現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』で、藤原道長役の好演がまさに光る、柄本佑さん。THE CHANGEでは、これまで掲載した記事の中から、特に反響の大きかったインタビューを再掲いたします(初出:2023年9月29日)。
ドラマから映画まで、さまざまな作品で存在感を発揮する柄本佑。2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』では藤原道長という大役を演じる。芝居を真摯に愛し、多くの役柄を魅力的に演じてきた柄本さんが語る「THE CHANGE」とは。
取材にあたって、テーブルにマイ水筒を置いた柄本佑さん。ピンク色のボトルに、豪快に書かれた黒い文字が見える。
道長。
2024年放送予定のNHK大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長を演じる柄本さん。5月末にクランクインし絶賛撮影中だそうで、役名が書かれた水筒を持参しているという。
「現場にこの水筒を持っていったとき、誰のかわからなくなるから名前を書いておこうと思ったら、周りから“道長って書きなよ”“道長でよくない?”と言われて。それで“道長”と書いたんです。そしたらなんか、スタッフさんに準備させたみたいなたたずまいになっちゃって……」
ーーたしかに。そう思ってしまいました。
柄本「僕、自分で用意して持っていってますからね」
大河ドラマ撮影現場のエピソードを気さくに話してくれる柄本さんだが、映画『春画先生』でも、メインキャストに名を連ねている。
内野聖陽さん演じる、“春画先生”の異名を持つ変わり者の春画研究者が執筆する、『春画大全』の編集者ーーという役どころ。どこか現実離れをしたキザな色男だが、そんな一面を象徴するシーンがある。それは、柄本さん自身が提案したのだという。
春画先生、そして北香那さん演じるヒロインの3人で、車を走らせ遠方へと向かうロードームービー感漂うシーンでのことだ。
たぶん、その日、気持ちよく晴れていたからだと思います
「あのシーンは、仕事だかバカンスだか、なんだかわからない感じがいいな、と思いまして。それで監督に“サングラスをかけたらどうでしょう”と提案して、実際にかけることになったんです」
さらに、一度観たら忘れられない印象的なシーンでも、柄本さんの提案が生きていた。
ーーTバック姿を惜しげもなく披露しています。しかも色は、目の醒めるような発色のブルー。あのTバックは柄本さんにしか似合いません。
「実は、最初に衣装さんが用意してくれたのは、黒いTバックだったんです。衣装合わせが終わって自前の服に戻るときに、“なんかもうちょっと明るい色がいいのでは?”と思いまして。
衣装さんに“黒や白だとちょっと真面目すぎちゃうから、もうちょっと明るい感じの色はどうですか? 青とか、空色とか”と提案したんです。そしたら塩田監督がそれを聞いていて、バッと前に現れて“それ、いいと思います、それでいきましょう!”と」
ーー黒から青にCHANGEしたんですね。なぜ青系を提案したんですか?
「たぶん、その日、気持ちよく晴れていたからだと思います」
ーー晴れていたから、空色のTバック! すてきですね! 役柄ともリンクして、とても印象的でした。
「台本を読んだとき、この役はセリフのフィクション度が強いキャラクターだと感じて。そこから着想を得て、ゆるやかに立ち上ってくるものがあれば提案してみようかな、という発想で提案させていただきました」
たかがTバック。されどTバック。役柄と真摯に向き合うからこそ、観る者が忘れられないディティールを生むのだ。
ドラマファンの女性を魅了する色気の秘密とは
2024年のNHK大河ドラマ『光る君』で、日本史上に残る色男とされる藤原道長を演じる柄本さん。女性はもちろんのこと男性さえもうっとりとさせる魔力を放つ姿を見せてくれることだろう。
柄本さんといえば、2020年放送のドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)での胸キュンシーンがドラマファンの女性たちを狙い撃ち、吉高由里子さんとのキスシーンに悶絶する視聴者があとをたたず、『20年冬ドラマ版・胸キュン男子』ランキング(モデルプレス)で3位に選出されたこともある。
映画『春画先生』では、塩田明彦監督から「色男」を命ぜられたが、パブリックイメージも「色気のある男」といえよう。
「いやいやいや、でも……うーん、そうだな……色気の出し方というのはちょっとわからないですし、僕も研究をしないといけないところではあるんですが、ひとつ言えるのは、僕1人でやっていることではないということです。
吉高さんとのドラマのときもそうですし、『春画先生』もそうですし、カメラアングルや照明、衣装、ヘアメイク、そういった方たちが関わり作り上げたものが映し出されているので、“色気がある”と言ってもらえたときは、“こちら側のチームの作りは、間違っていなかったんだな”と、“みんなやったね!”と思っています」
結論を急がないということが大事
ーーチームプレイで色気を作り上げているのですね。
「そう思います」
しかしやはり、柄本さん自身から漂う色気はある。その背景には、独特の余裕がにじむ、心境の変化がありそうだ。
