【奨学金】正規教員に採用された大学院生の奨学金の返済を全額免除に

2024年度の採用から適用予定

子どもの成長過程で家庭と同じくらい大きな存在なのが「学校」です。

勉強だけでなく集団生活を通じてクラスメイトと力を合わせることの大切さを学ぶ場でもあります。

子ども達をまとめたり、授業をし勉強を教えたりする役割を担っているのが「先生」になります。一口に先生といっても、非常勤講師や正規雇用と雇用体系を問わず「学校で子ども達に教えている人」と認識されています。

学校生活には欠かせない職種ですが、近年は教員不足がニュースなどで大きく取り上げられることも増えてきています。

深刻な教員不足解消に向けて、文部科学省は正規教員に採用された大学院生を対象に「奨学金返済全額免除」の方針を固めたことが分かりました。

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子どもの学びにも影響する「教師不足」

令和4年1月に発表された文部科学省「教師不足」に関する実態調査では、教師不足が深刻な状況になっていることがわかる。2枚目では詳細な「教師不足」の状況がわかります。

教員不足は少子化の中で起きていることもあり、不思議に思われることも多いです。
子どもの数が明らかに減少しているのに先生が足りていないというのは、摩訶不思議な出来事です。

昭和の頃のように40人の生徒を一人の先生がマンパワーで指導するスタイルから脱却し、きめ細かい指導が行われています。公立小学校でも算数などで子どもの理解力を深めるため少人数制の授業を行うことは珍しくありません。

そのため、時代に即した指導を行う場合、少子化であっても先生の数が足りないというのが実情です。

団塊世代の教員の退職による先生の数の減少や、正規採用の枠を限定し非正規採用に頼っていったこと、産休育休や病気による休職者や教育採用試験の倍率低迷が同時進行で起き、教員不足を解消する手だてがなかなか見つからない状態が続いています。

文部科学省が2022年に発表した「教師不足に関する実態調査」によると、2021年の始業日時点での公立小学校・中学校と高校、特別支援学校での教師不足人数は、合計2558人ということが分かり、深刻な状況は新聞などのメディアでも大きく取り上げられました。

なお、不足人数「2558人」の内訳は、公立小学校・中学校(2086人)と高校(217人)、特別支援学校(255人)となっています。

【奨学金返済免除】かつてあった「教員の奨学金返済免除制度」

学校に配当されている教員定数に対する「教師不足」の割合は高等学校が最も低く0.1%、他は小学校は0.26%、中学校は0.33%、特別支援学校 は0.26%となっている

そもそも、学校での勤務はブラック職場の代名詞というイメージも根強くあります。

教育公務員は「給特法」により残業代が出る業務内容がはっきり決まっています。「給特法」とは、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」のことで、日本における公立学校の教育職員の給与や労働条件を定めた法律です。

テストの丸つけや授業や欠席した児童生徒への連絡や、問題が起きた時の話し合いなどで夜まで残り仕事に追われても、残業代が発生することはありません。

また、中学校での部活動指導を筆頭に長時間労働が問題視され続けています。モンスターペアレンツ問題もあり、こうしたブラックな面を見ると「やりたい!」という気持ちがしぼんでしまうのも仕方がないことに思えます。

こうした職場環境は昭和の頃や平成初期に比べると改善しつつあります。それでも昔は志望者の減少傾向が見られなかったのは「教員に採用された大学学部卒業者、大学院修了者を対象にした奨学金返済免除制度」の存在が大きかったと考えられます。

戦後の日本の公教育構築の時代である1950年代に正規雇用された教員が一定期間職務についたら奨学金が免除される制度がスタートしました。しかし、1998年4月大学学部入学者から廃止されています。

制度が廃止されたことにより、奨学金を借りながら大学に通い、教員に採用されても返還義務を負うことになります。ただでさえ無利子でも負担は大きいのに、利子付き貸与の場合は就職してからの支払い額は借りた分よりも増えます。

免除制度が廃止され、教員以外の職を選択する学生が増えるのも自然なことです。

【奨学金返済免除】ただし、奨学金返済免除の恩恵を受けるのは全体で1割未満

2023年度採用者の採用試験「公立学校教員採用選考試験」の採用者は3万5891人。

全国的に問題となっている教師不足を一気に解決することは至難の業です。

自治体レベルだけでなく国の強力な後押しや「学校の先生を目指す学生」を増やす現実的な対策を整えることが必要となる中、文部科学省はかつて行われていた「教職に就く人の奨学金返済免除」を2024年度採用者から適用する方針を固めました。

しかし、対象となるのは「教職大学院を修了して国公私立の学校に正規教員に採用された人」と「教職大学院以外の大学院を修了し公立校に採用された人」のみです。

ちなみに教職大学院が設置されている大学は国立大学47校、私立大学では7校のみとなっています。

2023年度採用者の採用試験「公立学校教員採用選考試験」の採用者は3万5891人です。

そのうち大学院卒は全体の7.2%にあたる2585人、一方で大学の学部卒の採用者は84.5%を占め、その数は3万2571人にのぼることが文部科学省の「令和5年度(令和4年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況」から分かっています。

この結果からみても、教職大学院出身者や他の大学院を修了した公立学校の正規採用者に限定した場合、奨学金返済免除の恩恵を受けるのは全体で1割未満と、かなり限られることになります。

【奨学金返済免除】奨学金返済免除制度があっても、すぐに教員不足解消となるとは考えにくい

子どもの人生にも影響を与える学校生活。その中で様々な先生と出会い、成長していきます。

子どもの人生にも影響を与える学校生活。その中で様々な先生と出会い、成長していきます。

親としては教員不足により現役で学校で働いている先生への負担が増し、さらに志願者が減ることや教育の質の低下につながるのではと弊害を考えてしまいます。

教員採用者の大半が学部卒業生ということを考えると、復活となる奨学金返済免除制度も、すぐに志願者増加、教員不足解消に至るとは思えません。

教員の働き方、現実的な対策を早急に行うことが望ましいでしょう。

参考資料

  • 文部科学省「教師不足」に関する実態調査(令和4年1月)
  • 文部科学省「令和5年度(令和4年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」

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