「就活ブランド調査」そのイメージは正しいのか DXコンサルは苦言「具体的な取り組みもよく調べて」

就活生のイメージ調査は正しいのか? 口コミ就職情報サイトを運営するみん就は2024年4月12日、「DX企業就職ブランド調査」の結果を公表した。「メーカー」「金融」「インフラ」「メディア」「不動産」の5業界におけるDXブランドイメージランキングを算出、TOP10をランキング化している。

メーカーでは、1位がソニーグループ、2位がパナソニック、3位がトヨタ自動車。金融では、1位が三菱UFJ銀行、2位が三井住友銀行、3位がゆうちょ銀行。メディアでは、1位がサイバーエージェント、2位が電通、3位が博報堂だった。

新聞業界のDXランキングは「1位朝日新聞」でOK?

この調査は、2025年卒予定の学生を対象としたもの。日経X Techの企画協力により、164社のノミネート企業の中から業界ごとに「IT・デジタル活用・DXが進んでいると思う企業」を3社ずつ選択させて順位付け。さらに選択企業の選択理由を最大9つ選ばせている。

業界を細分化した業種別ランキングも集計しており、たとえばメディアを「広告」「出版」「新聞」「放送」の3つに分け、「新聞業界」のランキングは、1位が朝日新聞、2位が日本経済新聞、3位が読売グループ本社となっている。

この調査結果について、コンサルティング会社でDX支援を担当するAさんに感想を聞くと、「普通の大企業人気ランキングみたいですね。就活生相手のイメージ調査では信憑性が低いのでは?」と困惑気味だ。

たとえば、新聞業界でDXに最も本格的に取り組んでいるのは、1位の朝日新聞ではなく2位の日本経済新聞であることは「DX界隈では確実視されている」という。

実際、朝日新聞デジタルの有料会員数は30万件あまり(2023年9月末)だが、日経電子版の有料会員数は90万超、専門メディア「NIKKEI Prime」シリーズなど加えると100万件を超えているという(同年12月現在)。

「DXとはデジタル・トランスフォーメーションの略で、デジタルによってビジネスそのものの変革を目指すものです。紙媒体の部数減による収益悪化に悩む新聞業界において、デジタル活用にいち早く舵を切りビジネス変革に取り組んだ日経新聞は、朝日新聞よりもDXに熱心に取り組んでいる会社であるのは間違いありません」

2015年には英フィナンシャル・タイムズ(FT)を買収。グローバル報道の充実を図るとともに、FTのDXコンサルティング子会社の支援を受けて自社のDXに取り組んだ。

朝日新聞が1位になったのは「朝日新聞デジタル」や「アエラドット」といったデジタルメディアが就活生の目に触れる機会があったため、とAさんは推測しつつ、「それだけではDXの推進状況は図れない。日経のような『デジタルファースト』『読者ファースト』まで振り切れないと」と手厳しい。

「DXでできることはもっとたくさんある」

Aさんの見方では、日本企業のDXは「流行ワードとしてはかなり広がり、一部で過去のものとされてはいるが、本格的な取り組みはようやく始まったばかり」ということだ。

「DXというと、日本ではいまだに基幹システムの刷新やデータプラットフォームの整備のことのように思われている節があります。そのようなシステムの入れ替えを行っても、ビジネスが変わらなければDXとは呼べないし、DXでできることはもっとたくさんあります。こんなところで『やったつもり』になるのは危うい」

現在、大手企業の多くは「事業ポートフォリオの変革」を経営戦略に掲げている。既存事業の成長性が頭打ちになり将来性が乏しくなる中で、当面は既存事業の生産性を上げて収益を確保しつつ、新規事業の開発を行うことが急務となっている。

しかし、新規事業の開発は簡単ではなく、まずはデジタル技術を活用した既存事業の革新から新たな事業のタネを見つけることが必要だという。

「たとえば、化学メーカーにおいてAIを使って新材料開発を高速化する取り組みは、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)と呼ばれています。DXの取り組みの典型のひとつですが、こういった取り組みを積極的に行っている会社が、今回の調査ランキングの上位に入っていないのが気になります」

Aさんは就活生に対し、企業におけるDXの取り組み度合いは就職先を選ぶ基準のひとつになりうると強調し、「単なるイメージだけでなく、具体的な取り組みについても十分情報収集をした方がいい」と助言する。

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