ライアン・ゴズリング主演『フォールガイ』北米No.1 “スーパーヒーロー不在”で夏が始まる

スーパーヒーロー不在のまま夏が始まった。コロナ禍に見舞われた2020年、2021年を例外として、2010年からほとんど毎年のようにハリウッドのサマーシーズン開幕を飾っていたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品は、今年その姿をまだ見せていない。2024年5月3日~5日の週末は、過去15年で最もゆるやかな“夏の始まり”となった。

ランキングの第1位は、ライアン・ゴズリング主演の痛快アクション『フォールガイ』。北米4002館で2850万ドルを記録したが、残念ながら事前に予想されていた3000万~4000万ドルには及んでいない。

本作は、一線を退いたスタントマンのコルト(ライアン・ゴズリング)が、元恋人のジョディ(エミリー・ブラント)が監督する映画でハリウッドに復帰するも、因縁のある主演俳優トム(アーロン・テイラー=ジョンソン)が失踪したことから思わぬ事件に巻き込まれていく物語。80年代の人気TVドラマ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』の映画化作品で、『ブレット・トレイン』(2022年)のデヴィッド・リーチが監督を務めた。

本作のオープニング興行収入は、主演のゴズリングにとって『バービー』(2023年)と『ブレードランナー 2049』(2017年)に次いでキャリア史上第3位。近年ますます観客に愛され、スター俳優としての存在感を高めているゴズリングだが、映画館での出口調査によると、観客の50%が「ライアン・ゴズリングが出ているから」本作を鑑賞したと答えたという。

『フォールガイ』は批評家・観客の評価も高く、Rotten Tomatoesでは批評家スコア83%・観客スコア88%を記録。出口調査に基づくCinemaScoreでも「A-」評価と、実際に映画を観た者の満足度が高いことを物語っている。リーチ監督の『ブレット・トレイン』も初動成績はやや苦戦したが、その後の口コミで数字を伸ばしたため、同様の健闘が期待される。

最大の課題は、ユニバーサル・ピクチャーズが本作に1億3000~4000万ドル(推定)の製作費を投じていることだ。海外興収は3690万ドル、世界累計興収は6540万ドルのため、黒字化の道のりは相当遠い。日本公開は8月16日とまだ少し先だ。

第2位は、1999年公開『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の公開25周年記念特別上映。ドラマ『スター・ウォーズ:アコライト』の特別映像を含む特別仕様で、「スター・ウォーズの日」である5月4日(May the 4th)を記念して日本を含む世界各国で実施された。北米興収は3日間で808万ドル、世界興収は1448万ドルとなっている。

映画『チャレンジャーズ』予告編
先週の第1位だった、ゼンデイヤ主演&ルカ・グァダニーノ監督『チャレンジャーズ』は第3位へランクダウンしたが、週末興収は764万ドル(前週比-49.1%)と粘り強い結果を見せた。北米興収2946万ドル、世界累計興収5226万ドルという成績は、製作費5500万ドル+広報・宣伝費というコスト面を考えると厳しいが、前回ご紹介したように、配給のAmazon・MGMは劇場興行の数字だけでなく、配信を見据えた独自の視点で本作を捉えているようだ。

第4位に初登場した『Tarot(原題)』は、ソニー・ピクチャーズ製作の低予算ホラー。呪われたタロットカードに封印されていた悪魔を解放してしまった若者たちの物語で、3104館にて650万ドルを記録した。製作費は800万ドルで、ソニーが初めて宣伝をネットに絞り込み、テレビCMや街中の広告掲示を一切行わなかったという実験作だ。もっとも、Rotten Tomatoesでは批評家12%・観客58%、CinemaScoreでは「C-」と評価面はかなり渋く、興行的な展望は決して明るくない。

「スーパーヒーローの不在」はサマーシーズンの幕開けに少なからぬ影響を与えており、北米市場全体の週末興収は7300万ドル。マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(2023年)が1億1841万ドルという猛烈なスタートを切った1年前と比較すると、全体の数字は55%と約半分だった。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が公開された2022年と比較するとじつに約3割の成績である。

もともとディズニー&マーベル・スタジオは、5月3日に『デッドプール&ウルヴァリン』を公開予定だったため、今年のサマーシーズンも本来はスーパーヒーローとともに始まる計画だった。しかし、2023年の全米脚本家組合&全米映画俳優組合によるWストライキで製作が遅延し、公開延期を余儀なくされている。業界としては同作のほか、『怪盗グルー』シリーズの最新作『Despicable Me 4(原題)』やピクサー映画『インサイド・ヘッド2』などの到着を待っている状態だ。

しかしながら、仮に『デッドプール&ウルヴァリン』が予定どおり夏の始まりを告げていたとして、現状をどれほど上回る結果となっていたかはわからない。2023年はマーベル映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』と『マーベルズ』、DC映画『ザ・フラッシュ』がいずれも興行的にふるわず、スーパーヒーロー映画の斜陽がよく語られた年でもあったのだ。かの『デッドプール』でさえ、どれほどの求心力を保っているかは実際のところ未知数だろう。7月26日の日米同時公開後、スーパーヒーロー映画の「今」が明らかになるはずだ。

北米映画興行ランキング(5月3日~5月5日)
1.『フォールガイ』(初登場)
2850万ドル/4002館/累計2850万ドル/1週/ユニバーサル

2.『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』25周年特別上映(初登場)
808万ドル/2700館/累計808万ドル/1週/ディズニー

3.『チャレンジャーズ』(↓前週1位)
764万ドル(-49.1%)/3477館(変動なし)/累計2946万ドル/2週/Amazon・MGM

4.『Tarot(原題)』(初登場)
650万ドル/3104館/累計650万ドル/1週/ソニー

5.『ゴジラxコング 新たなる帝国』(↓前週3位)
450万ドル(-37.7%)/2884館(-428館)/累計1億8806万ドル/6週/ワーナー

6.『Civil War(原題)』(↓前週4位)
355万ドル(-48.2%)/2689館(-829館)/累計6200万ドル/4週/A24

7.『Unsung Hero(原題)』(↓前週2位)
300万ドル(-61.2%)/2832館(変動なし)/累計1314万ドル/2週/ライオンズゲート

8.『Kung Fu Panda 4(原題)』(↓前週7位)
240万ドル(-33.3%)/2380館(-387館)/累計1億8834万ドル/9週/ユニバーサル

9.『Abigail(原題)』(↓前週5位)
230万ドル(-55.8%)/2638館(-755館)/累計2279万ドル/3週/ユニバーサル

10.『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』(↓前週8位)
180万ドル(-44.6%)/2025館(-602館)/累計1億990万ドル/10週/ソニー

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年5月6日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W18/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/box-office-fall-guy-phantom-menace-1235890470/
https://variety.com/2024/film/box-office/box-office-the-fall-guy-opening-weekend-ryan-gosling-summer-movies-1235992369/
https://deadline.com/2024/05/box-office-the-fall-guy-ryan-gosling-1235903586/
(文=稲垣貴俊)

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