙っていた、というモンスター・ヴァース映画史上最もスケールがデカい上昇志向のオーナーである。

スカーキングは本当にエキサイティングな悪役だよ。コングの性格は、人間が持つ純粋さや善良な部分を表しているけれど、スカーキングの性格は、人間が持つ邪悪な部分をスケールアップさせた“アンチ・コング”というべき存在なんだ。しかも、コングよりも俊敏なんだよ。

そうウィンガード監督が語るように、劇中のスカーキングは狡猾でダークすぎる野心と権力志向を持つ独裁エイプなうえに、とにかく態度が悪い、という常人なら1ミリも共感できない怪獣だ。

そんなキャラクターを具現化するため、本作の怪獣デザイナーであるジャレッド・クリチェフスキーは、オランウータンとテナガザルをベースにスカーキングをデザイン。オランウータンを醜悪にしたような顔に毛髪が寂しい頭部、ひょろひょろなスリム体系にテナガザルのような長い腕、という不穏なムード漂うボディのオーナーにしただけでなく、全身に赤い染料でウォーペイントをほどこして不気味なヴィラン怪獣に仕上げた。つまり、『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)、『ゴジラvsコング』(2021年)で描かれた“赤い手形”は、スカーキングによるものだと示唆されている。

「友愛」、「平和」、「協調性」、「コンプライアンス」という言葉とは無縁で、画期的にずる賢くて態度の悪さが(現実では勘弁だけど、映画の悪役的には)サイコーなスカーキングは戦闘の際、まずは自分は参加せず、彼の兵士となったエイプ怪獣たちに仕掛けさせる。スカーキングに忠誠を誓ったエイプ怪獣たちは、ボスと同じようにボディに赤いウォーペイントをほどこされ、スカーキングの私兵となる(映画のノベライズでは“レッド・ストライプス”と呼ばれている)。

他に、スカーキングの奴隷となったエイプ怪獣たちも登場。さらにスカーキングは何頭もの女性エイプ怪獣たちに自分の子どもを出産させて、我が子として愛でるのではなく配下にする、という『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)、『マッドマックス:フュリオサ』(2024年)の悪役イモータン・ジョーも共感してくれそうで共感してくれない、権力志向に憑りつかれたヴィランだ。映画のノベライズによると、スーコもそんな境遇によって誕生した子どもで……。

ちなみにコングの同族怪獣は、『キングコング:髑髏島の巨神』公開後にリリースされた、映画の“その後”を描いたコミック「Skull Island: The Birth of Kong」にも登場する。同コミックの回想シーンで、幼いコングの両親と仲間のエイプ怪獣たちが、『キングコング:髑髏島の巨神』のヴィラン怪獣<スカル・クローラー>の大群から幼いコングを守るために命を落とす様子が描かれているのだが、エイプ怪獣たちは皆、コングと同じゴリラ系怪獣だった。

しかし、本作は違う。ゴリラ系だけでなく、オランウータン系、チンパンジー系などが様々な種類のエイプ怪獣が登場する巨大な『猿の惑星』状態! ということなので劇中、コングVSスカーキングだけでなく、コングVSレッド・ストライプスも披露されるという、エイプ怪獣ファンならばこのシーンだけで白飯が何杯でもおかわりできるゴージャスな作品になっている。ぜひ「みんなちがって、みんないい」エイプ怪獣たちの魅力を堪能して欲しい!

