青春と朱夏の境目

 藤の花はなぜ紫色なのだろう。明治の作家、斎藤緑雨(りょくう)はこう書いている。〈青皇(せいこう)の春と、赤帝(せきてい)の夏と、行会(ゆきあい)の天(そら)に咲くものなれば、藤は雲の紫なり〉。青い春と、赤い夏とが出会う空に咲くから、藤の花は紫色なのだ、と▲四季に色を添えて、青春、朱夏、白秋、玄冬ということがある。春を表す青色と、夏を表す朱色が混じって紫色になると、緑雨は趣のあるジョークを記している▲今はちょうど春と夏とが出会う頃に当たる。きょうは二十四節気の一つ「立夏」で、暦の上では夏に入った。野山が新緑に彩られるこの季節、景色はまだ春の装いを残すが、強い日差しは初夏を感じさせる▲気温もぐんと上がり、県内はきのう、最高気温25度以上の夏日になった。大型連休の終盤のお出かけには、暑さ対策もどうぞお忘れなく▲季節の色はこの先、紫色から赤みの強い赤紫色、やがて朱色へと変わっていく。昨夏の列島の平均気温は統計を取り始めてから過去最高で、今年も猛暑が予想される。夏の始まりはいつの間にか、熱中症への用心の始まりも意味するようになった。青々とした春が遠のいていく▲〈行く春のうしろを見せる藤の花〉一茶。きょうは「こどもの日」でもある。公園の藤棚の下で響く子どものはしゃぎ声は「またね」と春を見送る声でもある。(徹)

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