編集未経験で『神血の救世主』がいきなり大ヒット ナンバーナイン・遠藤寛之氏に聞く、webtoonの編集術

■記録的ヒット、なぜ生まれた?

電子コミックサービス「LINEマンガ」において、先行配信中のwebtoon作品『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』(以下『神血』)が、2024年1月の月間販売金額が1.2億円を突破した。『神血』は株式会社ナンバーナインの気鋭の制作スタジオ「Studio No.9」で企画したwebtoon第1弾。2022年9月より連載を開始し、2024年4月25日時点でLINEマンガ他ストアの国内累計合算閲覧数が1億ビューを突破している人気作品である。

「LINEマンガ」のオリジナルwebtoon作品の中でも月間販売金額が1億円を超える国産webtoon作品はこれまでにない偉業であり、『神血』の人気の高さがうかがえる結果となった。原作とネームを担当する江藤俊司氏とともに本作を企画。編集未経験でナンバーナインに入社。いきなりヒット作を手掛けるキーパーソンとなった編集者・遠藤寛之氏に聞く、作品への想い。

――『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』のヒット、おめでとうございます。2022年に江藤先生と企画を立ち上げたときは、これほどのヒットは予測していましたか。

遠藤:最初は、売上の目標に届かず、すぐに打ち切られてしまうのではないかとすごく心配していました。実際、初月の売上は今の数十分の一くらいでしたし、1億円なんて遥か彼方の目標でした。今ではこれだけすごい成果を出せていることを嬉しく思っています。

――ヒットしてから、物語の作り方にも変化があったのではないですか。

遠藤:そうですね。はじめは最短で25話で終わる可能性がありましたが、初日の時点で当初見込んでいた売上を超え、社長の小林からも「遠藤、50話以上創ろう!」と言われて焦りました。話をもっと広げていかなければいけなくなったので。

――いきなり話数が倍以上に!

遠藤:はい、すぐに江藤さんと話し合いました。長期連載にしていくためにはキャラが愛されていく必要があると考え、予定していなかった個別のキャラのエピソード回を追加していきました。結果、『神血』読者の方からもキャラが魅力的と言って頂けることが増えましたし、キャラのファンになって下さる方もどんどん増え、長期連載に耐えられる体制が整ったと思います。

■日本的なwebtoonを制作できた要因

――今、遠藤さんがおっしゃったようなキャラの深掘りは、日本のマンガらしい描き方ですよね。

遠藤:日本らしさを狙ったというよりは、江藤さんとして長期連載に耐えうる作品にする方法を考えた結果だと思います。僕も、主人公一本軸だけではじきに読者の方に飽きられてしまうのではないかと心配していましたし、英断だったと感じます。それに、江藤さんと『神血』を作らせて頂くとき、江藤さんは作品を通して仲間の絆を描くのがとても上手な作家さんだと思っていたので、そういった強みを活かして下さり嬉しかったです。

――サブキャラも魅力的だとストーリーに厚みが出ますし、それぞれのキャラのファンも増えて感情移入もしやすくなります。

遠藤:僕は、キャラ、ドラマ、サービスの3つがしっかり入っているかどうかが、マンガには重要だと思っています。webtoonの人気作は、読者サービスをすごく意識している作品も多いですが、それだけでは仮に20~30話くらいまで人気があったとしても、50話以上連載した場合に人気を維持するのがむずかしくなってくると思いました。主人公の行動理念や物語の軸なども江藤さんと検証し、物語を広げていきました。

――人気があると、手ごたえが感じられたのはいつでしょうか。

遠藤:去年の7月頃ですかね。SNSでエゴサをしていると、『神血』のことをつぶやいて下さる方が増えてきている実感があり、ファンアカウントを作って下さる方が出てきたり、ファンアートの数も増えてきたんです。そのあたりから、江藤さんと「俺たちのマンガ、人気が出てきたかも」と話すようになりました。

