「借りる人がいないから空き家になっている」は勘違い!昭和の実家は高く貸せる

(画像はイメージです/PIXTA)

不動産投資家で空き家再生コンサルタントの吉原泰典氏によると、昭和の実家でも高く人に貸せるそうです。一体、なぜなのでしょうか? ご紹介していきます。※本連載は、吉原泰典氏による著書『「空いた実家」は、そのまま貸しなさい』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「借りる人がいないから空き家になっているんだ」というのは大きな勘違い

私が提唱している「誰も住まなくなった実家の再生」では、昭和の木造戸建てをきれいに片付け、そのまま貸すということを基本とします。ところがこれまでこうしたやり方は、所有者はもちろん不動産業界でもほとんど知られていませんでした。

理由の一つは、都市部でも地方でも空き家の戸建てがたくさんあるのを見て「借りる人がいないから空き家になっているんだ」と思い込んでいることではないでしょうか。

しかし、実際は逆です。戸建ての賃貸住宅を借りたい人はたくさんいるのに、屋内に遺品や家財が大量に置いてあり、貸そうにも貸せないのです。あるいは、所有者が貸せないと思い込んで手をつけていないだけなのです。そうしたケースが大部分ではないかと私は見ています。

ある意味、賃貸住宅市場において戸建て賃貸物件の需要と供給とがマッチしていないのであり、しかもそのことに多くの人が気づいていないのです。

日本の賃貸市場で戸建ては希少

日本の賃貸市場ではアパートや賃貸マンションといった集合住宅が大部分を占めています。戸建ての賃貸物件は都市部でも地方でもほとんど見かけません。なぜ戸建ての賃貸物件が少ないのかというと、そこには構造的な理由がいくつかあります。

第一に、貸家経営をしようと思っている投資家からすると、戸建てはそもそも投資効率が悪いのです。

一つの土地に戸建てを一棟建てて貸せるのは一人(一家族)だけです。アパートやマンションなら同じ敷地に何室もある建物が建てられ、一室当たりの家賃は少なくても全体として見れば収入は大きくなります。

また、複数の部屋があれば一度に全部、空室になる可能性は低く、空室リスクが分散されます。それに比べると戸建ては入居者が退去すると家賃収入はゼロになってしまいます。

第二に、マイホームとして戸建てを建てた人は基本的に第三者に貸したがりません。なぜなら、住宅の賃貸借には借地借家法という法律が適用され、借りるほうの権利がかなり強く守られているからです(現在は定期借家という選択肢もあります)。

簡単にいうと、賃貸借契約が2年だったとしても、貸主(大家)の側にその家を必要とする相当の理由がないと契約更新を拒むことができません。一度貸すと、借りたほうが退去すると言わない限り、貸した家は戻ってこないのです。

さらに第三の理由として、管理会社からは戸建ては戸数の多いアパート一棟、マンション一棟と比べて手間の割に儲けが少ないとみなされていて、戸建てオーナーに貸し出しを勧めてこなかったことも挙げられます。

集合住宅から戸建てへ移りたいという人は多い

一方、借りる側の事情はどうでしょうか。賃貸住宅に住もうと考える人の多くは、まずはアパートや賃貸マンションを探します。戸建てより物件数が圧倒的に多く、立地にしろ広さや間取りにしろ、賃料にしろ選択肢が多いからです。

特に単身者にとっては、多少狭くても便利な立地で家賃がそこそこ手頃なアパートや賃貸マンションは魅力的です。

しかし、アパートや賃貸マンションのような集合住宅では一つの建物(棟)に複数の住戸があり、それぞれ床や天井、壁で上下左右と接しています。そのため騒音の問題が起こりやすく、またゴミ出しやペット、洗濯物の干し方などいろいろルールがあります。

さらに、新築になるとどうしても狭かったり、駅から遠かったり、賃料も割高です。

こうしたことから、アパートや賃貸マンションといった集合住宅にある程度、長く住んでいる人の中には、例えば子どもが生まれたり、ペットを飼おうと思ったりしたタイミングで戸建ての賃貸物件があれば移りたいというニーズがあります。

戸建てなら基本的に家族だけが住んでいるので上下階や隣の部屋との間で騒音の問題はほとんどありません。ペットを飼うことも大家が認めれば問題ありません。

多少、築年数が古く設備が最新式でないとしても、戸建てにはそうした魅力があります。昭和の木造戸建てであっても潜在的な借り手はかなりいるということです。

ちなみに岡山市内にある私の実家も昭和の木造戸建てです。築70年以上経ちますが、家の中をきれいに片付けて賃貸募集したら3週間ほどでちゃんと借り手がつきました。いまは月額8万円で貸しています。

最新の設備は必要ない

なお、昭和の木造戸建てについては、「内装や設備が古くさくて敬遠されるのではないか」という質問を受けることがあります。

そういう人ほど、壁のクロスや床のフローリングを張り替えるのはもちろん、台所にはシステムキッチン、トイレには温水洗浄便座、お風呂には追いだき機能などがないと、まともな賃料では貸せないと思っていたりします。

確かに、業界紙などでは「入居者に人気の設備」といったランキングが発表されており、「こういった設備がないと、まともな賃料はとれないのではないか」と考えるのもわかりますが、決してそんなことはありません。

[図表1]入居者に人気の設備(絶対条件となる設備TOP10) ※「入居者に人気の設備ランキング2023」(賃貸住宅新聞)より

賃貸住宅を借りる人は、様々な条件のバランスで物件を選びます。様々な条件の中で最優先は賃料です。「このくらいの家賃で」というのが真っ先にきて、その次に立地(沿線や駅からの距離)、広さ、間取り、築年数、内装、設備などとのバランスを検討します。

内装や設備はあくまで検討条件の一つであり、優先順位も賃料はもちろん、立地や広さに比べると後になります。極端な話、「広さや間取りが同じで家賃が他より2万円安ければ、内装や設備にはこだわらない」という入居者はいくらでもいます。

もちろん、水道やガス、電気などが通っていて、普通の生活が送れる状態であることは最低限必要ですが、そもそもローンのない実家を貸し出す際、家賃を低めに設定すれば入居者獲得には非常に有利です。

都市部と比べて賃料もそれほど低くはない

もう一つ、よく聞かれるのは「地方ではそれほど賃料はとれないでしょう」ということです。確かに、都市部と地方では賃料の相場に開きがあります。とはいえ、賃貸市場の面白いところは、売買市場に比べるとエリアによる金額の差が小さいことです。

売買市場において、例えば東京都心部では最近、中古マンションの平均取引価格が1億円を超えて話題になっています。一方、地方であれば中古マンションは1000万円以下で買えたりします。

これに対し、賃貸住宅の家賃については、広さや間取りがほぼ同じであれば都市部と地方での相場の開きはせいぜい3~4倍といったところではないでしょうか。

どんな田舎でも戸建てを借りるとなれば4~5万円程度はするはずです。1万円とか2万円といったレベルにまで下がっていることはまずないと思います。

吉原泰典
不動産投資家・空き家再生コンサルタント

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