【5月6日付編集日記】触れる博物館

 アイマスクをして走る、ブラインドランを体験した美学研究者の伊藤亜紗さんは、初めてのランニングで「パニックに近い恐怖に襲われた」という。周囲が確認できない怖さで足がすくんだ

 ▼視覚障害者のランナーと伴走者は、ロープで作った輪だけでつながる。2人は体が直接触れているわけでないのに、ロープから互いの動作の意図を感じ取りながら長距離を走り抜く

 ▼伊藤さんはパニックの後どうなったか。覚悟を決めて伴走者に身を預けてみると、次第に深い快感に包まれるようになった。ブラインドランは「視覚だけが他者と関係する手段ではないという事実を教えてくれた」という(「手の倫理」講談社)

 ▼会津若松市の県立博物館で、化石や鉱物を手に取ることができる企画展「さわれる けんぱく」が開かれている。同館は設備不具合で、常設展総合展示室の観覧が中止されている。従来の展示が減ってしまうのを補うためのアイデアだ

 ▼ガラスケース越しのイメージがある魚の化石などが、手の届く場所に置いてあるだけでも何だか不思議な感じ。実際に触れてみると、冷たい質感とともに、何とか実りある時間を過ごしてほしいという学芸員らの息遣いが伝わってきた。

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