撮影目的に合ったフィルムの選び方[ヴィンテージカメラの楽しみ方] Vol.06

モノクロ、カラーの違いだけでなく、写真撮影用フィルムには、様々な製品が存在する。フィルム全盛時代に比べると選択肢は狭くなったが、撮影目的に合ったフィルムを選ぶことが大切だ。

モノクロ写真とは、被写体の持つ色彩を白→灰色→黒へとなだらかに変化する階調に置き換えて記録する写真の表現手段のこと。フランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが、フランス科学アカデミーで写真術を発表したのは1839年だが、この時代から連綿と続く写真の王道とも言うべき表現方法だ。色彩を省いたモノトーンの階調が醸し出す静謐な雰囲気に加え、脳内でモノクロ画像をカラーに変換するプロセスが味わえるなど、カラー写真では決して得られない数々の魅力を備えている。

被写体の色が忠実に再現されるカラーフィルムが発売されたのは1935年。コダックが16mm映画用に発売したコダクロームが最初の製品で、現像するとフィルム上にポジ画像(陽画)が現れるリバーサルタイプだった。そして翌年にスチルカメラ用フィルムが登場。これを機に、自分で撮ったカラー写真をスライドプロジェクターで大きなスクリーンに映して楽しむ文化が誕生する。さらに同年にはドイツのアグファが明暗の反転したネガからプリントを得るネガポジ方を発表。1942年にコダックがこれを商品化し、コダカラーカラーロールフィルムとして発売した。

なおコダクロームの登場以前、RGB3色のフィルターを使って3枚のモノクロ写真を撮影。ここからカラー画像を得る三色分解法やジャガイモのデンプンを用いたオートクロームなども存在したが、撮影後の処理が複雑だったので、それほど普及しなかった。誰もが簡単にカラー写真が楽しめるようになったという意味でコダクロームが果たした役割は大きく、コダクロームなしで現在のカラー写真の興隆は語ることはできないだろう。

モノクロプリント(左)とカラープリント(右)※画像をクリックして拡大

写真が写る原理について

フィルムには乳剤と呼ばれる、「光が当たると化学変化を起こす薬品」が塗られている。詳しい説明は省くが、乳剤には光が当たると潜像と呼ばれる肉眼では見えない画像が形成される。潜像を目に見えるようにするには現像というプロセスが必要で、たとえばモノクロフィルムの場合、現像、停止、定着、水洗という処理を経て、明暗の反転したネガが完成する。

フィルムに光を当てることを感光あるいは露光と呼ぶが、感光や露光によって乳剤上に形成された潜像は二度と元に戻らない。さらに強い光が当たると像が上塗りされてしまうので、乳剤は完全暗黒の工場でフィルムに塗布されてから撮影するまでの間はもとより、撮影により潜像ができ現像処理が終わるまで、光を当てることは一切許されない。

モノクロ、カラーの両方に共通する特徴

フィルム感度

フィルムの感度はISOという単位で表される。感度を簡単に説明すると、「光に対する感じやすさ」。数字が大きいほど光に敏感に反応し小さいと鈍くなる。つまり感度の高いフィルムは光量が少なくてもフィルム上に適度な明るさの像が写るのに対し、感度の低いフィルムは、より多くの光を当てないと露出不足になってしまう。

詳しく説明すると、ISOの数字が2倍になるとフィルムの感度は2倍になる。たとえばISO100とISO200のフィルムを比べた場合、ISO200のフィルムはISO100の1/2の光量で画像の濃度が同じになる。具体的にはシャッタースピードを1段遅く、あるいは絞りを一絞り開くと同じ明るさの写真が撮れる。またISO100とISO400を比べた場合は、2×2=4で感度は4倍に。シャッタースピードで2段、または絞りだと2絞り分、少ない光量で済む。