また、スカーキングのダークな性格は1対1の戦闘にも表れている。コングを凌駕する俊敏さでトリッキーな攻撃を仕掛けてくるだけでなく、ハードコアな武器を使用。前作『ゴジラvsコング』でコングと戦った、全長130メートルの翼のある大蛇のような怪獣<ワーバット>の脊椎の骨で作られた鋭いムチだ。

対するコングは前作でゲットしたバトルアックスを使うのだが、これはウィンガード監督が大好きなバイオレンス映画『北国の帝王』(1973年)のリー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナインによる、「斧 VS チェーン」の戦いからインスパイアされたものだ。

デカさ最大クラスの冷凍怪獣<シーモ>はデザインも難航

限度を超えた悪知恵のオーナーであるスカーキングは、戦闘では軍隊、ムチだけでなくさらなる秘密兵器を用意している。全長162メートルの四足歩行の怪獣<シーモ>を監禁して、戦闘の際には大量破壊兵器として使用するのだ。

モンスター・ヴァースにおいて、ワーバットなどのヘビ系怪獣を除いて最も巨大な怪獣となるシーモは、口から凄まじい冷気を放出する冷凍怪獣。かつて地球が氷河期になったのはシーモの仕業、という最終兵器感満載な設定の怪獣デザインが決定するまで、ウィンガード監督と怪獣デザイナーのクリチェフスキーは試行錯誤を繰り返したという。

最初は「ゴジラの冷凍怪獣バージョン」というコンセプトでデザインを試みるが、納得のいく姿にならなかった。その後、異世界ものに登場するドラゴンのようなデザイン、『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年)の冷凍怪獣バルゴンを思わせるデザインを試すがすべてボツ……。最終的にクリチェフスキーは架空の怪獣ではなく、現実に存在する動物たちの要素を組み合わせてデザインした。

その結果、四足歩行するボディはコモドオオトカゲとホッキョクグマをベースに、頭部のフォルムはカメレオンをベースにし、背中からクリスタル状の突起物を生やしたシーモが誕生。モンスター・ヴァース作品に登場するオリジナル怪獣のデザインについて、ウィンガード監督は「モンスター・ヴァースに存在する怪獣にふさわしいデザインにするのは、ある程度シンプルな感じにする必要があるんだ」と語っている。

ちなみにシーモは女性怪獣である。この女性をコキ使っているスカーキングは、地球をいま一度、氷河期にして支配しようと目論む……。

コングにとってはスカーキングだけでも厄介なのに、彼はシーモも従えている。だからコングとゴジラはチームを組む必要があるんだ。

パワーアップするゴジラはまさかの「DBZ」インスパイア?

本作公開前に発表されたフィギュアや予告編を観たファンの多くが、ゴジラのデザインが一新されたことに驚いたと思う。

今回のゴジラは『ゴジラ』(1984年)以来2度目となる原子力発電所から放射線を摂取するだけでなく、全長258メートルの電気ウナギのような怪獣<ティアマット>を殺して、その巣に蓄積されていたパワーを吸収した結果、お腹周りがスッキリしてビルドアップされた身体とピンク色に発光する背ビレを持つ、従来の20倍のエネルギーのオーナーとなる。

このデザインに関しては当然、『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999年)、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000年)に登場した紫色の背ビレを持つゴジラを参考にしつつ、クリチェフスキーはアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』(2021年)に登場したゴジラの最終形態<ゴジラウルティマ>からもインスパイアされたという。

それにしても、なんで背ビレが紫色ではなくピンクなんだ? と思うが、これには非常にゴキゲンかつチャイルディッシュな理由があった。「ゴジラがパワーアップしたバージョンをデザインして」とオーダーされたクリチェフスキーが、まず頭に思い浮かべたのは、なんとアニメ『ドラゴンボールZ』(1989~1996年)でピンクのオーラを発しながら界王拳を使う孫悟空だった。

今回のゴジラのデザインのベースとなったのは“界王拳”だよ。悟空が界王拳を使うのは一時的だし、多くの体力を消耗するように、ゴジラも一時的にパワーアップした姿になるには膨大なエネルギーが必要になる。だから、余分な脂肪が全部燃焼されて、ああいう体型になったんだ(笑)。

そう明かすクリチェフスキーのアイデアに賛同したウィンガード監督も、「ゴジラの背ビレをピンクにしたのは、僕が一番好きな色だから(笑)。僕の部屋にはピンクの照明があるし、映画を編集する時はいつも部屋をピンクの照明にしているぐらい好きなんだよ!」と語っている。

