【今週のサンモニ】「報道の自由度」ランキングを使ってミスリード|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

ランキングが低い理由の誤解

2024年5月5日の『サンデーモーニング』においては、国境なき記者団が毎年発表する報道の自由度ランキングについての報道がありました。2024年のランキングで日本は世界70位です。

実は、ランキングが低い理由について、日本社会では大きく誤解されています。これには『サンデーモーニング』をはじめとするマスメディアの欺瞞溢れるミスリード報道が関係しています。本稿で詳しく説明したいと思います。

昨年から二つ落として70位になったが……

膳場貴子氏:3日の金曜日です。国際ジャーナリスト団体、国境なき記者団は、この日、今年の報道の自由度ランキングを発表。180の国と地域のうち、日本は前の年から2つ順位を下げて70位に。トップは8年連続でノルウェーです。
ランキングは2002年から公表されていますが、日本は民主党政権だった2010年の11位を境に順位を下げ、2016年以降、G7の中で最下位となっています。今年の報告書では「政治的圧力や男女の不平等により、記者が権力を監視する役割を果たせていないことが日本ではよくある」などと指摘されています。

古田大輔氏:僕はこういう国際的調査をいくつかサポートさせてもらっている。いろんな批判もある。「70位って低すぎないか」とか「国によって状況が違い過ぎるからそんなに比較できないじゃないか」とか。なので、順位に一喜一憂するのではなくて、どこが問題として指摘されているかを見るべきだ。
今、利害関係とか、男女の格差の問題とか指摘があった。それ以外も指摘されているポイントがあって、例えば、記者クラブ制度の問題の閉鎖性の問題についても、毎年それで順位が低くなっている。僕も元々新聞記者をやっていた。で、新聞記者を辞めてバズフィードに入った。で、インターネットメディアです。ちょうど、オバマ大統領が来日すると。同行で取材したいと思って日本政府側に申請したら通らない。しょうがないからホワイトハウスに申請したら1日で通った。
そういうのを自分で体感すると、確かに記者クラブの閉鎖性というのは、問題視されて当然となる。なので、むしろ日本は「民主主義国家で言論の自由は保障されている」ということがランキングでも指摘されている。であるとするならば、むしろ報道業界の内部側に改善する所が一杯あるのかなと思う。

古田氏の言説はおっしゃるとおりです。膳場氏の説明は、異常なくらいに日本を貶めるミスリードが多分に含まれています。

まず、ランキングの順位は、数学的に重み付けされていない数値を単純に足し合わせていくという社会科学的根拠にかける数量(数学的には、目的変数である順位と説明変数との統計的関連性を検証して線形結合の計算式を確立することが必要)であり、古田氏が指摘する通り、国家間で比較するのは妥当ではありません。

また、「政治的圧力や男女の不平等」は、正しくは「伝統的あるいは商業的利益、政治的圧力、男女の不平等」です。番組は「伝統的あるいは商業的利益」というメディアの利害に関わる問題点を隠蔽しているのです。

Japan

順位を大きく落としたのは民主党政権時

「民主党政権だった2010年の11位を境に順位を下げ」と説明し、あたかも民主党政権の時代に報道の自由が守られていたかのように印象操作していますが、実際には順位を大きく落としたのは、民主党政権時であり、2012年に22位、2013年に53位となりました。

ここで、間違いやすいのですが、2012年12月26日に発足した第二次安倍政権は、前年から大きく低下した2013年の順位(2月3日発表)に影響を与えていません。2013年の順位は、民主党の野田政権に対する評価を反映したものです。

(TBS『報道特集』より引用)

2013年の順位が大きく低下した理由は何かと言えば、古田氏が指摘した通り「記者クラブの閉鎖性」です。これには確固たる証拠があります。

次のアドレスは既に削除済みの国境なき記者団のウェブページのログへのリンクです。

https://web.archive.org/web/20130122060735/http://en.rsf.org/japon-journalists-barred-from-anti-06-11-2012,43640.html

このページでは、2012年11月にフリーランスの記者が日本の記者クラブに完全に拒否されている生々しいやり取りが記録されています。

膳場氏が触れない大前提

また、この件を指摘する学術的研究も存在します。

「報道の自由度」ランキング、日本はなぜ61位に後退したのか? | 日本大学大学院新聞学研究科

そもそも、民主党政権が、極めて強力な政治的圧力をメディアに加えていたことはよく知られていることです。

松本復興相が宮城県知事を叱責しマスコミには「書いたらもう、その社は終わりだから」発言まとめ|ガジェット通信 GetNews民主議員「書いた記者を外せ!」 政権担当時にも報道圧力(1/2ページ)古舘伊知郎 報ステ時代の〝圧力〟暴露「民主党政権時代、大臣クラスからクレームが来た」 | 東スポWEB

さらに古田氏が指摘する通り、国境なき記者団は、日本を「民主主義国家で言論の自由は保障されている」と評価しています。この大前提を膳場氏は一言も触れませんでした。まさに「報道しない自由」の発動です。

もうこの番組はグダグダの偏向報道番組としか言いようがありません(笑)

ランキングを悪用して安倍政権批判

さて、このような事実関係があるにも拘らず、『サンデーモーニング』は、過去にこのランキングを悪用して安倍政権を徹底的に貶めてきました。具体的な例をいくつか紹介したいと思います。