高感度フィルムの最大の利点は、より速いシャッタースピードが切れること。特に暗いシーンで手持ち撮影をしたり、開放F値が暗い望遠レンズやズームレンズを使う際に手ぶれ防止効果が期待できる。ただし明るい条件で絞りを開いて被写界深度を浅くしたいときなどは、シャッタースピードを最高速にしても露出オーバーになる可能性があり、特に大口径レンズを使うときは、注意が必要だ。

このほかフィルム感度が高いと像を作る粒子が大きくなるのでプリントした写真はざらついた印象になり、ドキュメンタリー風のドラマチックな表現ができる。これに対し感度が低いと粒子が細かくなるので、なめらかな質感のプリントが得られる。

昔から常用フィルムとして親しまれてきたのがISO100のフィルム。店頭でいちばん多く見かけるのがこのタイプだ。ISO100は、いわば中庸感度。日中の屋外なら天候に関係なく手ぶれの心配がない高速シャッターが切れるうえ、極端に暗い条件でない限り室内でも補助光なしで撮影できる。

ISO100のフィルムが市場で幅を利かせている理由として粒子の細かさを上げる人も多い。ISO400のカラーネガフィルムが発売されたのは1976年。富士フイルムが発売したフジカラーF-II400が最初の製品だが、それまでのISO100に比べると、粒子の粗さが目立つ欠点があった。実はこのとき付いた悪いイメージが未だに尾を引いているらしい。

だが、現行のISO400のフィルムは、色再現性、粒状性・シャープネスなどが大幅に向上した新タイプ。ISO100に優るとも劣らない性能を備えている。

135フィルムには、カラー/モノクロ、感度の違いなど、様々な製品が用意されている(写真には製造中止品を含む)※画像をクリックして拡大

フィルム全盛期にはカラーネガフィルムだけでも、ISO50クラスの低感度からISO1600クラスの超高感度まで、幅広い感度のフィルムが用意されていた。だが最初に説明した通り、現在発売されているフィルムの種類はとても少なく、フィルム最大手の富士フイルムでさえ、ISO100とISO400の2種類しかラインアップしていない。

カラーネガフィルムには、二者択一の道しか残されていないが、ISO100とISO400の使い分けについて説明しよう。

ズーム内蔵の全自動カメラで撮るなら、ISO400を選ぶべきだ。このタイプのカメラが搭載するズームレンズは開放F値が暗く望遠側でF10を越えるカメラが珍しくない。さらに望遠撮影時は手ぶれが起きやすいので、高感度フィルムを使えばより速いシャッタースピードが切れ、手ぶれによる失敗が抑えられる。さらに内蔵ストロボの光が届く距離も、ISO100のときの2倍になるメリットがある。

ズーム式全自動カメラが搭載するレンズの開放F値は暗いので、ISO400クラスの高感度フィルムがお勧め※画像をクリックして拡大

レンズ交換式一眼レフでも、開放F値が暗めのズームレンズを常用するなら手ぶれ防止という意味でISO400がお勧め。同じシャッタースピードでも、より絞りが絞れるので被写界深度が深くなりピンボケも防げる。またMF機に広角レンズを組み合わせてスナップ撮影をする際、絞りを絞ればより深い被写界深度を得ることが可能。たとえば28mmレンズの場合、ピントリングを3mに固定し絞りをF8にセットすれば、約1.5mから∞遠が被写界深度に収まってしまう。そのためピント合わせの煩わしさから解放され、シャッターチャンスに専念できる。

大口径レンズを使って、被写界深度の浅い表現をするなら、ISO100のフィルムを選ぶと良いだろう。すでに説明した通り、明るい条件で撮影する場合、ISO感度が低いと露出オーバーにならずに済む。ISO400でも光量を抑えるNDフィルターを使う手もあるが、一眼レフの場合ファインダーが暗くなるのでピントが合わせにくくなる。そればかりか、フィルターの着脱も意外と面倒だ。

