ちょんまげ姿で採用され話題 「自分はこれだ!」とひらめいた瞬間 肯定してくれた友人や今の職場への思いとは

普段からちょんまげに和服姿のとりにくさん【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

自分のこだわりや個性を受け入れてもらえると、とてもうれしい気持ちになります。多様性の時代といわれ、個性を重んじる論調がありながら、周囲と同じであることを求められる場面が少なくありません。そうしたなか、X(ツイッター)では、とても個性的なスタイルを貫いた状態でアルバイトに採用された男性が話題になっています。投稿者のとりにく(@tarakosan114)さんに、詳しいお話を伺いました。

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ちょんまげを結い、羽織袴で面接に合格

「嘘だろ、、、!??? 受かったよバイト……しかもちょんまげのまま接客でなんら問題ないと……」

本人が一番、驚いている様子で、アルバイトに採用されたことを報告する投稿。ちょんまげ姿のアイコン写真から見知らぬ人たちも状況を理解し、多くの祝福の声と3.5万件もの“いいね”が集まりました。

同じ日の少し前には、凛々しい姿に「行ってきます」のひと言を添えた写真も投稿。きちんと羽織袴を身に着け、面接に臨んだようです。投稿は大きな反響を呼び、複数のメディアで採用の経緯が紹介されました。

注目を集めたのは、5年ほど前から基本的に和服姿で日常生活を送っているという、とりにくさんです。投稿時は批判されるのでは……と、ドキドキしていたのだとか。

「『おもしろがられているだけ!』『目立ちたがりだ』『たまたま恵まれただけで、世の中そんな甘くない!』といった手厳しい反応が多いかと思いながら、おそるおそるコメントをたどっていたのですが、『勇気づけられた!』『これが本来の多様性だよね』『かっこいい!!』など、とても好意的なご意見が多数寄せられ、うれしさと同時に驚きが大きいです。

少し偉そうかもしれませんが、自己満足でしかなかったこのスタイルが、世の中の栄養剤になれたのかな? などと思え、いっそうこのスタイルに対する自信や責任感が増しました」

羽織袴という、きちんとした服装で面接へ行ったとりにくさん【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

採用されたのは、沖縄料理店の「う~みや」八重洲別邸。現在、主にホールで配膳やお会計などを担当しています。実際にどんな職場か聞いてみたところ、とても素敵な環境のようです。

「沖縄料理の店ということで、いわゆる“てーげー主義”的なものが根底にあるようで、従業員のみなさんも大変おおらかな方ばかりです。私の髪型についても『珍しいけどただの髪型だから、それはなんにも問題ない。それより大切なのはお客さんが喜んでくれて、君も楽しく仕事ができること』と言ってくださいました。

お客様も先輩従業員も『最初は驚くけど、案外自然だよね。慣れればなんとも思わないし、むしろかっこいい』と好評をいただいています」

ヘアスタイルをちょんまげにする前【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

注目を集めた今のスタイルが確立されるまで

とりにくさんはもともと、古いものが好きで「現代的なファッションになじめなかった」と話します。そうした感覚もあって、高校時代に「日本人ならば一度くらい、ちゃんと着物を着たい。一着は持っておきたい」と考えたそう。実際に身に着けてみると、とてもしっくりきたとのことで、着物で生活するようになりました。

髪色を変えていた頃も【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

一方、髪型はいろいろと模索。「なじめないとはいえ、まだ同年代のキラキラしたファッションに若干の憧れもあったので、派手髪にもしていました」と、試行錯誤した時期があったと語ります。そうしたなか、とりにくさんは偶然の出来事から、現在のヘアスタイルにたどり着いたのだとか。

茶をたてるときに使う茶筅の形に似ていることから名づけられた「茶筅まげ」姿のとりにくさん【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

「散髪に行くのをサボって髪が伸びてきまして、殿様風の茶筅(ちゃせん)まげにまとめてみたところ『自分はこれだ!』とひらめき、ようやく自分のスタイルが確立され、ちょんまげに走りました」

スタイルを確立しているだけに、洋装でも自然に見える【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

「今のほうが輝いて見えるよ、生き生きしているし」

着物もちょんまげも、とりにくさんにとてもよく似合っています。しかし、多くの人が当たり前にまげを結い、着物を着ていた江戸時代が終わったのは1868年。すぐに服装や髪型が変化したわけではありませんが、150年以上になります。

日頃から和服姿の人はいても、とりにくさんのように、月代(さかやき。額から頭の中央にかけて髪を剃った状態)まで整える本格的なちょんまげというのは、かなり珍しい状況です。家族からは当初、どのような反応があったのでしょうか。

「母親は諦めたように『やめたくなったら坊主にすればいいんだから、今のうちにやっとけば』と。祖母に会うときには両脇の毛で覆い、剃った部分を隠して普通を装ったのですが、『そんなことしたって、てっぺん剃っているのなんてわかるわ!』と呆れられ、心配もされました」

ちょんまげにする前から髪を染めるなどしていたため、闇雲に反対されることはなかったようです。一方、友達からはまったく違う反応があったそう。

「友人たちは、『いいんじゃない? 別に遊ぶときも隠す必要ないし、なんか今のほうが輝いて見えるよ、生き生きしているし。見た目でどうこう言うなんて、友達じゃないでしょ。中身を見ているんだから、見た目がどうなろうと、君は君だし、その個性を含めて好きだよ』と言ってくれました」

反響で問い合わせが多かった、寝るときの枕【写真提供:とりにく(@tarakosan114)さん】

まげの結い方もさまざま 投稿への反響にうれしさも

ちょんまげといっても、実は身分や職業、時代によっても違いがあり、さまざまな種類が。とりにくさんは、まげの形によって着物を変えるなど、髪型に合わせて服装も楽しんでいるそうです。

「基本的には『武士まげ』をメインでやっています。鬢(うなじ)の毛や髱(たぼ。両サイドの毛)を膨らませ、剃髪部分を広くもつと一般的に町人まげ。それらを膨らませずひっつめて、狭い剃りで結うと武士まげ(時代によって多少異なりますが)になります。

普段は武士まげなので羽織袴ですが、町人まげのときには前掛けをするなど、カジュアルな着物を選んで着ています」

そのほか、力士の結い方の特徴を紹介し、実際に自分がまげを結うときの動画などをXに投稿。現代の日本人が知らない、日本ならではの髪型のひとつであるちょんまげをわかりやすく伝える存在にもなっています。

好きなファッションを貫き、多くの人にその個性を受け入れられたとりにくさん。これからも、自分のこだわりのスタイルを楽しんでくださいね。

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