ボルボのバッテリEV「EX30」、日本に合わせたボディサイズの乗り味とは

by 山田弘樹, Photo:堤晋一

ボルボの新型バッテリEVモデル「EX30」を試乗する機会を得た

ボルボで最もコンパクトなピュアEVである「EX30」。その1モーター・RWD仕様となる「Ultra Single Motor Extended Range(ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ)」に試乗した。

カテゴリーとしては、BセグメントのコンパクトSUV。そのスリーサイズは4235×1835×1550mm(全長×全幅×全高)と、日本で扱えるジャストサイズに収まっている。特に全幅と全高は100%日本サイドの要望で、タワーパーキングに入るサイズとしてこれを死守したのだという。

全体的にはトヨタ ヤリスクロスよりもひとまわり大きいサイズ感であり、それがデザインの伸びやかさや見た目の迫力と、「Cセグメントまでは要らないのだけど……」というニーズを、うまくバランスさせている。

ボディサイズは4235×1835×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mm、最低地上高は175mm、車両重量1790kg、最小回転半径は5.4m
試乗車のボディカラーは「モスイエロー」で、そのほかに「ヴェイパーグレー」「オニキスブラック」「クリスタルホワイト」「クラウドブルー」の全5色を設定。オニキスブラック・デュアルトーンルーフが標準装備となり2トーンカラーになる
低く抑えたフロントエンドに、グリルレスのエアロフロントデザインを採用したエアロダイナミックデザインによりCd(空気抵抗)値は0.28を実現。また、ワイドフェンダーと大径ホイールに加え、ボディ下部には3Dリブデザインを採用

そんなEX30のグレード体系は、最上級仕様の「ウルトラ(Ultra)」、中間仕様の「プラス(Plus)」、ベーシックモデルの「コア(Core)」という3段構成。そのなかで「ウルトラ」を真っ先に導入したのは、日本のボルボユーザーの7割以上が最上級仕様を選ぶ傾向があるからであり、バッテリもロングレンジの68KWhを選んでいる。そして後輪駆動となることから、その車名が「ウルトラ シングルモーター エクステッドレンジ」となるわけだ。

試乗車はオプション設定の「5スポーク・エアロアルミホイール」(8.0J×20インチ・カラーはダイヤモンドカット/ブラック)を装着。タイヤはグッドイヤーのエフィシェントグリップで、サイズは前後とも245/40R20(標準装着タイヤは245/45R19)
フロントのロゴ下部にカメラを内蔵
ドアミラーはすっきりとした「フレームレス」タイプを採用。また、フロントドアの下の地面を照らす「グランドライト」も内蔵しているほか、運転席側は自動防眩機能も備えている

ちなみにその土台となるのはバッテリEV専用の「SEA(Sustainable Experience Architecture)プラットフォーム」であり、一充電あたりの走行距離は560km。リアに搭載するERAD(エレクトリカル・リア・アクスル・ドライブ)は、電動モーターとIEM(インバータ・ERAD・モジュール)、ギヤボックス(レデューサー)が一体になったもの。モーターの最大回転数は1万6500rpmを誇り、最高出力は200kW(272PS)/6500-8000rpm、最大トルク343Nm/5345rpmを発生する。

また本国には前後に1基ずつモーターを搭載した4WDのハイパワーモデルと、51kWhのシングルモーターモデルが存在する。

搭載するリチウムイオンバッテリは、3個のバッテリモジュールを直列に接続したもので、トータル電圧は393V。蓄積エネルギーは69kWhで重量は390kg。旧タイプは同エネルギー量で重量が450kgだったので、バッテリ自体も進化している。

新しくセグメントデザインを採用した「トールハンマーLEDライト」を採用
テールランプはフルLED。ブランドアイデンティティである「C型グラフィック」と「縦型ランプ」のコンビネーション

最新のボルボは、その始動方法が極めてシンプルだ。

既出のプラグインハイブリッドモデルと同じくカードキーを持っていれば、スタートボタンを押す必要はない。というより、スタートボタンがない。

シートとミラーを合わせ、ベルトを締めてブレーキを踏む。脱線するけれどこのミラーが、フレームレスになっているのもかなりスタイリッシュだ。

このときすでに車両のスタンバイは完了しており、ステアリングコラムの右側に付いたシンプルなシフトレバーをDレンジに入れるだけで、EX30はスーッと走り出す。

EX30のインテリア。デコラティブ・パネルの約30%は再生プラスチックを原材料にしていて、トップレイヤーにはリサイクル素材や再生可能な素材を使用している
スクエア形状のテイラード・シルクメタル・スポーツステアリングホイールを採用。コラムの上にはドライバーの疲労を検知する「ドライバー・アラート・コントロール」を搭載していて、1分間に320フレーム以上目を閉じるなど異常を検知すると警告してくれる
12.3インチのタッチスクリーン式縦型モニターを中央にレイアウト。ドライバーの目線に近い上側のほうにスピードやシフトなどを表示する
パノラマ・ガラスルーフを標準装備