「最近思うのは、結婚して子どももできて、今年で37歳になるという年齢的なこともあるかもしれませんが、“結論を急がない”ということが大事なんだなと思うようになりました。
たとえばダメ出しをもらったときなど、それが“よくなってたね”と言われるのが、70歳を越えたくらいでもいいのかな、という感じです」
ーーゆとりを感じる考え方ですね。
「だって、どうしようもないことは絶対にあって。好きなこともあれば嫌いなこともあるし。出会いもあるし。焦る必要があるときもあるんでしょうけれど、最近の考え方や趣味嗜好は、“待ち”に寄っていますね
一概には言えませんが、時間の流れは変わりましたね。非常にゆったりとした穏やかな気持ちの流れになったという、変化はあるかもしれません。でも、基本的にはそんなに変わらないかな」
行雲流水な精神。それこそが柄本さんの色気の源泉なのかもしれない。
『光る君へ』の役作りでロングヘアに
映画『春画先生』では、プレイボーイぶりに拍車をかける短髪のセンターパートヘアだが、現在の柄本佑さんは、ナチュラルなウェーブが美しいセミロングヘア。NHK大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長を演じるにあたり、伸ばしているという。
「1年以上伸ばしているんです。だから僕、自前でちょんまげ結っているんですよ」
ーー自前で! すごいですね。
「撮影が終わったら切ってしまうんですけどね」
役柄によってまったくことなる姿かたちに変化する柄本さんが、『春画先生』で意識したのは、独特のセリフ回しのとらえかただった。
「僕が演じた辻村という編集者は、セリフ回しも作り上げられたものだったりして。フィクション度の高さが非常にある台本でした」
そんな柄本さんがもっとも印象に残っているというセリフは、内野聖陽さん演じる春画先生のもの。江戸時代中期の画家・円山応挙の「雪松図屏風」を熟視しながら、北香那さん演じるヒロインに、感動含みで解説するというシーンだ。
「“積もり積もった雪と思った雪の白さは、実はただの紙の白さ”という、無から有を生み出すみたいなセリフがあるんですが、あのセリフって非常に実感がこもっていて。あのセリフは誰かの言葉を借りたんじゃなくて、絶対に塩田(明彦)監督の実感であり、発見だと思うんですよね」
一方からの見方だけじゃなく、多面的な見方もある
「その発見ってすごく大きくて。このセリフに、いろんなものの見え方が変わる感覚が集約されている気がするんです」
画面いっぱいに「雪松図屏風」が広がり、すごみすら漂うこのシーンを、「足し算ではなく、引き算によって豊かなものにしている」と表する柄本さんに、「この作品に出演する前後で、なにかご自身に変化はありました?」と聞いた。
すると、そのあとに登場する、喜多川歌麿の男女が接吻を交わしながら体を重ねる春画について言及しながら、教えてくれた。
「この女性のお尻も、肌の色を描かずに紙の色なんです。こんなにお尻の立体感があるのに、何も描いていないなんて、すげえなあっていう。むしろ、描きすぎると平面になってしまうのかもしれない。描かないことで奥行きを出すというのが……そういうことは、いろんなことに通じていると思うんです。
そんなふうに、春画を通して、一方からの見方だけじゃなく、多面的な見方もあるのだな、ということを実感しましたね」
奥深き春画の世界、柄本さんとともに堪能したい。
石倉三郎からの言葉に思わず“かっこよ……!”
ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)から映画『シン・仮面ライダー』まで、2022年から23年末までに映画7本、ドラマ6本に出演するなど、引く手あまたな俳優、柄本佑さん。
その演技が評価され、第40回エランドール賞新人賞を受賞した2016年から遡ること2、3年ほど前のことだった。
「石倉三郎さんと呑み屋で飲んでいたときのことです。うちの父が石倉さんのことが大好きで、非常に仲良くさせてもらっていて。僕もそのとき、石倉さんからいっぱい話を聞いていて」
柄本さんの父といえば、日本を代表する名優のひとりである柄本明さん。
「お酒も進んできたころあいで、石倉さんから“佑が出ている作品を観た”と言われたんです。パパパっと感想を言われて、おそらくそのときの僕があんまりだったんでしょうね。帰りがけにいただいた言葉が、そのときから今まで、ずっと忘れられないんです」
酔いが回ったゆるやかな足取りで出口に向かう石倉さんが、ふと足を止めた。そして、こう言ったという。
「佑、やりすぎずに逃げ道を作ることが、粋だよ」
「そう言って帰られて。“かっこよ……!”と思いました」
3割ぶん、読み手が逃げることができる場所を作ってあげることが、粋だ
ーー去り際に、かっこよすぎますね。
「本人は覚えていらっしゃらないでしょうけどね、僕にはめちゃめちゃ刺さったんです。その真意はおそらく、“3割ぶん、読み手が逃げることができる場所を作ってあげることが、粋だ”ということなんだろうなと、僕はとらえていて」
ーーそのとき、なにか心当たりがあったんでしょうか。
「そうですね、たしかに自分なりにもちょっと思うところがある芝居で、そこをスッと見抜かれた感じだったからこそ、よけいに刺さったんです」
ーーそれ以降、演じ方に変化があったり?
