年金月25万円、退職金3,000万円、元エリートサラリーマンだった70歳父…「老人ホーム」で悠々自適も3年後に訪れた大後悔「何かの間違いでは?」

親に万が一のことがあったら……遺族同士で揉めることはよくあること。特に「自宅の取り扱い」が火種になるのはお決まりのパターンです。争族を避けるためにも、親が元気なうちに、自身が元気なうちに、きちんと決めておくことが大切です。また結論を先延ばしにしたことで、想定外に損を被ることも。みていきましょう。

親の万が一に備えて…「終活」「相続」の話、できてる?

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査 報告書』によると、親との同居率は15.6%。年齢別にみていくと、「~20代」では7.9%、「30代」では9.3%、「40代」では14.4%、「50代」では18.4%。そして「60代」では20.5%と、5世帯に1世帯の水準。逆からみれば、8割は親と別居しているということです。

*妻の年齢が70歳未満の世帯について集計

いずれの親とも同居していない場合、どの程度離れてたところに住んでいるのでしょうか。多少の差はあれど、1時間以上離れて暮らしているケースが4割。このなかには、親に会うのは盆と正月くらい……そんな距離感のケースも多いでしょう。

【別居する親との距離感】

●妻の父親

敷地内…3.3%、15分以内…20.4%、30分以内…15.8%、60分以内…18.0%、60分以上…42.5%

●妻の母親

敷地内…3.7%、15分以内…21.7%、30分以内…16.8%、60分以内…17.1%、60分以上…40.7%

●夫の父親

敷地内…6.1%、15分以内…18.5%、30分以内…16.2%、60分以内…16.2%、60分以上…43.1%

●夫の母親

敷地内…6.9%、15分以内…19.8%、30分以内…16.1%、60分以内…14.8%、60分以上…42.3%

親と近くに住んでいても、住んでいなくても、話しづらいのが「親の終活」「相続」のこと。

――もし介護が必要になったら、どうしたい?

――葬儀はどうしてほしい? お墓はどうする?

――実家はどうする?

株式会社NEXERと株式会社ニーズ・プラスが「家や不動産の相続をしたことがある」という男女に行った『相続の際のトラブルに関するアンケート』によると、「相続の際にトラブルになった」のは13.2%。「相続人の同意がなかなか得られなかった(40代・男性)」「思ったより相続税がかかることが分かったから(40代・男性)」「家族の意見が一致しなくてなかなか結論がでなかった(50代・女性)」など、トラブルの内容を聞くだけでも、本当に面倒……そんなトラブルを避けるためにも、「終活」や「相続」の話は、親が元気なうちにしておくほうが懸命です。

父、老人ホームに入居も「自宅は売らずにそのままに」の3年後…

――父から終活について切り出された

そんな投稿をした、50代女性。父は70歳で、2年前に妻(母)を亡くし、実家で1人暮らしを続けていました。母の3回忌で帰省したとき、「いろいろと面倒だから、老人ホームに入ろうと思う」と切り出されたといいます。

仕事一筋だった父にとって、身の回りの家事は大の苦手。妻(母)が亡くなってからは、食事はほぼ外食。掃除や洗濯に悪戦苦闘していることは、遠くに住んでいる女性の耳にも入ってきたといいます。そこで思い立ってのが「老人ホームへの入居」だったのだとか。

介護を必要としない人も入居できるというホームは、食事や掃除・洗濯などの手間は一切なく、介護が必要な人でなければ、外出や外泊も自由。医療・介護施設との連携もあり、万が一のときも安心だといいます。その費用は入居一時金が3,000万円、月額費用は30万円。もちろんそれ以外にもお金は必要……「結構な金額」と感じたといいますが、女性の父親は大企業でそれなりのポジションまでのぼりつめた元エリート。

・入居一時金は退職金がまるまる残っているから、それで払う

・年金は月25万円ほどあるから、毎月10万円くらい貯蓄を取り崩せばいい

・貯蓄を取り崩しても、子どもたちに遺してあげられるくらいの資産はあるから安心してほしい

お金の心配などとりこし苦労だったと女性。次に気になったのは「(父が住む)家はどうするのか?」。父親は、ホームが気に入らないと退去する可能性もあるだろう、とりあえず売らずにそのままにしておきたいと主張。女性は空き家になってしまうことに少々不安を覚えたといいますが、「たまに帰って空気の入れ替えくらいするから安心してほしい」と父親。こうして始まった老人ホームでの暮らしは快適だったらしく、メールで楽しい日々の様子を送ってくれていたのだとか。

実はこれは3年以上も前のこと。最近になって、父親が後悔を口にしているといいます。それは一生、このホームで暮らすと決めて自宅を売却しようとしたときのこと。「もっと早く売っていれば……」と悔やんでも悔やみきれないというのです。

その原因となったのが、「マイホームを売ったときの特例」。マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例で、支払う税金の額を軽減することができます。実はこの特例、自分が住まなくなってから3年以内にしか使えないというルールがあります。結局、税金が高くなり、手元に残る現金が少なくなってしまったわけです。

――いいじゃない、お金の心配なんてないんでしょ

と慰める女性。しかし父親は決断が遅くなり税金が高くなったことよりも、そのような優遇の存在をすっかり忘れていたことにショックを受けているよう。

――昔の自分だったら、こんなことはなかったのに

自身の老いを悔やんでいるようだと女性。ちなみにこの特例、令和5年度税制改正により4年延長され適用期限は令和9年12月31日までとされました。

老人ホームに入居するとき、マイホームを売るかどうかは悩みどころ。売ったほうがいい理由としては、売却費用を入居費用に充てられること、早めに売れば前述のように特例が使えること、特定空き家」とみなされると固定資産税が6倍になること、持ち主が認知症になると売却しづらくなることなどが挙げられます。

一方で、再び住む可能性があるなら、もちろん売らないほうがいいですし、家財道具の整理は結構面倒。売らないというのもひとつの選択肢です。

どちらにせよ、自宅を売るかどうか、親が元気なうちに結論を出しておくと、のちのちに起こる相続で面倒なことに巻き込まれずにすむでしょう。

[参考資料]

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査 報告書』

株式会社NEXER・株式会社ニーズ・プラス『相続の際のトラブルに関するアンケート』

国税庁『No.3302 マイホームを売ったときの特例』

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