「傷口から食べ始め内臓が好物」殺人熊がとる異常行動「爪で引き裂き骨を砕く」秋田で見舞金30万円創設”空手キックをお見舞い”

各地で人的被害を出したクマが、捕獲を推進するため、「指定管理鳥獣」に指定される方向が決まった。環境省によると、クマの生息域は四国・九州を除き、全国的に拡大傾向にあり、特に問題となっているのが北海道のヒグマだ。2003年度から2018年度までの間に、ヒグマの分布域は1.3倍に拡大、2020年度の推定個体数は1万1700頭となったという。

元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は「クマとの共生をはかるには、クマと人が適切な距離をおく必要がある」というーー。

近年、日本で、クマによる人身被害が多発している

近年、日本で、クマによる人身被害が多発している。被害の大きい秋田県北秋田市では、クマに襲われるなどして死亡したり負傷したりした場合に、被害者に見舞金を贈る制度を新設という。<見舞金は、市内で被害に遭った市民が対象。死亡した場合は遺族に30万円、負傷者には5万円を一律支給する。ツキノワグマのほか、イノシシとニホンジカによる被害も見舞金の対象にした。/市によると、同様の見舞金制度は、埼玉県神川町や石川県加賀市、新潟県魚沼市などが導入しており、支給額などの参考にした。市の担当者は「市民から見舞金制度を要望する声もあった。人身被害を受けた市民への応急的な支援をしたい」と話す>(朝日新聞、4月27日)

秋田県によると、昨年度の県内のツキノワグマの人身被害は70人に上り、過去最悪だったという。

クマにやられるばかりが日本人というわけでもないようだ。

クマに完勝した男「クマの顔面を右足で前蹴り」

4月25日、名寄市智恵文で、愛知県から北海道観光に来ていた50歳の福田正人さんが「比翼の滝」を見ようと車で林道に1人で入り、午前10時すぎに滝の手前約2キロメートル地点で車から降りたところ、茂みからクマ2頭(体長が1メートル40センチ前後)が現れたという。男性は空手の達人だったようだ。そのうちクマの1頭が向かってきたため、福田さんがクマの顔面を右足で前蹴りしたところ、クマはその場から逃げたのだという。北海道文化放送の取材(4月25日)に対し、福田さんは「草藪から音がしたので、最初はシカだと思ってみたら、クマだったのでびっくりした」「1人だったので、自分で守るしかなかった」「やられるんだったら、やられる前にやろうと」「中段蹴りをしたら、たまたまクマの頭にあたった」「反撃してくると思ったが、逃げていってくれた」「クマは無茶苦茶堅かった。鉄の塊を蹴った感じだった」「結果的には助かってよかった。生きていてよかった」と語っているというから、あっぱれなものだ。

とはいえ、NHKの取材(4月25日)には、「反撃しても2頭とも逃げなければどうしようとかなり恐怖を感じましたが、とにかく助かるために必死で行動しました。けがをせずに助かってほっとしています」というから、クマに完勝したというか、命が助かってよかったというのが実感なのだろう。

爆増するクマ被害「警察も注意を呼びかけ」

北海道では、警察に寄せられたクマに関する通報が、4月は24日の時点で100件を超え、3月の通報件数の2倍以上にのぼっているという。クマの活動が活発になるこれからの季節は通報件数がさらに増えるとみられ、警察が注意を呼びかけているというから、注意をしたほうがいい。

クマは本当に恐ろしい殺人動物だ。

『日本におけるクマによる致死的襲撃の傷害パターン:7症例の検討』(執筆者は大島徹、大谷真紀、美作宗太郎の3氏。秋田大学。2017年。https://cienciacontraocrime.com/wp-content/uploads/2018/05/oshima-et-al-2018-fsi-lesocc83es-provocadas-por-ursos.pdf)は、非常に大きな示唆に富んだ研究論文だ。筆者は、英字版を手に入れた。本論文を読めば、人間が襲われた事件について、医学的見地からクマの怖さがわかる。

この論文は、致命的なクマによる攻撃事例7件における外傷パターンが紹介されている。7件の内訳は、ツキノワグマの攻撃5件とヒグマの攻撃2件だった。

『日本におけるクマによる致死的襲撃の傷害パターン:7症例の検討』

この論文によれば、

<すべてのケースで、2〜5の平行な直線状の裂傷があり、重度の出血と皮膚の剥離が見られ、主に上半身に損傷が集中していました。これらの傷は、初めて遭遇した際に熊が立ち上がり、最初に爪を使って犠牲者の頭部や顔を攻撃するため、致命的であると考えられています。全てのケースで、裂傷はトラペゾイドの頂点に位置し、首、手足、死前の傷の周辺には重度の出血がありませんでした。これらの傷は、熊の4つの大きな犬歯による咬み傷であり、主に捕食の過程で死後に発生したと考えられます。これらの発見は、ライオンやマウンテンライオン、大型犬など他の動物による首周辺の致命的な咬み傷とは異なります>という。

