“中村俊輔2世”ではなく…「山田楓喜を見ていただきたい」 U-23日本代表を頂点へ導いたレフティが描く未来とは

「正直、危機感しかない」と日本サッカー協会の山本昌邦ナショナルチームダイレクターが語った通り、AFC U-23アジアカップ前は下馬評の低かったU-23日本代表。その彼らが大いなる苦境を乗り越え、8大会連続五輪の切符を獲得。さらにアジア王者に輝くという偉業を達成したのだ。

5月3日の決勝ウズベキスタン戦、序盤から劣勢を強いられた。スコアレスのまま延長にもつれ込むかと思われた後半アディショナルタイム、途中出場の山田楓喜が大仕事をやってのける。高井幸太のインターセプトから藤田譲瑠チマ、荒木遼太郎を経由してボールが渡った瞬間、背番号11はやや遠目の位置から迷うことなく左足を一閃。ゴール右隅に鋭い決勝弾を叩き込んだのである。

「点を取る時って、あまりシュートシーンを覚えてないんですよ(笑)。たぶん、ゴールだけを見て、振り抜く形で決めたんだと。それが良かったかなと思います。自分はこういう大舞台で決めるために、常に腐らず準備してきたので、当然の結果かなと思ってますし、日本代表を優勝に導けたことをすごく嬉しく感じます」

4日深夜の帰国直後、山田は改めて歴史的ゴールの瞬間を振り返った。4月25日の準々決勝カタール戦の先制点もそうだが、彼の左足の迫力と精度は突出しており、見る者を大いに魅了する。「日々の練習の積み重ね」と本人は自信をのぞかせるが、職人気質なところは、レフティの先人・中村俊輔と重なって見える。「“中村俊輔2世”みたいな言われ方をしますけど、やっぱり自分は誰かの後釜じゃなくて、“山田楓喜”を見ていただきたいというのはあります。俊輔さんのような素晴らしい左足の持ち主と比べられるのは嬉しいけど、僕は全く別の選手だし、全く違う特徴を持っているので」と彼は語気を強める。

そういった強気の姿勢は、この若武者の魅力。新レフティモンスターは今、一気に階段を駆け上がろうとしているのだ。ご存じの通り、山田は京都サンガF.C.のアカデミーで育った生え抜き選手。2020年にトップに昇格し、4シーズンを過ごして今季は東京ヴェルディへの期限付き移籍を決断した。京都時代はコンスタントに出番を得られなかったが、新天地では開幕から右FWの定位置を確保。6試合に出場し、2本の直接FKを含む3ゴールをゲット。凄まじいスタートダッシュを見せている。

「今年の目標として『自分の価値を高めて、どんどん名を売っていく』ということを、移籍した時から決めてました。これから山田楓喜をどんどん世界に知らしめていかないといけないんで、今はまだ途中。何も満足していないので、本当にこれからという感じですね」と彼は語っていたが、今大会は知名度を上げる絶好の機会になったはず。山田家の長男に代々つけられるという「喜」の字のように、多くの人々に喜びを与える好パフォーマンスを披露した山田は、プロフットボーラーとしての価値を一段階、引き上げたのは間違いないだろう。

とはいえ、大事なのはここから。東京Vに戻って活躍し続けなければ、約2カ月半後のパリ五輪行きは叶わない。実際、パリ世代の2列目は最大の激戦区だ。同じレフティでFKを蹴れる久保建英の参戦も想定されるだけに、キャラクターが少し被る山田が18人枠に滑り込める保証はないのだ。

「五輪はロンドン、リオ、東京とずっと見てきましたし、4年に一度の祭りみたいな大会。もちろんその舞台には立ちたいです。だけど、あまり意識しすぎず、これから一歩一歩、成長していくことが、何よりも大事だと思ってます。五輪代表争いに関しても、周りと比べても仕方ない。選ばれる選ばれへんに関係なく、そこがゴールじゃないし、まだまだこの先、サッカー選手としてのキャリアは続いていく。最終的に誰よりも活躍してる自信はあるので、高みを見据えてこれからまた成長していきたいなと思います」

山田にとって五輪はあくまで通過点。もちろんパリへ行ければ、2026年北中米ワールドカップも近づくだろうが、伊東純也、鎌田大地のように海外で実績を積み上げ、圧倒的な存在感を示して、日本代表入りした例もある。最終的に本人が思い描く世界トップ・オブ・トップに辿り着いていれば、それでいい。山田のビジョンは極めてシンプルなのだ。

近未来の成功を手にするためにも、今は足元を固めることが第一だ。「もう代表期間は終わったので、ヴェルディの選手として戦わないといけない。代表や五輪のことは一切忘れて、チームのために全力で戦いたいなと思ってます。6日のジュビロ磐田戦?出ろって言われたら、いつでもいける準備はしてます」。山田は直近の試合への強い意欲を示した。次はJリーグの舞台で驚異の左足を見せつけてほしいものである。

取材・文=元川悦子

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