――たくさんの人に読んでもらうために、広告も工夫されたそうですね。

遠藤:Twitter(現X)に、1話をまるまる無料公開する広告を打ったところ目に見えて効果が高く、月間の売上が前月の4倍くらいまで一気に跳ね上がったんです。それまで10ヶ月くらいほぼ横ばいだったので、このままだったらどうしようと思っていた矢先で、本当に驚きました。その後「LINEマンガ」さんが全話無料公開を提案して下さり、翌月はさらに倍の売上を達成することが出来ました。今までの俺たちは一体何をやってきたんだろうと思うほど、効果が大きかったです。

■実は編集の手法も王道

――編集者の立場から見た、『神血』の面白さはどこにありますか。

遠藤:マーケットインで流行りの要素を取り入れてもいますが、やはり物語が面白いし、キャラが魅力的であることだと思います。マンガはどれだけマーケットインで作っても、作品自体が魅力的でないと絶対に売れないと思います。

――遠藤さんと江藤先生の信頼関係もヒットの要因ではないでしょうか。

遠藤:読んでもらえたらきっと魅力的なマンガと思ってもらえるはず、という気持ちは共有しながら作ってきたと思います。江藤さんの作品に懸ける情熱に応えるために、僕が出来ることとして、名刺代わりに、会う方会う方に『神血』の作品紹介カードを渡すようにしています。とにかく一人でも多くの方に読んでもらいたいと言う一心ですね。あと、僕個人のXアカウントは、実質作品の宣伝アカウントのようになっています。そういう飢餓感は他の人に負けないと思っています。

――素晴らしいですね。

遠藤:あと、作品の質は絶対に落とさない、毎回全力でやるという目標は掲げています。こんなに描いたら次のネタがなくなるんじゃない、と心配されてもおかしくないくらい、読み味を薄めないように努力してきました。他のマンガと比較しても1.5倍くらいのスピード感を意識しています。

――遠藤さんは、ネームの修正指示などはどのように出すのでしょうか。

遠藤:江藤さんは、「気になることは些細なことでも言ってほしい」と言って下さるので、その通りに直すかどうかは別としても、文字数とか、口角の上がり方とか、顔に汗を入れるのかとか、ギャグの言い回しまで、かなり細かく話します。こういった打ち合わせの中で、江藤さんとの信頼関係を築けてきたのかなと思っています。

■国産webtoonへの思い

――遠藤さんは、webtoonの未来をどのように考えていますか。

遠藤:webtoonには大きな可能性を感じています。マンガの市場として、横読みとは異なる新しいステージができたと思っています。当社が今から横読みのマンガを作って、大手出版社と並び立つのは相当ハードルが高いと思いますが、新しい市場なら同じスタートラインで勝負が出来るのではないかと考えました。現在、韓国の作品がwebtoon市場では人気ですが、今まで、国産で肩を並べる作品がなかなかありませんでした。もしかすると、自分たちがそういった作品を創れるかもしれない、と思えるような魅力が今のwebtoon市場にはあります。

――江藤先生もおっしゃっていましたが、webtoonは表現の仕方も進化の途中で、新たな表現が生まれていく可能性を持っています。

遠藤:横と縦では視線誘導にかなり違いがあります。江藤さんとは、画面を10分割した時にどれくらいの間をあければテンポよく読めるのかとか、webtoon特有のリズム感は常に研究しています。webtoonの読者の方は画面の中央を見ながらスクロールするので、画面の端には重要な情報が寄らないようにしようだったり、吹き出しを上下に配置するのに対して、吹き出しを左右に配置すると読むスピードが遅くなるので、演出に合わせて使い分けましょうなど。毎日のように試行錯誤しています。

――『神血』も盛り上がっていますし、他にも担当されている作品も多いと思いますが、遠藤さんは今後どんなマンガを作っていきたいと考えていますか。

遠藤:編集者はプロフェッショナルとして、安定して結果を出していく必要があると思うんです。そのためには、自分の感情で「面白い」とか「好き」とは言わないようにして、あくまでもターゲットとなる読者のことを考えた作品作りを心掛けていきたいなと思っています。より市場に受け入れられるような作品作りをするためには、読者の方のコメントも参考にして日々研究を欠かさないようにしています。そして、『神血』にはもっと売れて欲しいし、何よりもっと広がってほしいです。このインタビューで『神血』を知って下さった方にもぜひ読んでいただきたいですし、みんなにおすすめしてくれたらもっと嬉しいです。

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