大口径レンズならではの浅い被写界深度を活かした撮影には、ISO100クラスのフィルムを選ぶと良いだろう※画像をクリックして拡大

カラーフィルムの種類について

上から、カラーネガフィルム、カラーリバーサルフィルム、モノクロフィルム※画像をクリックして拡大

カラーネガフィルム

カラーフィルムは、カラープリントを目的としたカラーネガフィルムと、主にプロジェクターで大きなスクリーンに投影して楽しむリバーサルフィルムの2種類に分けられる。

一番多く使われるのはカラーネガフィルムで、現像するとオレンジ色のネガが得られ、これを引伸してプリントする。

カラーネガフィルムは、露出に対する寛容度(ラチチュード)が広く、多少の露出オーバー/アンダーでも、きれいなプリントが得られる特徴がある。特に露出オーバーに強く、「露出に迷ったらオーバーにしろ」と言われるくらいだ。またプリント時に色味の調整ができるので、光源の色温度に対するフレキシビリティも高い。

ネガカラーフィルムは、現像に出すとネガと共にそのネガから焼いたプリント(紙焼き)が戻って来るのが基本だが、最近ではネガをスキャンしたデータをCDに焼いたり専用サーバーにアップロードするサービスが普及している。SNSに画像をアップしたり、データを友人と共有するには便利なサービスだが、ネガから焼いたプリントに比べるとクオリティが劣り、フィルムの持つ実力を100%引き出すには力不足。なかにはスマホで撮影したネガを反転して、それで満足している人も見かけるが、せっかくフィルムを使って写真を撮るのなら、デジタルに頼らない方法にこだわりたい。

フィルム最盛期には店内にミニラボを備え、その場で現像プリントをする店が主流だった。だがフィルムユーザーが激減した結果、最近では、現像、プリント処理を外注する店が急増。なかにはネガの返却を希望すると手数料を請求する店もある。また画像データはネットからダウンロードできるので、ネガ返却が無料でも、店にネガを引き取りに行かないユーザーが増え、引き取り手のないネガの処理に困っている店も多いという。時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、フィルムで楽しむ写真は撮影からプリントまで、アナログで処理してこそのもの。わざわざ高いお金をかけてフィルムで撮るのなら、少なくともネガだけは手元に保管しておいて欲しい。

カラーリバーサルフィルム

スライド用フィルムという別名を持つカラーリバーサルフィルムは、映画用フィルムから発展したポジ(陽画)フィルム。現像すると、見た目通りの色と明るさの像がフィルム上に現れる。これを一コマずつ切り離しマウントと呼ばれる紙製あるいはプラスチック製の枠に嵌めたものをスライドと呼び、プロジェクターを使ってスクリーンに画像を投影。プリントをすると数万円は掛かる大画面で作品が見られるだけでなく、大勢でスライドショーを楽しむなど、プリントでは体験できない可能性を秘めた写真の鑑賞方法のひとつと言えるだろう。

残念ながら新品のスライドプロジェクターは、今や入手不可能。だが中古カメラ店やリサイクルショップに行けば、意外と多くの商品が見つかるので、もし興味があれば早めに手に入れるべき。またスライド用マウントについても実はかなり厳しい状況にある。以前は、現像時に注文すれば、ラボの方でマウントに入った状態に仕上げてくれたが、このサービスはすでに終了。現像に出すとネガと同じように6コマずつに切り離し、スリーブに入った状態で戻って来る。そのためスライド上映する際は自分でマウントに入れるしかないが、そのマウントも今では店頭であまり見かけない。いずれにしても、スライドを上映する文化はもはや風前の灯。興味がある人は、今のうちに機材を揃えるなりマウントをストックするなど、何らか対策を講じておくことをお勧めする。

リバーサルフィルムは、カラーネガフィルムに比べてコントラストが高く鮮やかな色合いに仕上がる特徴がある。スライド上映だけでなくプリントも可能で、リバーサルフィルムから直接印画紙に焼き付けるダイレクトプリントを選べば、とても透明度の高い鮮やかでシャープなプリントが完成する。ただしプリント時の色補正の自由度が狭いので、撮影時に完璧な露出が要求されるなど、良い作品を仕上げるには、それなりの経験が必要。また通常のデジタルプリントに比べるとプリント代も割高になる。