犠牲者の7人は、男性が3人、女性が4人。年齢は61歳から79歳、平均年齢は69.4歳だった。このうち5人は、山でタケノコを採っている最中に、複数のツキノワグマに襲われたものである。一方、動物園の檻から逃げ出した2頭のエゾヒグマに動物園の職員2人が殺された事件もあった。死亡事故は日中に発生している。

クマの攻撃によって、被害者たちは重度の出血と皮膚の剥離を伴う裂傷を受けたが、その傷は、上半身に位置していた。同論文の分析はこうだ。

なぜクマは人間の上半身を攻撃するのか

<加害クマの推定身長と被害者の身長を基に、これらの所見はクマが被害者の頭部や顔を爪で攻撃する際に立っていた可能性が高いことを示唆しています。これらの所見は、ライオン、マウンテンライオン、または大型犬など他の動物による首周りの致命的な咬み傷とは異なります。クマは周囲の動物を探すために本能的に後ろ足で立ち上がります。このため、人を攻撃する際に後ろ足で立ち上がることが説明されています。一般的に、上肢の裂傷は防御的な傷であると疑われ、背中の裂傷は被害者が逃げようとした際に負った傷であると疑われます。上半身の裂傷の分布は、致命的なクマ攻撃に関連する特定の傷害です>

<クマの噛み跡はひどい出血とは関係ない。われわれの症例で観察された咬痕(こうこん。噛みついた傷あと)は、死後の傷害、あるいは興奮期に 生じた傷害であると思われる。咬痕は弱い咬合であることを示し、ライオンやマウンテン・ライオン、大型犬などが頸部に作る咬痕とは異なる。しかし、クマの成獣の顎は非常に強力であることが知られており、偶蹄類(ぐうているい。ウシ、シカ、ブタなどの哺乳類の一種)の骨を砕くことができる。このことは、クマがこれらのケースで強く噛む必要がなかったことを示している。したがって、これらの噛み跡は捕食の過程で生じたものと考えられる。(中略)クマは傷の周囲を食べる傾向がある>

まずはクマの噛みつきよりも、爪による攻撃を警戒した方が良さそう

以前の常識では、クマは爪ではなく口を使って被害者を襲うとしているものがあったようだ。しかし、臨床的に報告された顔面外傷の特徴は、クマの口では説明できないものがあった。そして、本研究で分析された致命的な傷害も、いずれもクマの口によるものではなかった。クマは噛みついて殺すのではなく、爪で人間を殺しにかかってきたわけである。本当に襲われたときは、まずはクマの噛みつきよりも、爪による攻撃を警戒した方が良さそうだ。

<クマはしばしば死体の消化器官の内容物を食べていることが報告されている。このような損傷は、他の動物関連の死亡事故では確認されていない。なぜクマが鼠蹊部(そけいぶ。下腹部の最下部から太ももの上部にかけての領域)を経由して死体の消化器官を食べるのかは不明である。実際、加害者のクマの剖検(ほうけん。解剖のこと)では、あるケースでは被害者の腸がクマの胃の中にあった。これはクマによる攻撃に特有の傷害である>

この医療論文は、高齢者ばかりが被害者となっていて、冒頭にあげた空手の話もあって、若者は襲われないと勘違いしてはいけないので、最後に、海外の話ではあるが、警告も含めて、紹介しておきたい。

10歳の少女と49歳の女性を含む計5人が襲われた

英メディア「MailOnline」(3月19日)にクマ襲撃事件が詳細に報道されている。

スロバキアのプトフスキー・ミクラスの町で、町民が相次いで熊に襲われた最新の犠牲者となったことを受け、町は非常事態宣言を発令した。10歳の少女と49歳の女性を含む計5人が襲われた。かすり傷と打撲を負い、バギーで子供を押していた夫婦は「無傷で済んだのは幸運だった」と話した。クマは町の中心部で20分ほど過ごし、5人を襲った後に森の中に逃げていった。スロバキアではこの事件の前日にもヒグマに襲われ死亡したばかり(転落死したのか、轢き殺されたのは不明)だった。スロバキアも日本同様に、大規模なクマの射殺は認められていない。つまり、クマと出合わないように注意深く行動するのが大事だということだ。

今回紹介した空手家がクマを撃退したNHKニュースの中で、<道警本部地域企画課の担当者は「山や海に行くときは鈴などの音の鳴るものを身につけ、クマよけのスプレーを携行するなどの十分な対策をとってほしい」>と注意喚起を促している。

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