なお、パワーアップしたゴジラが氷山の中から出現するのは、『キングコング対ゴジラ』(1962年)のゴジラ登場シーンへのオマージュだという。

コングの腕アーマー装着に隠されたマニアックすぎる元ネタあれこれ

ゴジラのパワーアップ・バージョン以外にも、公開前に予告編やフィギュアを観たファンが驚いたのが、右腕に“メカアーマー”を装着したコングの姿だろう。

彼が装着するアーマーの正式名称は<B.E.A.S.T.グローブ>。B.E.A.S.T.は「Bio Enhanced Anatomech Seismic Thunderの」略。モナークがコングの戦闘能力を向上させるため、彼にアーマーを装着させる<パワーハウス計画>のために開発されたもの。

しかし、計画自体は「コングが強くなりすぎたら制御できないかも……」というモナーク上層部の懸念から頓挫する。その幻のプロジェクトの遺産を装着するわけだが、劇中に登場するB.E.A.S.T.グローブの設計図は、なんと『パシフィック・リム』(2013年)の主役ロボ、ジプシー・デンジャーの腕の図面!

ゴジラを気絶させるほどの打撃力を持つB.E.A.S.T.グローブをコングが装着するシーンで景気よく流れる曲は、KISSの「ラヴィン・ユー・ベイビー(I Was Made For Lovin’ You)」。この曲の使用にも、ウィンガード監督のギークなゴジラ愛が込められている。

「ラヴィン・ユー・ベイビー」は2006年に制作されたキヤノンのカメラ・EOS Kiss デジタルXのCMに使用された曲。そのCMには、この曲を唄うKISSのメンバー、ポール・スタンレーのような右目の周りに星形マークをペイントした『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)版ゴジラが登場する。こういう細かいネタも拾ってくるウィンガード監督は、本当に信用できる人物です!

コングとゴジラの共闘は「グラサンかけろ」「嫌だ」インスパイア!?

B.E.A.S.T.グローブを装着したコングはスカーキング軍団を倒すため、『ゴジラ対メガロ』(1973年)のジェットジャガーのごとく、地上にいるゴジラに助っ人になってもらおうとネゴシエートを試みる。このシーンで、ゴジラがジブラルタルの岸壁から海へダイブするのは、『ゴジラ対メガロ』のダイブ・シーンへのオマージュ。

当然、前作で壮絶な殺し合いを繰り広げた者同士がスムーズにタッグを組めるわけはなく、ファンには嬉しいゴジラvsコングのリターンマッチがエジプトを舞台に勃発! ウィンガード監督がこのシーンの参考にしたのは、ジョン・カーペンター監督作『ゼイリブ』(1988年)でプロレスラーのロディ・パイパーとキース・デイヴィッド演じる主役キャラ同士が、方向性の違いからプロレス技も使って観客がドン引きするほど長い喧嘩をする名シーンだ。

ゴジラとコングの関係を描くのに影響を受けた作品は、『リーサル・ウェポン』(1987年)などの80年代に作られたバディものの刑事映画だよ。性格の合わない2人がコンビを組まされる映画は多いからね(笑)。そして、他に大きな影響を受けたのが『ゼイリブ』。この映画は、僕が人生で一番好きな映画といっても過言じゃない(笑)。『ゼイリブ』の中で特に好きなのが、本来はヒーローである主人公同士が誤解のために戦わなければならなくなるシーン。だから今回の映画の参考にしたんだ。ゴジラとコングの関係は、もっと複雑なんだけど(笑)。

それほどまでに『ゼイリブ』を愛するウィンガード監督は『ゴジラvsコング』のリターンマッチとして、『ゼイリブ』でロディ・パイパーが披露したブレーンバスターを本作でゴジラに使わせている。