カラーリバーサルフィルムをスライドプロジェクターで上映するには、フィルムを1コマずつ切り離してマウントに入れる※画像をクリックして拡大
コダック製のスライドプロジェクター。カローセルと呼ばれるタイプで、ドーナツ形のトレーにスライドをセット。リモコンでスライド送りができる※画像をクリックして拡大

他のフィルムと同様、リバーサルフィルムも感度の違うタイプが揃っている。富士フィルムの場合、ISO50とISO100の2種類。以前は高感度のISO400もラインアップしていたが数年前に製造中止。どうしても高感度で撮影したいときは増感現像という手もあるが、粒子が粗くなることは避けられないしラボによって対応が違うので事前に確認する必要がある。

このほかリバーサルフィルムは、仕上がりの色調の違うフィルムが用意されている。富士フイルムの場合、プロビアとベルビアの2種類があり、プロビアは被写体の色を忠実に再現。これに対しベルビアは、イメージカラー(記憶色)と呼ばれるタイプで赤緑色を強調。風景写真に人気がある。

リバーサルフィルム、カラーネガフィルムとも、現行のカラーフィルムは、太陽光下で撮影すると自然な色に仕上がるデーライトタイプという設計。さらに日中の太陽光を基準にしているので、朝夕の光が赤みがかった時間や曇天下で撮影すると不自然な発色になる。いわばデジタルカメラのホワイトバランス設定が陽光に固定されたようなもので、これを補正するには色変換用フィルターを使用する。なおネガカラーの場合、プリント時にある程度の補正ができるので、リバーサルフィルムほど、神経質になる必要はない。このほかスタジオ用白熱電球の色温度に合わせたタングステンタイプのフィルムも存在したが、もう何年も前に廃番になってしまった。

モノクロフィルムの種類

モノクロフィルム

かつてモノクロフィルムにも、低感度のISO32クラスから、超高感度のISO3200まで、様々なISO感度の製品が用意されていたが、現在ではISO100とISO400が主流。モノクロフィルムの場合、自家現像が可能なので、現像液の種類や現像時間などを調節することで、ISO感度の変更ができるので、撮影目的に合わせて幅広い感度で撮影が楽しめる。また、富士フイルムやコダックなど、大手フィルムメーカーが発売するフィルムの種類は決して多くないが、イルフォードやオリエンタルなどの老舗感材メーカーに加え、ドイツやチェコなどヨーロッパにもモノクロフィルムを製造するメーカーが存在し日本にも輸入されている。

いずれにしてもモノクロフィルムは、粒子をわざと粗くしたり、コントラストをコントロールしたりと、現像方法を変えることで様々なネガに仕上げることが可能。さらにプリント方法によって、自分の好みに合った表現ができるので、一概に「こんな撮影にはこのフィルム」といった説明がしにくい。

いずれにしてもモノクロ写真の世界は、突き詰めるとキリがないので、とにかく色々なフィルムを様々な条件で試してみて、自分好みの組み合わせを見つけるしかない。

またモノクロフィルムの場合、モノクロ専用フィルターを使えばコントラストの調整などができる。自家現像のハードルは決して低くないが、手軽に試せるという意味で、まずフィルターワークから初めても良いかも知れない。

35mmフィルムがいちどに4本処理できる現像タンク。モノクロフィルムは、使用する現像液の種類のほか、処理温度や現像時間を変えることで、自分好みのネガに仕上げることができる。※画像をクリックして拡大
代表的なモノクロ用フィルター。下段の2枚はコントラスト強調用で、オレンジの方がイエローより高い効果が得られる。写真には写っていないが、さらに高いコントラストを望むならレッドを使う。上段の緑色のフィルターは女性ポートレートで多用され、口紅の赤を落ち着いたトーンに再現する効果がある※画像をクリックして拡大

中村文夫|プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーをして独立。カメラ専門誌やWEB媒体のメカニズム記事執筆を中心に、写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深い。

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