<2015年2月15日放送>
アナウンサー:世界の国々でどれだけ自由な報道が認められているかを分析した報道の自由度ランキングが発表され、日本は61位でした。2010年は11位、その53、59と下げ、今年はさらに下がった形となりました。

関口宏氏:自覚症状ありませんか。

岸井成格氏:自覚症状はそんなになかったが、最近ちょっと大丈夫かなこのままでという感じはある。やはり一番大きな問題は自粛だ。非常に権力やそういう動きを気にし過ぎている。そうすると、必ず権力側はどんどんどんどん抗議したり、いろんなことをやってくる。そしてそれに応じざるを得なくなる。それの繰り返しが一番怖い。

田中秀征氏:小泉氏は叩かれた。ホントに叩かれた。人気はあったけれど。だけど小泉氏が言うには「仕事で叩いているんだから叩くんだ」と。

岸井成格氏:田中角栄氏もそうだった。「君らはそれが仕事だから」と。

関口宏氏:批判されてなんぼというところがある。権力者は。

大宅映子氏:批判がなかったら大変なことになる。

このスタジオトークでは名前は出さないものの、明らかに安倍氏を陰湿に非難しています(笑)。そしてこの非難は、その後に何度も執拗に繰り返さたのです。

<2015年4月19日>
アナウンサー:こちらは世界180カ国を対象にどれだけ自由な報道が認められているかというランキングなんですが、日本の評価を見てみますと2013年の発表で大きく順位を下げています。これは福島第一原発事故に対する情報の不透明さが問題とされたためですが、それ以降もどんどん順位が下がっていき、2015年の発表で61位となっています。

関口宏氏:メディアの大事な使命というのは権力をチェックすることであって、そこが緩くなってくるとこういうランキングがどんどん下がって来ちゃう。

<2016年4月24日>
アナウンサー:ジャーナリズムをめぐる危険な状況。特に日本についてはここに来て気がかりなデータがあります。国際NGO国境なき記者団が発表する報道自由度ランキングで日本は2010年の11位から最新調査で61位と、先進国で最下位に転落。その理由として特定秘密保護法の制定などが挙げられています。

2013年10月国会提出・2013年12月可決・2014年12月施行の特定秘密保護法の制定が順位を落とすのに寄与した可能性はあります。

しかしながら、その影響は、記者クラブの閉鎖性の影響の大きさに比べればかなり限定的です。なぜなら多くの先進諸国には、日本の特定秘密保護法よりもよっぽど広範で厳格な規制が存在しているからです。

報道圧力はメディアの妄想

<2017年4月30日>
関口宏氏:国際ジャーナリスト団体の国境なき記者団が2017年の報道の自由度に関する調査結果を発表。日本は180カ国中72位、G7のうち最下位でした。調査では2012年安倍政権誕生以降、報道の自由度は下がっていると指摘。特定秘密保護法などについて批判もしています。

青木理氏:特定秘密保護法もありましたし、テレビメディアへの恫喝的な「停波もあり得る」という発言もあって、政権の振る舞いというのが、勿論大きな原因ではあるが、ある意味、僕たちジャーナリストやメディアの通信簿みたいなものなので、非常に恥ずかしいなと。今回韓国は順位を上げた。朴槿恵政権の実態をメディアが中心になって追い詰めた。森友学園の問題で財務省が知らない何も答えないという態度だったら韓国だったらこんなもんじゃ済まないだろうと。僕らが見倣わないといけない。来年の通信簿はもう少し上げなくちゃいけない。

岸井成格氏:メディアがよっぽどしっかりしなければいけない。外国人特派員協会に必ずそういうことを言われる。「日本のメディア、何でこんなことを黙っているの。ここまでやられて」といわれる。安倍内閣ができるまでベストテン前後だった。それが特定秘密からどんどん落ち始めて、おそらく今度、共謀罪が強行採決されると、また来年は下がる。

岸井氏のこの言説はデタラメもいいところです。

ランキングの順位は安倍内閣ができる前に53位まで落ち込み、その主要な原因は、菅直人内閣による原発報道の規制と記者クラブの異常な閉鎖性でした。

またテロ等準備罪が成立しても順位は低下することなく、むしろ上昇しました。当然です。テロ等準備罪は報道の自由とは無関係であるからです。報道の自由度ランキング8年連続トップのノルウェーをはじめとしてTOC条約に署名している約150カ国には既にそれなりの規制が存在しています。

安倍氏が報道圧力を加えたというのは、基本的にマスメディアが造った妄想です。安倍氏はむしろマスメディアにいくら理不尽に叩かれても怒りを返すようなことはありませんでした。もう遅いとは思いますが、安倍氏を理不尽に叩いたマスメディアは安倍氏に心から謝罪すべきであると考えます。

なお、『サンデーモーニング』は、立憲民主党・小西洋之議員によるNHKとフジテレビに対する過激な報道圧力の事実を報じることなく完全にスルーしました。

【主張】小西氏のサル発言 品性欠く攻撃にあきれる

また、経済的利益を示唆して報道圧力をかけていたジャニー喜多川氏が他界した時には丁重に追悼特集を放映しました。このような仰天の偏向報道番組に「報道の自由」など語る資格はありません!

藤原かずえ | Hanadaプラス

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