再び優れたネゴシエーターぶりを発揮するモスラ

ゴジラとコング、どちらかが死ぬまで終わることがない対決を収めた怪獣は、劇場公開日までその存在が伏せられていたモスラだった。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)以来、二度目のモンスター・ヴァース作品登場となるモスラは、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)でキングギドラを倒すためゴジラとラドンと交渉したように、本作でも見事なネゴシエーターぶりを発揮する。

コングとモスラは、1966年に企画された東宝怪獣映画『ロビンソン・クルーソー作戦:キングコング対エビラ』で共演するプランがあったが、企画が頓挫して実現には至らなかった。そして、ゴジラ誕生70周年の2024年に遂に共演! だがウィンガード監督は、この奇跡を実現させるためにも長い道のりがあったと語っている。

実はこの映画が動き出した頃、モスラを映画に出せるか決定していなかったんだ。だから、僕らは<フォスフェラ>というモスラに代わる新怪獣の案も考えていた。でも、最終的にモスラを登場させることができて良かったよ! ゴジラとコングの喧嘩を収めることができるのは、やっぱりモスラしかいないよね(笑)。

ちなみにフォスフェラは、本作の地下空洞世界シーンの壁画に描かれているので、興味のある方はリピート鑑賞時にチェックしてみてほしい。人型のボディに大きな翼と尾が生えた鳥人間チックな壁画がそれなので。

格闘ゲーム「ゴジラ怪獣大乱闘」の影響

本作最大の見せ場といえば、遂にシリーズ初の本格タッグを組んだゴジラ&コングVSスカーキング&シーモ戦なのだが、モンスター・ヴァース映画史上最も登場怪獣の種類&数が多い本作には、他にもグッとくる怪獣バトルがある!

まずはコングVS本作初登場のヘビ型怪獣<ドラウンバイパー>戦。このゴリラ怪獣とヘビ型怪獣の戦いは、『キングコングの逆襲』(1967年)のコングVS大ウミヘビ戦にオマージュを捧げている。ちなみに『キングコング:髑髏島の巨神』のヴィラン怪獣も当初はスカル・クローラーではなく、『キングコングの逆襲』ファンへのサービスとして水中に棲む大蛇にするというプランもあった。

そして先にも少し触れた、ゴジラVSヘビ型怪獣ティアマット戦も見逃せない。ティマットもドラウンバイパーと同じく映画初登場の怪獣だが、実は『ゴジラvsコング』公開前にリリースされた前日譚コミック「ゴジラ:ドミニオン」で初登場している(『ゴジラ キング・オブ・ザ・モンスターズ』[2019年]でもモナークのPCモニターに名前が出てきたが、登場には至らなかった)。こういうコミックのネタも回収するウィンガード監督の細やかなセンスは本当に素晴らしい。

本作での怪獣同士のバトルを描く際、ウィンガード監督は格闘ゲーム「ゴジラ怪獣大乱闘」シリーズを参考にしたという。モンスター・ヴァース作品のお約束のひとつといえば毎回、メイン・ヴィランが主役怪獣にブルータルきわまりないバイオレンスでトドメを刺されるところ! 今回、ゴジラ&コングVSスカーキング&シーモ戦にピリオドを打つフィニッシュ技を考える際、ウィンガード監督は残酷格闘ゲーム『モータルコンバット』で、フラフラになった相手のボディを後戻りできないくらい破壊するフェイタリティ(究極神拳)を参考にしたという!

『モータルコンバット』は僕の人生に、常にヒントを与えてくれるんだ!

素晴らしい! そういう感性のオーナーだからこそ、モンスター・ヴァース作品史上最も登場する怪獣の種類と数、そしてバトルの数も多いのに、上映時間が2時間以内(※115分)という怪獣映画ファンにはたまらない作品を作ることができるんですね! その感性を大事にして、ジェットジャガーとメカニコングが登場するまでモンスター・ヴァース作品を作り続けてほしい! と願ってやまない今日この頃である。

文:ギンティ小林

『ゴジラxコング 新たなる帝国』は全国公開中

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