昔成田を賑わせた「第5の自由」を振り返る!冬ダイヤからユナイテッド、7年ぶり以遠権復活

成田国際空港 2009年10月31日撮影 N174UA ボーイング747-422 ユナイテッド航空

ユナイテッド航空は冬ダイヤ初日の2024年10月27日(日)から、7年ぶりの以遠権路線となる成田/セブ線に新規就航します。当初、夏ダイヤ中の7月31日(水)から就航する予定でしたが、冬ダイヤでの路線開設へと延期されています。使用機材は、グアム線やサイパン線で運用されている166席仕様のボーイング737-800型機で、週7便の毎日運航です。同社が運航する成田発着のサンフランシスコ・ロサンゼルス・デンバー・ニューヨーク(ニューアーク)・ヒューストン線と接続し、便名は“昔の以遠権路線”と同様に成田〜ロサンゼルス線と同じものを付与。ロサンゼルス発成田経由セブ行き、セブ発成田経由ロサンゼルス行きとして運航します。

■ ユナイテッド航空 東京(成田)〜セブ 時刻表
UA32便 東京(成田) 17:30 / セブ 22:05 (毎日)
UA33便 セブ 09:30 / 東京(成田) 15:15 (毎日)

“昔の以遠権路線”といえば、1990年代や2000年代に成田空港を中心に賑わせたアメリカ系の航空会社が思い浮かびます。

© FlyTeam 狛犬さん成田国際空港 2007年4月8日撮影 N228UA ボーイング777-222/ER ユナイテッド航空

戦後、日本の民間航空網の発達に寄与したノースウエスト航空やパンアメリカン航空に対して、日本政府は無制限の「第5の自由」を付与しました。これは、自国(アメリカ)以外の第3国(日本)を経由地として更に別の国(アジア各国など)へ旅客や貨物を輸送できる権利です。ノースウエスト航空と合併したデルタ航空、パンアメリカン航空から太平洋路線を買収したユナイテッド航空にもこの権利は継承されています。しかし、日本の航空会社にとって公平性がないことによる議論や、航空機の性能が向上したことによるアメリカ〜アジア間の直行化、アライアンスや共同事業(JV)の多角化により以遠権路線は衰退し、アメリカの航空会社による以遠権路線(旅客便)は2020年のデルタ航空による成田〜マニラ線運休とともに消滅していました。羽田空港に関しては“特例”で、発着枠が2国間交渉で決定かつアメリカ運輸局により発着枠を配分する関係から、「第5の自由」は認められていません。

当時は、ヴァリグ・ブラジル航空の成田/ロサンゼルス線や、日本航空(JAL)がロサンゼルス・ニューヨーク(JFK)〜サンパウロ線、バンクーバー〜メキシコシティ線、シンガポール〜クアラルンプール線を運航していた時期もあり、世界各国で盛んに以遠権路線の運行が行われていました。現在でもシンガポール航空による成田〜ロサンゼルス線、大韓航空による成田〜ホノルル線、キャセイパシフィック航空による成田・名古屋(中部)・大阪(関西)〜台北(桃園)線、FedExの貨物専用便など、アメリカの航空会社の旅客便以外では多く運航されています。

© FlyTeam Y@RJGGさん成田国際空港 2008年4月19日撮影 N798UA ボーイング777-222/ER ユナイテッド航空

1990年代から2000年代は、ノースウエスト航空とユナイテッド航空による以遠権路線が最も多く運航されていました。両社ともに、成田空港に整備や乗員、機内食工場などの自社拠点を設け、使用していた第1ターミナル北ウィングや南ウィングの一部は“ほぼアメリカの空港”状態で、アメリカ本土よりも大型機が集結していました。筆者の体験談として、当時の展望デッキにはアメリカから“レジ集め”で撮影に訪れた航空写真家が通い詰めており、よく情報交換をしたものでした。

ノースウエスト航空と合併したデルタ航空は現在も整備拠点を成田に置いており、自社格納庫を保有して新造機の就航前改修整備などを実施しています。昔、富里市に設けていたノースウエスト航空機内食工場は「インターナショナルリゾートホテル 湯楽城」として大型温泉施設に、三里塚のユナイテッド航空機内食工場はゲートグルメジャパンの機内食工場として活用されています。

【関連記事:デルタの新造機が成田に!?格納庫で行われている作業とは

© FlyTeam 写真集団E235さん成田国際空港 2007年8月24日撮影 N811NW エアバスA330-323X ノースウエスト航空

ユナイテッド航空は2010年代まで、成田発着の北京線・上海線(いずれも2000年代に運休)、ソウル線(日韓ワールドカップ開催時はアメリカ路線に接続しない日中便も運航)・台北線・香港線・バンコク線・シンガポール線(2013年〜2017年までに順次運休)を運航。いずれもアメリカ本土から到着した、ボーイング747-200型機や400型機、ボーイング777-200ER型機、マクドネル・ダグラスDC-10型機の機材を使用していました。当時のグアム線は、コンチネンタル・ミクロネシア航空(後にユナイテッド航空と合併)が727、747-200、DC-10、767-400や737-800などで運航されていました。

ノースウエスト航空の以遠権路線は多岐に渡り、成田発着の北京線・上海線・広州線・香港線・台北線・高雄線・ソウル線・釜山線・マニラ線・バンコク線・シンガポール線・パラオ線(デルタ航空)、大阪発着の台北線・高雄線・マニラ線・クアラルンプール線・シドニー線、名古屋発着のマニラ線などを運航していました。特筆すべきはユナイテッド航空と同様にアメリカ本土からの747-200や400、DC-10、エアバスA330型機を使用する一方、2002年に供用開始した暫定B滑走路(2,180m)の発着枠を活用するため、アメリカ国内線や近距離国際線に使用していたエアバスA320-200型機を3〜5機、以遠権路線だけのために成田空港へ常駐させた点です。A320は、成田〜高雄線・釜山線・台北線などで運用されました。後のデルタ航空との合併後まで、グアム・サイパン・パラオ線向けにボーイング757-200型機が成田に常駐していました。

© FlyTeam senyoさん成田国際空港 2003年9月15日撮影 N341NW エアバスA320-211 ノースウエスト航空 © FlyTeam ニュース2000年〜2001年ごろのノースウエスト航空 時刻表 © FlyTeam ニュース2000年代のノースウエスト航空 ルートマップ (機内誌より) 赤線が自社運航便

今回、ユナイテッド航空が7年ぶりに以遠権路線を自社運航で復活させます。アメリカの航空会社による以遠権路線が衰退した今、あえて自社で成田〜セブ線を運航する必要があるほどの需要を見込んだものとみられます。日本発着の利用者としては、日本の航空会社がカバーしていない範囲で選択肢が増えることは嬉しいことであり、今後の更なる路線展開などにに期待したいです。

© FlyTeam senyoさん成田国際空港 2004年8月17日撮影 N240NW マクドネル・ダグラス DC-10-30 ノースウエスト航空

© FlyTeam