金沢避難で「空室なし」 家族向けアパート「特需」 転勤族、引っ越し難民に

部屋探しの相談に応じるスタッフ。金沢市内の賃貸物件では家族向けの部屋が不足している=同市内の不動産賃貸業者

  ●1カ月ホテル住まいも

 金沢市内のアパート賃貸業者が扱う物件のうち、比較的広いファミリー向けの部屋で「空室なし」の状況が続いている。能登半島地震の被災者が「みなし仮設住宅」に使ったり、被災地支援の拠点として入居したりするケースが増えているためで、この春に金沢暮らしを始めた転勤族の中にはホテル住まいを余儀なくされるケースも。仮設住宅の建設は進められているものの、希望者全員の入居にはまだ時間がかかりそうで、故郷を離れなければならなくなった人たちによる「特需」が引っ越し難民を生んでいる。

 「まさか5月になっても住む部屋が決まらないなんて思ってもみなかった。これまでの転勤生活で初めてですよ」

 4月1日付で全日本空輸金沢支店に転勤した花井宏樹支店長(49)は困惑した表情でそうこぼす。支店に近い金沢駅周辺で部屋を探したが、予算に合う物件が見つからず、着任以降、ホテル暮らしだという。

 ようやく転居先が見つかったのは4月下旬になってから。5月17日に移ることが決まった花井さんは「他の人に取られたらいけないと物件の内容はほぼ確かめずに決めたけれど、やっと落ち着いて過ごせる」と1カ月余り待った新生活を心待ちにした。

 地震後、金沢市内のアパートなどの賃貸物件は、能登で被災した家族などが仮住まいとして入り、2LDKを中心にファミリー層が使いやすい部屋がどんどん埋まった。そのため、家族連れの転勤者らの部屋探しがピークとなる3月後半以降、供給不足の状態となっている。

 不動産賃貸業のアーバンホーム(金沢市)では、駅周辺で扱う2LDK以上の部屋がほぼ満室。来店客には、希望のエリアを広げることで要望に合いやすい部屋が見つからないか促すことが多いという。

 「最近は県外からの転勤者も広い部屋を選ぶ傾向があり、避難者のニーズとかぶってしまった」。クラスコ(金沢市)の担当者は転勤者の部屋探しが難航する理由をこう説明する。

 同社でも2DK以上の部屋はほとんど埋まり、空き物件そのものも例年より4割ほど少ない。家賃の上限などの条件を見直すことで引っ越し先が見つからないか、検討を求めている。

 石川県が建設する仮設住宅は4月末時点で9市町の計5687戸が着工したが、市町から要望があった約6400戸の完成は8月になる見通し。それでも能登ではライフラインが復旧し、能登に戻る人も少しずつ出ている。アーバンホームの担当者は「家族向けの物件は連休明けぐらいから空きが増えてくるのではないか」と話している。

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