守るARTA松下信治 vs 攻めるAstemo太田格之進。抜きつ抜かれつ&同門同士の極上の表彰台バトル

今シーズン初めて3時間レースのフォーマットで開催されたスーパーGT第2戦『FUJI GT 3HOURS RACE』。GT500クラスでは、ホンダCIVIC TYPE R-GT同士が表彰台をかけたバトルが今回のレースのハイライトのひとつになった。積極果敢に攻めていくAstemo CIVIC TYPE R-GTの太田格之進と、表彰台のポジションを死守したいARTA CIVIC TYPE R-GT #8の松下信治による白熱したバトルについて、レース後のふたりに聞いた。

【お互いに速いポイントが違うからこそ生まれた好バトル】
 最終スティントが始まった段階では8号車ARTAが先行している状態だったが、そこに太田が駆る17号車Astemoが接近。チェッカーまで残り40分を切った93周目からバトルが始まった。

 最終のパナソニックコーナーで太田が並びかけてメインストレートでの勝負に持ち込むが、8号車ARTAを駆る松下も、TGRコーナーでクロスラインを使うなどしてポジションを死守。そういった展開が何度か続いた。

「ペースはこっちが良かったのですけど、セットアップの違いなのか僕たち(17号車)と向こう(8号車)の速いところが違いました。僕はセクター2が速くて、向こうはセクター3のトラクションが良くて、そこで向こうもストレートが速くて、抜くのが難しかったです」と太田。

「ストレートで2回並びかけることができたんですけど、運が悪く2回とも1コーナーで(GT300など)他のクルマが目の前にいて、それに惑わされた部分はありました。それがなかったらブレーキング勝負で行けたかなと思いますが、そこはリスクを取りすぎないようにいったところでもあります。何より3位争いだったので、向こうも意地になって守りに来ていました」とメインストレートでのバトルを振り返った。

 これに対して松下は「セクター1とセクター2が彼の方が速かったので、そこで追いついてきてGT300が絡んだ時に入ってくる……僕も逆だったらそうするとは思いますし、上手く対応できたのかなと思います」と相手の手の内は読めていた様子。

 ただ、本音としては太田を振り切って逃げたかったようで「ああいうバトルをしているとペースも遅くなっちゃうし、タイヤも使ってしまうので、できればひとり旅の方が良かったですけど、前も後ろもギャップが大きかったので『やっちゃえ!』と思ってバトルをやっていました」と松下。こうしてふたりのバトルは20周近く続くことになった。

【太田格之進の「一発差しに行こう」と決めて飛び込んだADVANコーナー】
 そのなかでもハイライトとなったのが、103周目のADVANコーナーで太田が思い切ってインから追い抜きにかかったシーン。しかし、松下のインに飛び込んだ太田だったが、タイヤをロックしてしまいオーバーラン。結局、松下の前に出ることはできなかった。

「何周か前から僕たちの方が100Rで速いというのは分かっていました。ちょうどあの時は、GT300が内側にいて、それでちょっと近づいたので『一発ここで差しておこうかな』と思っていきました」と太田。

「ただ、あそこはアンジュレーションがあってイン側のタイヤがロックしやすいですし、タイヤカスも多いので、あそこで行かなくても良かったかもしれないですけど……でも僕たちはセクター2が速いので、他の場所で抜くのが厳しいという判断もありました」と、チャレンジしたことに悔いはなかったようだ。

 GT500のバトルではなかなか見ないADVANコーナーでの攻防戦だが、前を走っていた松下は「(来るのは)見ていました」とのこと。「距離的にはちょっとあったのですけど、あそこが17号車の方が速かったので『来るかもしれない』と思って準備をしていました」と、太田の動きは読めていたようだ。

 オーバーテイクはできなかったものの気合いのこもった走りを見せる太田に「なんとか現状を打破しようとしてくれているなと、見ていて思いました」と17号車Astemoの金石勝智監督。結果的に松下の前に出られなかったが、太田の攻めていく姿勢には「“若さ溢れる”みたいなところがあって、あれは買いですね! もちろん、ぶつからないようにして、ああ言うのはどんどん出して欲しいですね」と太田のトライを評価していた。

 ただ、このコースオフで両者の差が広がり、8号車ARTAの表彰台が確実かと思われたが、チェッカーまで残り8分30秒というところでミッショントラブルが発生してスローダウン。ピットに戻って戦線離脱を余儀なくされた。

「シフトのトラブルが出てしまったのが残念でしたけど、バトル自体は面白かったです。追われる立場でしたけど、自分の強さを見せられたと思うし、あれを見てお客さんも喜んでくれればなと思います」と松下。結果は悔しいものとなったが、バトルに関しては楽しそうに語っていたのが印象的だった。

【太田格之進、「正直、悔しい3位です」】
 これにより、3位に浮上した17号車Astemo。ただ、103周目のADVANコーナーでタイヤをロックさせたことで「(フラットスポットが)若干できていました」と太田。「最後はバイブレーションがけっこう出て心配でしたけど、8号車がいなくなってからは労りながら走っていたので、そこは問題なかったですし、最後はちゃんと36号車(au TOM’S GR Supra)から順位を守ることができたので、そこは良かったと思います」と、冷静にゴールまでマシンを運べたとのこと。

 だが、チームを移籍して初の表彰台を獲得できたにもかかわらず、太田の表情に笑顔は少なかった。

「個人的には新旧17号車のドライバーの戦いだったので、僕としても(金石)勝智さんとか(塚越)広大さんに『昨年のドライバーよりやれるよ』というところを見せたかったです」と太田。

「松下君を抜いて3位であれば僕はハッピーだったのですけど、抜き切る前に向こうがトラブルで戦線離脱したので……正直、こんなに悔しい3位はあまりないかなと思います」とレース後に本音が漏れていた。

最後はARTAのトラブルでAstemoが3位になったものの、太田にはバトルで抜き切れなかった悔しさが残る

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