その出足はモーターならではのスムーズさだから、一連のつながりはとても自然。最初はかなり戸惑うけれど、この時短っぷりは今後のスタンダードになるのかもしれない。

走り出してまず目に入るのは、スクエア形状のステアリングと簡素なインテリア。インパネにメーターはなく、その情報は中央の12.3インチのモニターに集約される。

それでもテスラのようなさみしさを感じないのは、縦型配置されるエアコンのルーバーと、二段構えのダッシュボードで立体的にデザインされているからだろう。ボルボが打ち出すスカンジナビアンデザインは、シンプルだが人に優しい感じがする。

前席はシートヒーター内蔵
後席
ラゲッジスペースの容量は318L
下にも61Lのスペースを確保している
後席は6:4分割可倒式
後席をすべて倒せばフラットで奥行き1.47mの広大なスペースを利用できる

ちなみに試乗車のダッシュボードとドアパネルには、ボディカラー(モスイエロー:北欧に生える鮮やかな黄色い苔)との関係で亜麻織物の表地が使われていた。EX30は環境負荷の低減や動物福祉の観点からインテリアに本革を使用せず、バイオベース素材やリサイクルから生まれた「ノルディコ」を採用している。

また車体に使われるアルミニウムの約25%、スチールとプラスチックの17%はリサイクル素材であり、EX30はボルボ史上最もカーボンフットプリントの少ないクルマとなった。それならちょっとプラスチック感のあるインテリアも、許せる感じがする。

ウール30%とリサイクル・ポリエステル70%を使用したテイラード・ウールブレンドの材質見本(左)と、一年草の亜麻を原材料としたフラックスデコの材質見本(右)
フロアマットは廃棄された漁網から再生された素材を再利用している

肝心な走りは、今回街中のみでの試乗となったが、第一印象としてはとてもよかった。

試乗車はオプションの20インチタイヤを装着していたが、乗り心地は快適だ。サスペンションはしっかり目だがダンピング性能もよく、入力の角をきちんと丸めていて、バネ下でタイヤがドタバタすることもない。

速度感応式の電動パワステは街中での操作感が軽めで、やや唐突に20インチタイヤのアジリティを引き出してしまうところもあるが、総じてそのハンドリングは気持ちよくオンザレール。速度が上がるほどに操舵感は確かさを増すし、前述した足まわりがボディをきちんと支えて、カーブでもロールがとても少ない。

343Nmの最大トルクを発揮するモーターは、パワフルというよりはリニアで軽やか。必要なときに必要な力を発揮して、スマートにEX30を走らせてくれるという印象だ。ちなみにその0-100km/h加速は5.3秒である。

ボディの剛性感はとても高く、ステアリング特性も素直だ

また回生ブレーキのスイッチを入れると、リア駆動にもかかわらず結構強めな制動Gを出す。下り坂やスリッパリーな路面では制御が働くはずだが、要するに高速巡航や上り坂では後輪駆動で電費を節約。街中では積極的に電気を回生しながら、かつワンペダルドライブも可能にするという考えだろう。

ちなみにアクセルを全閉にしたままだと完全停止までするから、停車時はきちっとフットブレーキを踏むべし。対して通常時は、アクセルを閉じてもクリープ走行する。パーキング時にはこのほうが便利だ。

純粋な走りに対しては、街中だと特別リア駆動の特徴を強く感じることはなかった。ボディの剛性感はとても高く、ステア特性も素直。複雑なことを考えずナチュラルに気持ちいい走りが得られるのはいかにもボルボらしい。

ただし車両情報、特に速度が中央モニターに表示されることには違和感がある。数字は大きめで、真っ直ぐを向いていても視野に入ることは確かだが、速度だけは目線移動が少ないところで、確実にとらえられる方がいい。

パワフルというよりはリニアで軽やかな走り

リアの居住性は、シートの形状がちょっと惜しいと感じた。

ヘッドクリアランスやニークリアランスはきちんと取られている。シートも肉厚でしっかりしているのだが、その分着座姿勢が直立気味になり、大人が長時間座るにはやや窮屈かもしれない。

マルチリンクサスの乗り心地はとてもいい。ただコーナーではロールが少なく横Gがちょっと強めに掛かるから、子供が乗るとしても体が支えにくいだろう。

もう少しだけ背中と座面をえぐってホールド性を高めながら、着座姿勢が改善できたら、コンパクトなボディでも居住性がバランスできると思う。

ボルボらしいナチュラルで気持ちいい走りを実現している

ふたりで楽しむクルマとして考えれば十分荷物は積めるし、エマージェンシー用シートとしては十分以上。ちなみにラゲッジスペースの容量は318Lと一見小さいが、下には61Lのスペースが別途あるほか、6:4の分割可倒式シートを倒せば、その容量はさらに広がる。

細かい部分を指摘はしたが、ファーストコンタクトはかなりの好印象。今回はロングドライブでの電費やドライバビリティを確認できなかったが、シティコミューターとしては、そのデザインや559万円という価格も含めてとても魅力的なピュアEVだと思えた。

機会があればぜひ1度試乗してみていただきたい

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