「そういうところがイコールに繋がらないというところもまた、ちょっとおもしろいんですよね。そう簡単には操作をすることができないというか。
やりすぎずに逃げ道を作る……じゃあ、やりすぎるってなんだろう……じゃあ、やるってなんだろう……じゃあ逆に、やらないって……? と、どんどんわからなくなっていくので、そう簡単に変えられるようなものではないですよね」
追求し続けるからこそ、柄本さんは留まらないのだ。
自分を大きく変えた子どもの存在
つねに作品と真摯に向き合う柄本佑さんの「THE CHANGE」は、仕事にかんすることではないかと想像していると、その予想は見事に裏切られた。
「人生が変わった瞬間……やっぱり結婚したときと、子どもが生まれたときですね」
2009年、「第18回あきた十文字映画祭」で出会い、その2年後に映画『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で共演、以降親交を深めていった女優の安藤サクラさんと結婚したのは、2012年3月のこと。
「結婚するまでは、“あれもやりたい”とか“これもやれる”とか、いろんな可能性があるなと思っていたけど、結婚してまず漠然と思ったのは、“自分は、この役者という仕事を一生続けていくんだろうな”ということでした」
ーー結婚がきっかけで、そう思われたんですね。
「そんなに、確固たる決意! みたいなものじゃないですよ。映画を撮りたいとか、そういう夢は叶えるにしても、きっとこの仕事は一生続けていくんだろうな、と」
ーーお子さまが生まれたときに訪れた変化は、どんなものでしたか?
「やっぱり、“自分が一番じゃなくなる”ということですかね。自分が一番じゃないって、すっげえイイんですよ。楽です。娘が1番で、家族が2番で、自分はもう3番目くらいになってくると、それはそれで気持ちよさや明るさがあるというか、人に対しても」
ーー“自分が一番”だと、それによるストレスがかかるということですか?
「わからないですけど、たとえば、“自分が一番”だったときは見られていることばかり気にしちゃって、むしろ無口で憮然としてるみたいな。でもいまは、“俺、こんなにおしゃべりだったの!?”くらいに変わりました」
10代から20代前半の頃なんかもう、ほんとうに現場で一言もしゃべらないし
ーーキャラ変したんですね!
「いやすごかったですよ。僕が10代から20代前半の頃なんかもう、ほんとうに現場で一言もしゃべらないし」
ーーえええ!
「自意識過剰ですよ。それから年齢とともに徐々に変化したこともありますが、やっぱり決定的なのは、娘が生まれたことだったと思います」
『第46回 日本アカデミー賞』授賞式には、夫婦で出席。柄本さんは『ハケンアニメ!』で優秀助演男優賞を、安藤さんは『ある男』で最優秀助演女優賞を受賞した。
安藤さんが受賞スピーチで、声をつまらせ撮影と子育ての両立に対する葛藤を吐露、「今は悩みつつ家族で会議しながら、みんなで協力し合って、また頑張れたらいいな、大好きな現場に戻れたらいいなと思っています」と語りながら柄本さんに笑顔でアイコンタクトを送ると、柄本さんがピースサインを贈るという一幕が映ったことが、話題となった。
ーーあのシーンはたいへん話題になりました。
「ちょっと恥ずかしいですけどね」
ーー恥ずかしいんですね。
「恥ずかしいよ! 恥ずかしい」
ーーまわりの人からも反響はありましたか?
「反響……いや……僕のまわりはそういうのを見ている人があまりいないから、この情報はそんなに届いていないのかもしれないですね」
ーーそうでしたか(笑)。
「まあでも、恥ずかしいは恥ずかしいです」
はにかむ柄本さんからは、隠しきれない人柄のあたたかさがにじんでいた。
■えもと・たすく
1986年12月16日生まれ、東京都出身。オーディションを経て映画『美しい夏キリシマ』(2003年)で主演デビューし、第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。2018年には「素敵なダイナマイトスキャンダル」「きみの鳥はうたえる」などに出演、第73回毎日映画コンクール男優主演賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほかに輝いた。2023年は監督作の短編連作集『ippo』、そして『春画先生』が公開、冬には『花腐し』が控える。